エピソード 11
ん~!
久しぶりにふかふかのお布団のあるベッドで目が覚めた。
ここは、客室かな?
あまり使ってないのか、あのゴテゴテした装飾品もないみたい。
中身が成人女性でも、身体はまだ七歳の少女。
昨日の紅茶のカフェインも効かず、公爵さまとロンドさんが話し込み始めたのを尻目にウトウトし始めたところまでしか記憶がない。
多分ナイトかメイドの人が運んでくれたんだろうけど、寝間着に着替えさせてくれたのはメイドさんだと信じたいな・・・。
横を見ると、ヘブンがぷうぷう可愛い寝息をかいている。
昨日はいっぱい走ってくれたみたいだし、このまま寝かせといてあげよう。
着替えがどこにあるのかもわからないし、廊下を覗いたらドアの前で待機していたメイドさんがすぐに来てくれる。
う~ん、メイドさんってすごい。
身支度を手伝ってもらっていると、お礼の言葉が。
「使徒様、本当にありがとうございます」
ん?ドルムンタ伯爵のことかな?
「以前居た若いメイド達は皆、伯爵様に毎晩酷い目に遭わされ逃げたそうで・・・私や他のメイドは最近代官様に連れてこられたばかりだったんですが、おそらく使徒様が来られなければ私たちも同じ目にあっていたと思います」
酷い目?
子供だから詳しく言わないんだろうけど、多分夜の相手とかそういう事だよね。
・・・あの伯爵ならしてそうだ。
くそぅ、もっと酷い罰にしとくんだった。
「連れてこられたって、無理やり?」
「あ、いえ、その・・・はい」
代官も同罪だな。
よし、あとでこっそり鳥カゴに電気が流れるようなツタとか巻き付けられないかやってみよう。
・・・鳥カゴごと王都まで見せしめにしながら運ぶって言ってたな。じゃあダメか。
「お家には帰れるの?」
「はい、すぐではありませんが、色々聞き取りなどが終われば帰れるそうです」
そっか、良かった良かった。
「メイドさんのお家のある所にも、多分そのうち行くだろうからその時はよろしくね」
「は、はいっ!」
昨日のとはまた違ったワンピースを着て、まだ寝ぼけ気味のヘブンを抱いてメイドさんに付いていく。
なんで色んな女児服があるのか疑問だけど、聞きたいような聞きたくないような・・・。
「メイドに小柄な子がいるのでその子の服を皆で繕ったのですが、サイズが合っているようで良かったです!」
あ、なんだそういう事ね。
勝手に罪を上乗せするところだったわ。
ごめんよ伯爵。
「まずは、昨日の夜に到着した我が騎士達だ」
公爵さま?
私達、朝ご飯食べ終わったばっかりなんだけど?
昨日のダイニングルームは綺麗に掃除され、ギンギラギンの鳥カゴもさりげなく片付けられてる。
『伯爵のいつもの一人分の朝食』をナイトとヘブンと分けて食べたんだけど、も〜お腹いっぱい。
で、また食後の紅茶で一息付いてたら、公爵さまが鎧を着た人達を引き連れて来たって訳。
「これから顔を合わせる機会も増えるだろうから、覚えておいてくれ」
「なんで増えるんですか?」
別に覚えなくてもよくない?
「ドルムンタ伯爵を王都に移送するのだ、一緒に行くだろう?」
「え、嫌ですよ!」
なんでそんな面倒な事を。
「なっ?!来ていただけないのか?!」
「いやいやいいです、遠慮します!」
「しかし、国王陛下も使徒様を歓迎されるはずで」
「余計に大丈夫です!」
「いや、だが・・・」
「ずぇったいに嫌です!」
困ってる公爵の後ろで騎士の皆さんが笑いを堪えて肩を震わせてる。
「ならば!せめて!我が領地にお越しいただけないか?!」
ん?我が領地?ってどこよ。
「まぁそのうち草生やしに行くとは思いますけど」
「いや、そうではなく、祖父が子供の頃、使徒様に救っていただいたのだ。キトル様の事ではないが緑の使い手様ならば同じく大恩人。是非来ていただきたい!」
あ〜そういえば、ヘブンの事も詳しく聞きたいと思ってたな。
「もちろん土地を救っていただけるのであれば助かるが、幸いここの伯爵領ほど荒れてはいないのでな。今回の件も含めてお礼をさせていただきたい」
どうしようかな〜。
行ってもいいけど・・・ここら辺の人達、伯爵のせいで苦しいみたいだし早めに助けに行ってあげたいんだよね。
「キトル様、伯爵領をある程度回ってから行けばいいんじゃないですか?どうせ公爵様も王都に行ったら伯爵の処分とかですぐには戻らないんでしょうし」
お、ナイト君ナイスアイデア!
