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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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114/147

エピソード 114

「だからぁ、アタシは他のアイスエルフと違って魔力量が多い分、回復も早いのっ。だからこんなに美しいってわけよ!」


「ねぇちょっと」


エルヴァンさんが肩にかかったシルバーの美髪をサラッとかきあげながら自慢げな顔をすると、私の呼びかけを無視したナイトが空に浮かぶ苔床の上に生やしたリンゴの木から実を一つ手に取る。


「魔力量と回復が早いのと見た目との関係がさっぱりなんすけど」


「ねぇってば」


「ナイトさんっ!多分エルヴァンさんは言ってるだけなんですから、うんうんって聞いてあげればいいんですよ!前の使徒様がそう言ってました!」


私の声が聞こえてないのか、五個目のリンゴを食べ終わったヘブンが顔を上げて無邪気な顔で話す。


「・・・あの子なんて事教えてるのかしら」


「も~!なんで皆そんなに平然としてるの?!」


デカミントを燃やして約一時間。のんびりおやつタイムを楽しんでたら、首都の方向から白い鳥の集団が興奮した様子で猛スピードで飛んで来た。


そのまま私達めがけて突っ込んでくるかと思ったら、手前で急カーブを描いて下降。地面を埋め尽くすように蠢くカエルを捕食し始めて三十分ほど。


そこからはもう地獄絵図・・・。


白い羽をどす黒い緑の体液で汚しながらカエルを狩る鳥と、抵抗して高くジャンプしながら鳥に襲い掛かるカエル。それはそれはグロ・・・いや、弱肉強食を物語るようなグロ、いや厳しい光景が苔床の下で広がっているのだ。


「んなこと言ったって、このまま数が減るのを待つのが一番平和じゃないっすか?」


「違うよう・・・こんな音と臭いの中でよく食べたり普通に出来るなぁって事よぉ・・・」


すんごい血の臭いと、耳を澄まさなくても聞こえる「グエエエッ」とか「ギャオウッ」って声とブシュウとかビチャってナニカの水音・・・う~気持ち悪い。


「キトルちゃんはこういうの苦手なのねぇ。セレナちゃんは魔獣同士の戦いとか肉の解体とか平気だったから、使徒様はみんなそうなのかと思ってたわ」


おいおいセレナさん強すぎない?元気いっぱいの恋する女子高生でグロ耐性アリとか最強じゃないの。


「ワタクシちょっと思ったんですが、このまま空から石の所まで行ったらダメなんですか?安全だし汚れませんよ?」


「確かに!それならカエルも居ないし安全だしカエルも居ないね!」


それだ!ヘブンってばナイスアイデア!


「やぁねぇ、ポッちゃんってば。忘れたの?セレナちゃんも同じような事考えて風に飛ばされたじゃない。ほら、雪花樹の上に落ちたけど、沼地に生やしたからすぐ倒れて泥だらけになった時よォ」


「・・・っあ〜、アレってその時でしたっけ?」


なんか同窓会で昔の話してるみたいな雰囲気。


「つまり上から行くのは無理って事ですか?」


風くらいなら何とかなりそうな気もするけど・・・。


「そうね、五日かけて行った道のりを四日分戻ったくらい飛ばされたわ」


五日かけて行って四日分戻るって・・・ほぼスタート地点じゃん!


「セイクリッド山から吹き降りてくる突風がちょうどその辺の空中で吹き荒れてるのよ。気分的には巨人の手の平で押し戻された感じだったわ~。怖かったけど、懐かしい冒険の日々・・・試しにやってみる?」


これはエルフジョークなのか本気なのか判断が難しいぞ。


「あと、あの時はまだ小鳥だったけど危険な魔物鳥が」


バッサバッサバッサ


「そうそう、アレよアレ」


エルヴァンさんが指さした方向から飛んで来たのはフクロウと鷹の間のような鳥。でも、私が知ってる鷹の二十倍くらい大きいんだが?


「え、スルザイクじゃないっすか!俺本物見たの初めてっす!」


何故か興奮するナイト。完全に獲物を見る猛禽類の目をしてらっしゃいますけどっ?!


「ポッちゃん!私が風を出すから、炎で一気に温めて!」


「はいっ!」


そう言うとエルヴァンさんが両手を前に出し、強い風が前に向かって吹く。


あれ?アイスエルフって冷たくなるような魔法しか起こせないんじゃなかったっけ?


「キトルさま、離れないでください」


ナイトが私の後ろに立ち肩を持つ。


ヘブンが吹き出した細く遠くまで伸びる炎がエルヴァンさんの起こした風に触れた瞬間、白濁した霧が生まれ、視界を覆っていく。


「『白焔の吐息』っす。首都で昔買った前の使徒様について書かれた本に乗ってたんすけど・・・本当に見れるとは」


ナイトの顔がぼやけて見えないけど、声が嬉しそう。


「何そのダサい名前。こんなのアタシとポッちゃんの『愛の共同作業』に決まってるじゃないの!」


エルヴァンさんの声が霧の中からすると、その横から「そうですよ!ワタクシ達仲良しですから!」とヘブンの無邪気な声も聞こえる。


「いや〜二人ともホントに従者だったんすね」


「アンタ、アタシたちの事なんだと思ってたのよ!!」


「オネエ陛下とワンコかと」


「「失礼な!!」」


従者ズは顔が見えなくても漫才出来るのね。


しかし見えなくなっただけであの巨大猛禽類が居なくなったわけじゃない。そう警戒する気持ちに反応したように、ヒュウっと風が吹き少しずつ視界がクリアになっていく。


「どこにいる・・・?」


ナイトが剣を抜いて私を守るように背中を合わせ、すぐ目の前のヘブンとエルヴァンさんの輪郭もハッキリと見えてきた。


霧が出る前に巨大鳥がいた場所には穏やかな空が広がっている。


どこだ・・・?


「上だっ!」


ナイトの声で顔を上げようとした瞬間、バサッと降りかかる大きな影。


「そりゃあ!!」


完全に私だけを狙ってきた鋭く光る爪に捕まれそうになった瞬間、勢いよく体育座り!


でしょうね、知ってたさ!狙うとしたら一番戦闘力低そうな私だってね!わかってたから構えてたのさっ!


何もない空間を掴んでバランスを崩した巨大鳥、そこに芽を出してパクンと食べちゃったのは、吹雪でお世話になったつぼみシェルター。でも大きすぎて身体は捕らえたんだけど、首から上は出ちゃってる。


「はっは~ん!ざまあみろ~っだ!」


つぼみの横に体育座りしたままだと噛みつかれそうなので、サカサカと四つん這いで逃げながら巨大鳥を馬鹿にする。


「キトル様・・・何かカッコ悪いっす」


「なっなんでよ!華麗に捕まえたじゃん!」


「キトルちゃん・・・ごめんね、擁護できないわ」


まさかのオチャラケ陛下にまでっ!


ヘブンを見ると「ワタクシとお揃いですねっ!」と四つん這いを喜ばれる。


なんでだ・・・頑張ったのに。


仕方なくつぼみから少し離れた所で立ち上がると、声が聞こえた。


「オマエ、ミドリのツカイテか?」


・・・誰だ?っていうか、この展開だともしや。


「オレ、ココのヌシ。オマエがミドリのツカイテならトオルキョカ、ダシテやる」


やっぱり~・・・巨大鳥さん喋れるんじゃん。


意思疎通が出来るんなら、次からはまず話しかけてもらおうじゃないのっ!

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