エピソード 116
「オマエ、オレのコト、クウってイッタ。オマエはイヤダ」
「食べるなんて言ってないわ、丸焼きよ!ってかもうしないんだからいいでしょ?!アタシも乗せなさいよっ!」
キョダイクと意地悪王様がケンカ中。
丸焼きにするって言ったエルヴァンさんと根に持ってるキョダイク。まぁ気持ちはわかるけどさ。
「キョダイク、エルヴァンさんにも一緒に来て欲しいの。乗せてあげてくれない?」
「・・・シトサマがイウなら・・・けど、アシにツカマルだけ」
譲歩してはくれたけど、危険なスタントまでかぁ~。
チラ、とエルヴァンさんを見ると、「うっ!」って顔をしてる。多少は自分が悪いと思ってる顔だな、あれは。
「・・・っいいわよっ、足でっ!捕まってきゃいいんでしょ!その代わり、キトルちゃん手伝ってよね」
半ばやけくそみたいな感じで了承。手伝うって命綱的なのを出してって事かな?
と思ったんだけど。
「コレ、ジャマ・・・」「仕方ないでしょ?落ちたらカエルまみれで汚れるじゃない」
言われるがままにツルを出してあげたら、キョダイクの大きな足に抱きついたエルヴァンさんの身体ごと身動きが取れないほどグルグル巻き。
「これが一国の王様の姿なんすからねぇ」
「エルヴァンさんちょっとカッコ悪いですねっ!」
「これ取り外すのも私なのでは?」
三者三様の感想も「おだまりっ!」の一喝で吹き飛ばされる。
「さぁ、行くわよっ!」
ダッコちゃん陛下の掛け声で、キョダイクの上にヘブン、私、ナイトの順に乗って羽に捕まる。意外とフワフワ。
頭の上から「スルザイクに乗れるなんて・・・」ってオタクボイスが聞こえた気がしたけど、触れないでおこう。
キョダイクが大きな羽を一度、二度羽ばたかせると、ふわりと身体が浮かび上がる。
「うわぁっ。すご~い、飛ん・・・ぎゃぁぁぁぁぁ」
あとから思い返せばそりゃそうなのよね。見た目からして猛禽類なんだし、地上に向かって降りるって事は頭を下にした自由落下。
「んぎぇぇぇぇぇぇぇ」って国王陛下とは思えない声がちょっと離れた所から聞こえるけど、それどころじゃない。
顔に当たる風で口は開くし歯茎は乾くし目は見開いたままだし、リアクション芸人さながらの顔芸を繰り広げる事数秒。
地上にぶつかると思った瞬間にスピードそのまま平行な状態に戻り、顔が元に戻る前に泥地じゃなく大きめの岩の上に着地した。
「く、口が・・・ナイト、何か、飲み物、ちょうだい・・・」
「あ、へい」
何でナイト平気そうなんだ。オタク傭兵だからか?
エルヴァンさんなんて見てみなよ、恐怖で髪の毛真っ白になっちゃってるじゃん。あ、アレは元からか。
魔法バッグから取り出された水を飲んで顔に水分を取り戻してるとナイトが嬉しそうに「いや~スルザイクが獲物を取る時のスピードはシグルフの雷より早いなんて言われるんすけど、早かったっすね~」なんてほざいてる。
知ってるんなら教えといてよ。
ヘブンも「早かったですね~」なんて平気そう。フェンリルだからか?
取り合えす抜け殻みたいになってるエルヴァンさんを助けてあげて、キョダイクにお礼を言う。
「キョダイク、ありがとう!もう戻って大丈夫だよ。約束お願いね?」
「ワカッタ!シトサマのヤクソク!キョダイク、ヤクソク、マモル!」
また上を向いてピィィィィィィと叫ぶと、羽を広げて・・・
「あっ!」
思い出した!
「キョダイク!さっきのとこにあるリンゴ、えっと、木の実、食べていいからね?」
「ピッ?!」
おぉ、鳥が驚いた顔って初めて見たかも。これが鳩が豆鉄砲を食ったような顔?
「ピィィィィィィィィ!シトサマ、ダイスキ!オレ、ゼッタイヤクソクマモル!」
広げた羽を閉じるとトコトコと近付いて頭を下げて頬にスリスリしてきた。あら可愛い。
そしてまたバサッと大きく羽を広げると、一度大きく羽ばたいただけで高く舞い上がった。
「シトサマ!そのヒトにイジメラレタラ、オレにイウ!オレ、タスケにイク!」
「いじめないわよっ!」
生気を取り戻してきたエルヴァンさんにツッコまれると、そのまま風に乗ってはるか上空へ舞い上がり、小さな点になり見えなくなった。
「は~嵐が去ったわ・・・。あの子の名前、アラシで良かったんじゃないの?」
どちらかと言うとエルヴァンさんの方が似合いそうだけど。
「でもカエル地帯は抜けたし、結構進んだから時間は短縮出来ましたよ」
ナイトが喋りながら魔法バッグに手を突っ込み、疲れみ地図を探す。
「せっかく道案内のつもりで付いて来てるのに、こう予想外のことが続くと役に立てる機会が無くなっちゃうじゃないの。そりゃアタシが付いて来るだけで士気は上がるだろうけどォ」
「はいはい・・・あれ?」
ガサガサと地図を広げたナイトが首をかしげる。
「どうしたの?アタシの美髪が乱れてるって?」
髪を整えながらエルヴァンさんが聞き返すが、それを無視してナイトが続ける。
「目的地・・・着いたみたいっす」
んん?
ナイトの地図を覗き込むと、点滅する光だけで赤い線は見えない。
ナイトと二人、いや、ヘブンとエルヴァンさんも一緒に、視線を落とす。足の下には、大きな岩。
「これ?!」「・・・みたいっすね」「あ、確かにお花の形してますねぇ」「こんな所だったかしら?飛んで来たから近く感じるわ」
花の形をした岩の上に乗ったまま驚く一同。言われてみれば、あの石に近付いた時の感覚があるような。
「キトルさま、いつもみたいに何か感じなかったんですか?」
「だって顔面ストッキングみたいになってたし、それどころじゃなかったんだもん」
「また変な事言って・・・」
「ちょっと待って、大変!」
エルヴァンさんが手を前に出し、皆の動きが止まる。
「今気づいたんだけど・・・カエル地帯を抜けたからここに下ろしてくれたわけでしょ?」
そうね、そのはず。
「前回は戻されたりしたけど、帰りの日数で考えてここから首都まで四日半。今回一日半でカエル地帯に入ったわよね・・・」
うんうん、つまり?
「って事は、人の足で三日分の広さにミルドロッグが大繁殖してるって事?!」
うげっ。何考えてるのかと思ったら。
「首都に帰ったら討伐隊を組まなきゃ。もしミルドロッグのスタンビートなんて発生したら最悪だわ。アタシの美しいお城が土色に水色の水玉模様になっちゃう!」
王様らしいこと考えてるのか何なのか・・・。
「もういいっすか?」ナイトがそう言うと、ヘブンを抱いて岩から飛び降りる。
「ほら、エルヴァンさんも離れないと」
「あぁ、そうね。また帰ってからネルガスに相談しましょ」
と言い残してヒラリとナイトの横に降り立つ。
三人が少し離れて、私が力を込めるのを待つ。
さてさて、じゃあしっかりお仕事こなしてやろうじゃないの!




