エピソード 115
「オマエじゃないシト、オレにキのミくれた。オレそれタベてココのヌシなった」
花のつぼみから頭だけ出した状態で鷹のような鳥が片言で話してる。こういうオモチャありそう。起き上がり小法師みたいな。
「木の実・・・?そんなのあげたかしら?」
元従者のエルヴァンさんが首をかしげると、ヘブンも真似して首を傾ける。ん〜キュート。
「オマエたちがアルイタあと、シト、キのミたくさんオイテッテくれた。アレ、オレのため」
「・・・食べ残しかしら?」
Oh・・・食べきれなかった木の実を自分の為だと思ったのか。
「ダカラ、オレ、シトにはヤサシクする。でもソラはダメ。シタをトオルはイイ」
「その状態でよく偉そうに出来るな」
ナイトが巨大鳥の後ろから肩に剣を置いて呆れた声を出すと、グルンと首を回したので思わず「ひぃっ!」って声が出た。
顔は鷹っぽいのにそういうとこはフクロウみたいなのか。首もげたかと思ってビックリした。
「ココオレのトチ。トオルのオレのキョカイル」
「あのねぇ、ここはアンタの土地じゃなく、ア・タ・シ・の、国の土地なの!まったく・・・どうしてやろうかしら?丸焼き?」
国王様がオネエ口調で物騒な事を言うもんだから、巨大鳥が「ピッ!!」と似つかわしくない可愛い声を出して震えだす。
う~ん、プルプルされると、薄ピンクのつぼみの身体に頭だけ出した姿がだんだん可愛く見えてきちゃうぞ?少なくとも下界で繰り広げられてるカエル大戦争よりは可愛げがあるわ。
まぁ人やアイスエルフが勝手に国って決めただけで、自然は誰のものでもないし。この子が自分の土地って主張するのも、エルヴァンさんが自分の国っていうのも同じだもんね。
「エルヴァンさん、私が決めていいですか?」
私を見て一瞬驚いたように目を見開いたけど、すぐにふわっとした笑顔になる。
「もちろんよ。使徒様の言う事は絶対だもの。キトルちゃんってば、もうちょっと偉そうにしてもいいのよ?」
う~ん、謙虚な元日本人には限度がありますなぁ。
「ね、鳥さん。人を襲わないって約束してくれる?地上でも、もし空を飛べる人がいても、通らないように声をかけて追い払うだけ。出来る?」
「空を飛べる人なんて使徒様以外に居なくな~い?」ってエルヴァンさんが呟いてるけど、某スチームパンクの国では近い未来、人が飛んでると思うんだよね。
「シトがイウならヤクソクする。でもオソッテキタら?」
「その時はやり返していいよ。あなたの安全も大事だからね。ただ最初は人を襲わず、この辺に入らないようにして欲しいの。あと・・・カエルが大繁殖しないようにして欲しい」
これは本気でお願いしたい。切実に。
「デキル!オレ、ヤクソクする!」
ピィィィィ~!とクチバシを天に向け、高らかに鳴き声を上げる。
「そうね、この子がこの辺の管理をしてくれるのなら助かるわね。どうせ人は住まないし、共存も大事だし」
王様も納得のご様子。良かった良かった。
「あと、オレ、シトにオネガイがある・・・」
つぼみを開いて解放してあげようとすると、巨大鳥さんが呟いた。ナイトがつぼみの花びらを剥くのを手伝いながら「様を付けろ、様を」って横からうるさい。
「お願い?なに?」
「オレもナマエほしい。そのフェンリル、ナマエある」
巨大鳥がの視線の先にはヘブン。「ワタクシですかっ?!」と変な声を出して驚いてる。
「マエのシト、サマ、もフェンリルにナマエつけてた。オレもホシイ!」
あ~、ポチってやつ?いやでもあれはポチ(仮)なんだけどね。
「まぁ名前くらいならいいよ~どんな名前でもいいの?」
「ハイっ!」
つぼみから解放されて羽をバサァと広げる。でかっ。
「ん~巨大な鳥の・・・ナイト、この子ってなんて種類の鳥だっけ?」
「スルザイクっす!大型の魔物鳥の中でも一、二を争うその大きさは小型のドラゴンとも言われるほどなんすよ!その生態の全容はいまだ解明されていないと言われているんですが、強風の中にしか住処を作らないと言われてるので研究者の間では」
「ああ、もういいもういい」
やたら饒舌になったな。ナイトって実は魔物オタクだったり?
「ん~巨大鳥のスルザイク・・・よし!キョダイクで!」
「げっマジっすか」「えぇ?!キトルちゃんってば・・・」「さすがキトルさま!」
ん?なによ。変な名前なの?
「キョダイク!オレのナマエはキョウからキョダイク!!」
ピィィィィィィと巨大鳥、もといキョダイクは羽を広げて雄たけび?を上げる。
「ねぇ、なんでそんな反応なの?」
キョダイクに聞こえないようにナイトに小声で聞いてみる。
「いやあ、子供の頃に聞かされる話で、水辺に一人で近づいたらキョダイクが襲ってくるぞってのがあるんすよ。実際にいる魔物の名前じゃないんで、別にいいと言えばいいんすけど・・・」
あぁ、子供に言い聞かせる的なやつね。
「うちの国にも同じ話が伝わってるわよ。一人で雪道を歩くと、氷の張った池に落ちてキョダイクに食われるぞっての」
そうなの?有名なんだね。
「ただ、ねぇ?」「そうっすね・・・」
何故か二人が顔を見合わせている。
「そのキョダイクってのが、人の顔を持つデカい魚って話なんすよ」
「あと手と足があって悪い子を猛スピードで追いかけて来て、口から黒い水をかけていくの」
「え、そうなんすか?アルカニアでは顔中舐め回されるんすよ」
何だその怖い話。下手な怪談より怖いぞ。
「まぁでも本人?本鳥も気に入ってるし、別に本当に居る訳じゃないならいいよ。もう今さら違う名前って言っても聞きそうにないし」
巨大鳥のキョダイク君は空中に浮かぶ苔床の周囲を飛び回ってピィィィィと喜びの歌を歌ってる。
「さて、結局空からは行けない訳だし、下のカエル地獄が片付くまでは結局ここで待つしかないのか~」
「シトサマ、ミルドロッグ、カエルキライか?」
「大嫌いでございますですよ」
そりゃパステルグリーンで小指サイズの雨上がりにいるような可愛らしいフォルムとお目目をしたアマガエルを画面越しに見るくらいなら出来るけどさ。あのキモデカいのは論外よ。
「じゃあシトサマ、オレのセナカノル!カエルイナイトコロまでオレ、トンデク!」
んまっ!ホント?!なんてイイコ!
鶴の恩返しならぬ、キョダイクの恩返しなんじゃないの?!




