エピソード 109
「む?これは壊して良いのか?」
ヒビ割れたバリア氷の割れ目からガーデリオンが覗き込んで言っている。
魔物襲来じゃないとわかって脱力したエルヴァンさんがハッと現実に戻ってきた。
「え?あ、あぁ、そうね、そのバリアは今解きま」
「まぁ良い!どうせ狭いからな!」
なんで自分で聞いといて返事を待たないんだ。
爆走オネエ陛下のエルヴァンさんと超絶マイペースドラゴンのガーデリオン、この二人は混ぜるな危険では・・・?
こちらの心配をよそに割れ目の向こうではガーデリオンが人型へと変化していき、バリアに手をかけると「とうっ!」と言いながら空中庭園めがけて飛び降り・・・
「ぎゃあ~~~~~~っ!!」
またっ!ドラゴンから人型に変化したなら裸じゃんっ!!
潰れるほどギュッ!と目を閉じる。
「ガーデリオンのバカバカバカバカ!!ド変態っ!着替えてから人前に出なさいよっ!!」
「む?おぉ、また忘れておったな」
ネルガスさんが誰かに指示する声とバサッと布の音がして恐る恐る目を開くと、マントで身体を隠した包みドラゴンがいる。
空中庭園に来る時にルノちゃん達置いて来て良かった~。子供にえらいもん見せちゃうとこだわ。
「も~・・・割れ目から逆光が差してて助かったよ・・・」
「なんだと?人の裸を毒か何かのように言うとは失礼な」
「劇物だよっ!目には猛毒!セクハラだかんね!」
「セ、セク?むぅ・・・」
セクハラが分からなくても怒られてるのはわかったのか口を尖らせている。
魔物が襲ってきたと思ってたのに、ガーデリオンが裸大の字で空から降って来るなんて想像してなかったわ。
前を見ると、少し回復したのか一人で立つエルヴァンさんと少し離れた所でナイトがこちらを見ている。これって紹介したほうがいいのかな?
王様ズの間を行ったり来たりする私の視線で気が付いたのか、ナイトが一歩前に出て咳払いをした。
「んんっ。・・・エルヴァン様、こちらドラヴェリオン帝国の帝王、ガーデリオン様です。ガーデリオン様、こちらはフロストリアの国王陛下、エルヴァン様です」
「うむ!我こそは、獣人国を治める帝王でありドラゴンのガーデリオンだ。我が民が不始末を働いたと聞いて急ぎ帰国を訪れた次第だ。深く詫びよう」
「これはこれは・・・獣人国の帝王様とは失礼いたしましたわ。アタクシはエルヴァン・フロスティアール、この氷と雪の国の王を務めさせていただいておりますの。何の御触れもなくわざわざ遠き地より足をお運びいただけるなんて、一体どのようなご用件ですの?」
あらら・・・エルヴァンさん、突然の来訪にご立腹?笑顔だけどちょっと怖い感じ。でもガーデリオンは全く気付いてないのか、ニッコニコしてる。
「この国からの便りに罪人を捕らえたとあったのでな。引き取りに使者を出すというので、それならば王たる我が来て詫びるのが道理であろうとすぐに来た次第だ。本当にすまなかった」
言い終わると同時に深く頭を下げた。
謝罪するドラゴンを見たエルヴァンさんは目をパチクリ。驚いてるね〜。
いつの間にかヘブンを抱いて横に居たナイトが小声で話しかけてきた。
「すごいっすよね、ガーデリオン様。普通はなかなか頭下げたり出来ないのに、あんまり帝王らしくないからこそ筋を通せるっていうか」
そうねぇ、普通の王様は裸で一人飛んで来たりしないしね。
フリーズ状態から回復したエルヴァンさんが口を開く。
「え・・・と、そうね、じゃあ、とりあえず・・・今日はもう時間も時間だし、キトルちゃん達と一緒にお食事でもして明日アレを持って帰っていただく感じでいいかしら?」
アレって悪コスの事か。悪コスをテイクアウトしに来たのね。
「うむ、恩に着る。あとは・・・ちょっとキトルに言い忘れた事があったのでな」
「私に?」
突然名前が出て来てビックリした。なんだろう?
「う、む・・・ちょっとお願いというか、旅のついでにというか・・・」
珍しく歯切れが悪い。なんか怖いんだけど・・・。
いつものドッシドッシと歩く感じじゃなく、す、す、す、と近付いてきて顔を寄せてくる。
ふと横を見ると、すぐ近くにヘブンを胸に抱いたナイトの姿。え?何?
「俺らはキトル様の従者ですから!」「ですからっ!」と力強く言われるけど、内緒にして欲しい話なんじゃないの?
ガーデリオンの方を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしてる。嫌だけど仕方ないって事かな?
「む・・・別に隠すようなことでもないのだが・・・。実は、我もそろそろ・・・番が欲しいと思い始めてな」
ツガイ?つがいってあのつがい?恋愛的な意味でのお相手のつがい?
「え?!彼女が欲しいって事?!」
思わず大声が出てガーデリオンに口を塞がれる。力強いんだから苦しいってば。
「う、うむ、今あの森に火をつけたフェンリル族の者が監視も兼ねて城にいるのだが、番のおなごと、何というか、こう、仲睦まじくしておってな・・・」
はは~ん、人がイチャイチャしてるの見て羨ましくなったのか。
「しかし、我はこれまで他のドラゴンなど見た事がなくてな。そこで、もしキトルがどこかでドラゴンに出会う事があれば、ドラヴェリオンに来てもらえぬか聞いてみてもらおうかと・・・」
指をモジモジさせながら話すドラゴン。モジドラか。おいおい、イジらしいじゃないの。
「むぐ、むぐむぐ」
「お?おぉ、すまぬすまぬ」
やっと口を解放してもらえた。ぷは~。
「いいよ。って言っても、いるのかも分かんないし、会えないかもしれないから約束は出来ないけどね!」
「そうっすね、もし見かけたら俺らも協力しますよ!な、ヘブン」
「ええ!メスドラゴンは見たことないので、出来る限りで良ければ!」
「おぉ、もちろんだ!いやぁ、エルガにも気恥ずかしかったので言わずに来たのだが、ホッとしたぞ!」
・・・なんだと?
「え?もしかして・・・エルガ君にもジイランさんにも言わずに来たの?」
「む?そうだぞ?我を止められるものなどどこにもおらぬからな!はっはっは!」
「このバカドラ!笑いごとじゃないっての!んも〜・・・ネルガスさん!」
「はっ!至急ドラヴェリオンに連絡を取りましょう」
すぐに後ろに控えている人達の方へ走っていく。流石ネルガスさんってば有能っ!
「よしナイト、とりあえず我に合う服を寄こすがよい!それから食事をいただこうではないか!」
ガッシとナイトの肩を抱いて笑いながら空中庭園を後にするドラゴン。
後を追って歩き出すと、後ろから来たエルヴァンさんが並んだ。
「アタシも大概自由な王様だと思ってたけど、上には上がいるのねぇ・・・」
うん、エルヴァンさん・・・その意見に、完全同意しようじゃないの。




