エピソード 113
「エルヴァンさんっ!コレもっ!尻尾のも凍らせてくださいっ!」
「ちょっと待ってちょうだい!こっちを先に・・・あぁっ!アタシのお気に入りのブーツがっ!」
「なんでそんなもん履いて来てんすかっ!うえっ!コイツ噛みつきやがった!」
「いやぁぁぁぁ気持ち悪いぃぃぃぃ」
お城を出て順調に道のりを進み、野宿して次の日。
所々に氷の張っていた雪道が徐々にふわふわの雪道となり、その雪も解けて普通の道になり、歩きやすいね~なんて呑気に話してた矢先。
突然歩きにくい道になったと思うと足を取られるようになり、ズブズブと足が沈む泥道になった。
幸い、沼地というほどではなく歩きにくいだけだから元の大きさになったヘブンに私だけ乗せてもらって進んでいたら、今度は大量の・・・カエル。
ミルドロッグっていう沼地に住む魔物のカエルで、何か魔法でも使うのかと思ったらデカくて噛み付くだけのカエル。
ただ小型犬サイズで茶色の肌に水色の斑点という気持ち悪いカエルが、私の背丈よりも高く飛び跳ねるだけ・・・だけ。
「だけじゃないっ!!」
「うわぁ!なんすか?!」
ナイトすぐ近くでナイトの声がする。ナイトは剣を抜かずに鞘でメジャーリーガーよろしく遠くに打って回っているらしい。切ったらなかなか取れない臭い体液が付くんだって。うぇ〜。
私はというと、全く見えていない。何故って?目を瞑ってるからさ!
カエルだけはどぉ~っしても無理なの!しかもあんな巨大なの、見るのも無理!なので、ヘブンの背中にしがみついて皆にお任せしてる。いやぁ、仲間っていいね!
「やだぁ!アタシのお気に入りの外套に変な汁がっ!」
「コレ燃やしたらダメなんですかぁ?!」
ヘブンのからだが動いて少しナナメになる。多分前足で蹴り飛ばしたんだろう。
「ダメよっ!燃やした煙は有毒なの!確かこのカエルの駆除方法は・・・何だったかしら・・・?」
「覚えてないんすか?!・・・キトル様!とりあえず足場作って上空に逃れませんか?!」
あ、そっか、確かに!
さっそく目を開け
「ギャーッ!キモッ!」
ちょうど目の前の高さにジャンプしてきたカエルと目が合う。
無理無理無理ィーーーッ!思わず身体もねじれちゃうぜ!
上を向いて両手を空に向ける。
はるか上空から勢いよく降りてきたツルが私達の身体に巻きつくと、そのままの勢いで空へと昇って行く。
足の下でビヨンビヨン飛び跳ねてたカエルが米粒くらいのサイズになった所でツルの上昇が止まった。
「は~グロキモ怖かった・・・」
ブランコのような形のツルに座った私が呟くと、
「うえ~何匹か潰れてんなコレ。鞘汚ぇ~」
両脇を抱えられたようにぶら下がったナイトが剣を振り、
「足ベチャベチャですけど、洗ったら凍りますかね?」
とお腹部分にツルが巻きついたヘブンが足をバタバタさせていて、
「ねぇ、なんでアタシだけこのスタイルなのかしら?」
と左足にツルが巻きついた状態で逆さまになったエルヴァンさんが腕組して言った。
ご、ごめん、見ずにやったからさ・・・。
そのまま空中の高い位置に皆が寝ころべるくらいのフカフカの苔の床を出し、そこに乗ってやっと一息ついた。
「あ~疲れたっ!もぉ、なんなのアイツら!」
頭が元通り上になったエルヴァンさんがプリプリしながらブーツを拭いている。
「沼地によくいる魔獣ではありますけど、あの量は異常っすね。普通はあんなに増える前に人が狩ったり魔獣が食べたりするんすけど。・・・くせっ!」
ナイトが剣の鞘を拭くのにエルヴァンさんのタオルを使おうとして手をペシッと叩かれている。
「あ~もしかして、例の石があるからこの辺に魔獣除けをしたのが良くなかったのかしら・・・。あの水の影響で地面も泥っぽくなってるから人も住んでないしちょうどいいかと思って」
「え、それ絶対エルヴァンさんのせいじゃないですか。ってか人はなんで住んでないんですか?」
「だって弱い魔道具だし石かじられるよりイイかと思ってぇ。沼地じゃ雪花樹も育ちが悪いし、雪花樹がない場所にはあんまりアイスエルフは住まないのよ」
あ、確かに雪道じゃなくなったら雪花樹生えてこなかったな。
「ってかエルヴァンさんのせいなら責任取ってあのカエルの・・・ってぇ!!」
「まぁ過ぎた事をグダグダ言ったって仕方ないわよね!これからどうするか考えましょ!」
エルヴァンさんがナイトの背中をバシバシと叩いて言葉を遮る。
「やっぱり燃やしちゃえばいいじゃないですか!風魔法で煙も飛ばしちゃえば!」
「もしちょっとでも吸っちゃうとあの模様が出るらしいから、それはやめておきたいわね」
うげっ。カエル柄のキトルちゃんはキュートさ半減だぞ。
「あのカエルを食べる魔獣ってどんなのですか?呼び寄せてみましょうよ」
出来るだけ見ずに処理したい!
「そうっすね〜、ミルドロッグを喰うっていうと、ノクタリスとか、カルヴォーン、あとは〜フロウルとかっすね」
何一つわからんな。う〜む。
「あっ!じゃあフロウルにしてちょうだい!首都の近くに最近増えてるから呼び寄せやすいし、ここら辺に住み着いてくれたらむしろ助かるもの」
なんかよくわからんがフロウルってやつを呼べばいいっぽい。
「フロウルは高い空を飛びながら獲物の匂いを察知する習性があるんで、もっと上空で風香草を燃やしてみたらどうですかね?」
「ふーこーそー?」
なんだその中華料理みたいなの。
「風香草っす。え〜っと、冷たい風のような清涼感とひんやりした甘い香りがする小さい葉を持つ草で、燃やすと香りが倍増するんすよ。飲みすぎた次の日に噛んだり・・・ん〜何て言えばいいんすかね?」
「あ、ミントか!オッケーオッケー!燃やしたらすごい香るミントね!」
「ミン・・・?」
あれ、ミントってこっちは無いんだ。頭にハテナを生やしたナイトは置いたまま、斜めの上空に向けて両手を上げる。
思い浮かべるのは、めっちゃ大きくて、燃やしたら香りが強くなるミント!!
空中にモリモリッと大量の葉っぱを付けたミントが20本ほど束で現れる。
「え〜・・・っと、俺が思ってた風香草とは違いますね」
あれ?!違った?!
「燃やしますよ〜!」
ヘブンが口を軽く開けると、その奥から赤い炎が噴き上がる。
ゴォォォォォ
ミントが燃え始めると、スーッと鼻を抜けるような爽やかな香りが辺りに漂い始める。
「あっ!この匂いっす!合ってます!」
ナイトの顔が輝く。ふーこーそーはやっぱりミントの香りなのね。
正解だったし「あ〜二日酔いの匂いだ〜」って言ってたのは聞こえてない事にしよう。
ヘブンが風を起こし、エルヴァンさんが支持する首都の方向に向かって煙が飛んでいく。
さて、じゃあフクロ、フウロ、えっと、鳥さんが来るのを待とうじゃないの!




