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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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112/147

エピソード 112

「キトルちゃん?」


神殿の壁の写しを読んで頭を使った次の日、さっそく花の形の石がある場所に向かって出発しようとお城の入り口前の階段下に集合している。


あの後、ご飯を食べる時もお風呂の時も寝る時もずっと考えてたけど結局わからなかった。


一つお願いごとを叶えてくれるって言ってたからそれで前世に戻ったんだろうか?とも思ったけど、前々使徒様は旅の跡洞窟で死ぬまで過ごしたって言ってたし。


「キトルさま~」


もし私が前世に戻れるとして、じゃあこのキトルはどうなるの?元の、前世の記憶が戻る前のキトルに戻るんだろうか。


でも、じゃあ、キトルの記憶はあるけどこの私は別の人って事?キトルが前世の記憶を思い出したんだと思ってたけど、もしかしてキトルの身体の記憶を読んだだけで私がこの身を乗っ取ってるんじゃ・・・。


「キトル様!!」


「ひゃいっ!!」


突然のナイトの大声が耳元で響く。


「何よっ!もう、ビックリしたなぁ」


「さっきから呼んでるんすけど」


あ~・・・皆の視線が私に。


「ごめん、何?」


「そろそろ出発しましょうかって言ってたのよ。大丈夫?疲れてるなら明日にしましょうか?」


「いやいや、大丈夫!ちょっとボーっとしてただけだから!」


「そう?ならいいけど・・」


エルヴァンさんが手袋をはめた人差し指をアゴに当てて心配そうな顔をする。その後ろでは先に出発するはずのガーデリオンが仁王立ちでワハハ、と笑う。


「やはりキトルは我に来て欲しいのだろう?!仕方ないから一緒に行っt」


「竜王サマ?アナタ昨日の夜大きな魔法鳥に頭突つかれてたわよねぇ?」


「うっ、ま、まぁアレは別に気にしなくても」


昨夜、皆で晩餐会をしている時にハゲタカみたいな魔法鳥が飛んできて、「リュウオウサマ!ハヤクカエレ!シゴトヤマヅミ!」と叫びながら逃げるガーデリオンを追いかけ回していたのだ。


エルガ君の飛ばした一番早く着く魔法鳥らしく、ネルガスさんの連絡を受けて飛んで来たんだって。


「いや、しかしだな、神の使いたるキトルが言うのであれ」


「大丈夫!ガーデリオンは早くエルガ君のとこにアレ持って帰ってあげなよ!」


パーにした右手を前に出し、断固拒否の姿勢。


「ひぃん・・・」「ひえぇ・・・」


情けない声を上げるドラゴンの向こう側でアレと呼ばれたのは、同じく情けない声を出す元ドラヴェリオンのテロリスト、リザルドのドルコス。今は汚い毛布にグルグル巻きにされた落ち武者。空の上は寒いから死なないように、とネルガスさんの温情でいらない毛布を巻いてあげたらしい。


「むう・・・仕方ない、では我は帰るが、くれぐれも先日伝えた事は頼んだぞ」


あぁ、彼女探しね。オケオケ、マッチングキトルちゃんに任せなさい。もし雌ドラゴンに会えたら頑張るよ。


そう言うとエルヴァンさんの方を向き、「今回の礼として次は正式に先んじて便りを出してから来るとしよう」と言うと、「次はエルガ君を連れて来てくださいな。華がないとヤル気出ないもの~」とニヤリとされる。


なんか二人仲良くなったな。まぁ人を振り回す人種、って同じジャンルの仲間だしね。


「ふはは!そうさせてもらおう!」


言いながら元のデカドラゴンの姿に戻ると、器用に手の爪でドルコスの毛布を引っ掛ける。


「では皆の衆、また会おう!」


と大きな翼を羽ばたかせ一気に大空高く舞い上がると、そのまま「いやぁぁぁぁぁぁ~・・・」とドルコスの悲鳴を置き去りに飛んで行った。


ドラゴンの羽ばたきに紛れたナイトの「あ、俺の服・・・」という悲しげな呟きは、私だけに聞こえたみたい。


パチン!


「さ、気を取り直して出発しましょうかしらね」


エルヴァンさんが手を叩いて場を仕切り直す。


「ネルガス、多分数日で帰って来るとは思うけど、後を頼んだわよ」


「はっ!陛下、杞憂に終わるかとは存じますが、くれぐれもご用心くださいませ」


「やあねぇ、わかってるわよォ」


私の背中を軽く押して促すように歩き始める。後ろを見るとネルガスさんや兵士の人達が深々と頭を下げていた。


首都に入るための大きな氷の門をくぐりながらエルヴァンさんに気になっていたことを聞いてみる。


「あの、今さらですけど、ホントに良かったんですか?」


「ん?なにが?」


こちらを見ながらにっこり笑って首をかしげると、サラサラの銀髪がするりと肩から流れ落ちる。くぅっ・・・キラキラしやがってぇ。


「王様なのに留守にして付いて来てもらってる事ですよ。私達は迷わなくていいから助かりますけど・・・」


何故かネルガスさんもお城の人達も、国王陛下が私達について来るのが当然!と言わんばかりの動きで準備されていたのだ。


「あら、そんな事気にしてたのォ?もう、キトルちゃんってば自分の事分かってないのねぇ。今この世界で、キトルちゃんのやること以上に優先される事なんてないのよ?」


私のやる事?石に力を込めるやつ?


「キトルちゃんが世界を癒してくれないとこの国もダメになっちゃうもの~。早くお仕事してもらうのが一番大事な事だし、経験者のアタシが付いてく方が早いでしょ?」


そういうとパチン、と綺麗なウインクを飛ばしてくる。この人ウインク好きだね。


「そうっすよ、どうせこの人お城に居たって抜け出してついて来るに決まってます」


ヒョコ、とエルヴァンさんの向こう側からナイトが顔を出す。


「んまっ!失礼ねぇ!なんでアンタにそんな事」


「ってネルガスさんが言ってましたよ」


「・・・じゃあ仕方ないわね・・・」


ブスくれた顔でタコの口になるブーたれ陛下。


「ワタクシは嬉しいですよっ!またエルヴァンさんと旅が出来るなんて嬉しいですっ!」


二回も言ってるし、ヘブンってばホントに嬉しいんだろうね。前足がピョンコピョンコしてる。


「ん~もうポッちゃんってば可愛いっ!お礼にチューしてあげる!」


「それはご遠慮します!」


とグルグル追いかけっこする一人と一匹。それを見て笑う私とナイト。


んふふ、石のある場所に行って帰るだけの道のりがこんなに楽しみになるとは。


従者の先輩について安心して行こうじゃないの!

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