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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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エピソード 108

「すっ・・・ごい・・・!」


目の前のキラキラが瞳の中まで入ってくるみたい。

街中がクリスマスマーケットな首都の街並みを堪能しながら着いたのはエルヴァンさんのお家、つまり王城。


「ヤバ〜いっ!!雪の女王のお城みたいっ!!」


すごいすごいすごい!!氷に見える石の、え~っと、フロスライト?で作られてるから、見た目が完全にかの有名な氷のお城。


半透明で屈折した日の光が粉雪のように輝き、壁のひとつひとつが巨大な水晶のように冷ややかな美しさを放っている。


「あら、女王様ってアタシの事かしらん?」


氷馬車から降りながらウインクしてくるエルヴァンさんは、ネルガスさんの「アンタ王様でしょうが」という当たり前のツッコミにお任せしよう。


「テーマパークにあったら大行列が出来そうだぁ・・・」


呟きながら見上げると、天辺にある尖がった塔がキラリと光る。ふわぁ~綺麗だなぁ~。


鎧を着た兵隊さん?っていうのかな?氷馬車を降りると十数人のエルフさんがズラッと並んでいて、その先には緩やかなカーブを描く階段が二階のお城の入り口まで続いている。


階段を昇り見上げるほど高さのある大扉を入ると、陽の光が差し込む吹き抜けのホールの床は銀糸で刺繍された雪模様のカーペットが敷かれている。


「はえ~・・・すっごい・・・」


「キトル様、口開いてますよ」


そういうナイトもキョロキョロと上を見上げている。


「王城に入れるなんて・・・ルノ、こんな機会なかなか無いわよ、凄いわねぇ」


「ルノここに住めるの?」


「すっ、住めないわよ!お泊りさせてもらうだけよ!」


ママが慌ててるけど、ルノちゃんは通常運転。


ルノちゃんとママさんも泊まる所を探そうとしてたら「アタシが連れて来たんだからうちに泊まってよォ!」というツルならぬオネエの一声でお泊まり決定〜。


「お城の中案内するわね〜!」


ガイドさんよろしく片手を挙げて皆を誘導する暇人陛下。


「あっ!コラ、アンタは仕事が・・・」とネルガスさんが止めようとするけど、「そんなもんアタシじゃなくても出来るでしょっ?!神様の使いのお相手なんて王様じゃないと出来ないお仕事じゃない!」と一蹴。


一理あるようなないような。


「今日中にはドラヴェリオンからの書簡が来るでしょうから、その返答にサインはして下さいね!」「はいは〜い」と適当に返事をしてる。


まぁこれで上手く回ってるんだろうし、適当でもいいんだろうね。


「ここはアタシが王様っぽい事する時に使う場所でしょ〜。少人数の時は白銀の間って名前の謁見の間もあるんだけど、あっちは地味だから嫌いなのよね〜」


好き嫌いで使い分けてていいのか?王様だからいいのか。


「あと塔の上の方に首都を全部見渡せる氷天の庭って空中庭園もあるんだけど、そこは夜景が綺麗だからもう少し暗くなったら行きま」


ダダダダダッ!


「し、失礼します!」


ホールの奥にある通路から、美しいカーペットの上に兵士が飛び込んできた。


「ま、魔獣です!空飛ぶ魔獣がこちらに向かって来ております!!」


「・・・今から行きましょうかしらね」






「ホントね、こちらに向かって来てるわ」


「いかがいたしましょう。地下の魔力庫を動かしクリスタル・バリアを発動させますか?」


え、何それカッコイイ。必殺技みたい。


遠くの空を見る国王陛下と副王大臣。そのに顔を向けてみるけど、何にも見えねえ。どこ?!


小さな公園ほどの広さがあるバルコニーには、見た事がない植物が生い茂る庭園が広がっている。バルコニーの床がお城の壁より透明度が高いフロスライトで作られてるので、下が薄っすら透けて見える。なるほど、空中庭園ね。


「アレはまだ使うべきじゃないわ。バリアだけならアタシの魔力で十分よ。防御で終わるとは限らない、攻撃に備えておきましょ」


「ははっ!仰せのままに」


ネルガスさんが後ろに控えている人達に指示を出している。


「ねぇナイト、どこにいるか見える?」


「ん~・・・多分アレっすかね?」


ナイトが指差す方向の曇り空に、小さな黒い粒。アレ?!ちっちゃ!!


「エルフ、目ぇ良すぎじゃない?!」


「なぁに?エルフは耳も顔も良いのよ?」


前を向いてた地獄耳陛下が振り向いてウインク。コワ〜。


「せっかくキトルちゃんもいるんだし、綺麗なだけじゃなくカッコいい所も見せてあげようかしらん」


そう言うと、空中庭園の端っこ、バルコニーの手すりの所まで行き両腕を上げた。


その両腕の先にはさっきより大きくなった黒い点。確かに近付いて来ているようだ。


一体どんな魔獣なんだろう。微かに羽のような形が見えてきたので、眉間にシワを寄せジッと凝視する。


と、段々その輪郭がボヤけてきた。


あれ?


顔を上げると、先ほどまでハッキリと見えていた空の雲も薄い膜に覆われたようにボヤけて見える。


「あ、違う、こっちが覆われてるんだ」


グルリと周囲を見渡すと、首都の全てが薄い氷のようなもので覆われている。


「これ、エルヴァンさんがしたんですか?」


「・・・っはぁ、そうよ、固い氷のバリア、ちょっとやそっとの攻撃じゃ、壊れないわよォ・・・」


言い終わる前にフラつき、慌ててナイトが走って支える。


「は~久しぶりにこんなに魔力使ったわぁ。あとでキトルちゃんに美味しい物でも作ってもらわなきゃ」


「そうですね、頑張ります!」


むん、とコブシを握ってガッツポーズ。


「しかし、このタイミングで魔獣の襲来とは・・・モルティヴァ神やその信者の可能性やもしれませぬな」


ネルガスさんが視線を空に向けたまま少し考えるように声を落とす。


さっきまでは間違いなく小さな黒い点だったのに、もうかなりの大きさになった黒いシルエットが氷の向こうに見える。


「今はそれどころじゃないわよォ・・・攻撃が効かないとみてすぐどこかに行ってくれればいいんだけど」


ナイトの肩を借りながらエルヴァンさんが力なく言う。


目前に迫ってきている巨大な影。すごく大きい・・・!


「そろそろくるわよ・・・。攻撃が続けばバリアも持たないかもしれないわ。その時はネルガスの指示に従っt」


ガンッ!!!


大きな音と共に氷に広がる巨大なヒビ割れ、そして巨大な足の影。


「陛下っ!も、もうヒビがっ!」


「待って!何か聞こえるわっ!」


緊迫した空気の中、エルヴァンさんの声で皆耳を澄ませる。


「・・・るよ・・・キトルよ・・・」


ん?私?


はて、と思わずエルヴァンさんとナイトの方を見る。


「キトル様・・・この声、何か聞き覚えがある気がするんすけど・・・」


パリン、と大きな氷の破片が庭園に落ちてくると、そこから大きな瞳が見えた。


「キトルよ!我が来たぞ!ガーデリオンだ!今そちらに行くぞ~!」


ガッ、ガッ、ガーデリオンッ?!なんでっ?!


・・・色々とツッコミが追い付かないけど・・・ち、ちょっと再会が早すぎるんじゃないのっ?!

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