略してナイトアイデア?
略さなくていいか。
「そうだな、おそらく早くても一ヶ月ほどは戻れないだろう」
「一ヶ月・・・ナイト、伯爵領の人が住んでる場所ってわかる?」
「そうっすね、大体ですけど」
「それならば領地全体が描かれた地図がございますよ」
お茶のお代わりを持って来たロンドさんが口を挟む。
「人が住んでる所を歩いて回ったらどのくらいかかります?」
「そうですね・・・グズリ代官が二、三日に一度馬車で回られて毎月分の税や収穫物を集められていたので、歩きであればおそらくひと月かひと月半ほどかと」
じゃあちょうどいいね。
「1ヶ月半後に伺います。それで良いですか?」
「おぉ!もちろん!その時は、領をあげて歓迎させ」
「そんな事したらすぐ帰りますから、普通に迎えてくださいね」
「・・・承知した・・・」
あ〜あ、騎士さん達もうヨソ向いちゃってるじゃん。
キラキラに輝いて眠るおじさん二人が入った鳥カゴを騎士さん達が五人がかりで馬車に乗せている。
「あと二、三日したらキラキラ出してるお花は小さめの実になると思うんで、騎士さん達で食べてくださいね〜」
「・・・金色になったりしませんよね?」
甘いマスクの騎士さんに聞かれたけど、貴方の頭はもう金髪よ。
この人が金色になったらキラキラ倍増しちゃいそう。
「大丈夫ですよ!実が出来る頃にはその人達も起きちゃうしうるさいと思うんで、甘い果物で癒されてもらえれば」
後ろの方で小さくガッツポーズしてる騎士さん達は甘党なんだろうね。
ん?ナイトが公爵さまと何か話してる。
「じゃあよろしくお願いします」
「あぁ、出来る限りの力は尽くそう」
なんだなんだ?
男の約束的なやつか?
そのまま公爵さまがこっちに来る。
「この屋敷は、伯爵領を回る時の拠点として使っていただけないだろうか」
公爵さまの話では、この領地の主人となる貴族の人が決まるまでしばらくかかるらしい。
「行く場所によってはその日中に戻れないかもしれないですよ?」
「もちろんだ。どうせなら、使用人達にも恩人に報いる機会があればと思ってな」
これはありがたい申し出!
お風呂やふかふかベッドはやっぱり嬉しいもんね。
メイドや執事ら使用人の人達も、元々働いてた人や帰る必要がない人はそのまま働いてもらうみたい。
お給金はどうするのかな〜って思ったら、貴族には毎年国から領地の経営用に振り分けられたお金があるからそれを充てるんだって。
だから、しばらく伯爵領の税は無し!
伯爵領で苦しんでる人達に、それも伝えに行かなきゃね。
「じゃあ公爵さま、よろしくお願いしますね!」
「うむ、使徒殿もお気をつけて使命に励まれよ」
固いなぁ・・・。
「そういえば、公爵さまのお名前って何て言うんですか?」
「おや、名乗っていなかったか。ダンデだよ、キトル様」
なんと!ダンディなダンデ公爵!
覚えやすくて素敵!
「キトル様、何考えてるか丸わかりっすよ」
うるさいよ、ナイト君。
「じゃあ、また!」
ダンデ公爵達と金の鳥カゴに手を振る。
さて、私達も伯爵領に緑を咲かせに行こうじゃないの!
アドバイスをいただいたので、読みやすいように行間を開けてみました。