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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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エピソード 107

「いえ、ですからぁ・・・聖神国のぉ・・・」


「それはもう聞いた。他には?」


落武者と化したドルコスの残し少ない髪の毛をナイトが持って少しずつ削ぎ切りながら促す。


「えっと、使徒のガキのぉ」


「あ?誰が何だって?」


「あっ!使徒様ですっ!モルディヴァ様がキトル様は偽物だっておっしゃって、排除する為に色々くれたんですぅ!」


ナイトが粗暴な態度で話を聞き出してる。派手な柄物のシャツとか着せたらチンピラみたい・・・あら?意外と似合いそう。


「って言ってますけど、キトル様。他に何か聞いときましょうか?」


パッと表情を変えてこっちを見る。う〜む、なかなか役者だねぇ。


「とりあえず今はいいかな。どうせ首都まで連れて行くんだし、何かあったらまた聞くよ」


「だってよ。おい、ちゃんと聞かないt」「聞きますぅ!ちゃんと聞きますっ!」


ナイトがまた首筋に短剣を当てるとドルコス即答。


「あらまぁ・・・あの子キトルちゃんの事はホントに大事にしてるのねぇ」


エルヴァンさんが口に手を当てて呟く、その口元は綻んでいる。


「何でですか?」


「だってアレ、万が一何かあっても自分の方に怒りの矛先が向くようにワザとあんな態度なんでしょ?」


落武者を引っ張る護衛さん達の後ろを歩きながら話す。


「そうなんですかね?単にムカついただけって事もありそうですけど」


「んふふ、キトルちゃんってば〜。ちゃんとわかってるでしょ?」


頬っぺたをツンツンとつつかれる。まぁ大事にされてるとは思うけどさ。


「もうちょっと本人そのものを大事にしてくれるといいんですけどね〜。扱いが雑なんで」


「そうね、女の子なんだしお姫様みたいに扱われたいわよねぇ」


う~ん、それもちょっと違う気が・・・。







氷馬車に乗り込み、首都に向かって走り始める。


ドルコスは二台目の護衛さん達が乗る馬車、に繋がれたソリ。


「アタシの大事な護衛ちゃん達に悪コスなんかと同じ空気を吸わせちゃ悪いじゃない?」というエルヴァンそんの配慮だが、ネルガスさんの「その護衛をいつも置き去りにしとるのはどなたですかね!」という声は聞こえなかったみたい。


最初の数時間は「ひゃぁぁぁ」とか「助けてぇぇぇぇ」って声が後ろから聞こえてたけど、ツタで縛ってるから落ちないと気付いてからは大人しくなった。


「しかし、モルティヴァ神が顕現してるって本当かしら?」


私達が乗る氷馬車の中で前を向いたままエルヴァンさんが切り出した。


悪コスの話では聖神国にモルティヴァ神そのものである人?が居て、聖神国内はアルカス信者に紛れたモルティヴァ信者が多くいるのだとか。


そして選ばれた人間だけがモルティヴァ神の元に導かれ、直接モルティヴァ神から教えを行使出来る力を授けられるとかナントカ・・・。


「モルチバさんがケンケン?」


ルノちゃんが私の膝の上で見上げてくる。


もうドルコスを確保出来たから村に戻ってもいいんだけど、せっかくなので首都にいるパパさんと合流するらしくご一緒する事になったのだ。


「そうだね~、モルチバさんケンケンしてるのかな~?」


頭の中でアジアンチックな格好の神様が片足で跳ねまわる姿が浮かび上がる。う~む、シュール。


話の邪魔にならないようママに連れて行かれ、寂しくなった膝を撫でながらエルヴァンさんに聞いてみる。


「そういう話は聞いた事ないんですか?王様なんだし、なんか極秘の情報とか耳に入ってきたりとか」


「ですってよ、どうなの?ネルガス」


「少し考えるふりくらいしてください、曲がりなりにも国王なのですから・・・。そうですな、噂程度は耳にしたことがありますが」


「曲がってないわよ、アタシはまっすぐよ!」ってブチブチ言ってるクネクネ陛下は無視してネルガスさんに向き直る。


「どんな噂ですか?そこに行けば神様に会える的な?」


「その先の事ですな。神に会えれば奇跡の力を授かれるというものです。力を欲する者を集めようとしたのでしょう」


奇跡の力・・・?あっ!!


「するってぇとアレか!あの黒種とかもモルさんが作ったやつって事?!」


「するってぇと?何すかそれ」


勢い余って江戸っ子になっちゃったけど気にしないで。


「黒種は元々聖神国で作られたモノだから、横流しされたのをモルさんが自作って言って渡したんじゃないかしら」


氷の道を作りながら器用に会話に参加するエルヴァンさん。


ん〜・・・どうだろう。


「キトル様はしっくりきてない顔っすね」


「そうなんだよね〜何かはわからないけど、何かこう、違うような忘れてるような・・・」


「あ、忘れてると言えば」


ナイトの膝の上で話を聞いてたヘブンが顔を上げた。


「あの人が言ってたバッグ、そのままで良かったんですか?池の中にあるんですよね?」


「「・・・あっ!!」」


皆の声がハモる。


そうだ、どうしよう?!あの中にもまだブドウの苗や実が残ってるだろうし、もし何かのきっかけでバッグが壊れたら大変だ!!


「も、戻る?!Uターンするのっ?!えっ!どうしましょ!」


エルヴァンさんが慌てふためいて前を見たり振り向いたり。危ないってば!


「陛下!落ち着きなさい!・・・もうかなり進みましたしこのまま行きましょう」


ネルガスさんが両手を出して皆を落ち着かせる。


え、でもあのままにしとく訳には・・・。ネルガスさんを見ると、私の考えている事がわかっているのか小さく頷いた。


「大丈夫、持ってきてもらうよう手配します」







ドルコスを捕まえてから三日、途中の村に寄る必要がなくなったので真っ直ぐ首都に向かう一行。


道中はエルグレーンと呼ばれる角が氷で出来た鹿を見かけたり、ルノちゃんがひたすら可愛かったり、ドルコスが懐柔してこようとキモい言動を繰り返してた位で特に何もなかったので割愛。


「ほら、もう見えてきたわよ!」


とエルヴァンさんの声で氷馬車の前へと移動する。


「うわぁ!エルヴァンさん、あの大きいのって氷で出来てるんですか?!」


見えてきたのは透明感のある水色の門。細かな彫刻がされてあり、大きな氷柱を彫られて作られているようだ。


「アレはね〜フロスライト、霜晶石って呼ばれる鉱石で作られてるのよ。魔力を通しやすいし、石そのものが冷気を帯びてるからほんのり冷たいの」


へぇ、氷じゃないんだ。だんだん近づいて来る氷柱を間近で見ても、氷にしか見えない。ってかデカいな。五メートルくらいあるし、扉もその氷っぽい石で出来てる。


「そ・れ・にっ!何より見た目がとっても良いでしょお?!アイスエルフの国の首都!って感じでぇ、とっても気に入ってるの!」


・・・確かに。口調のせいで同意したくなくなるけど、確かに荘厳な雰囲気が出てるしとてもピッタリ。


門の前で氷馬車を止めたエルヴァンさんが片手を上げると、門兵が慌てて門を開けにかかる。


ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、と重そうな音を出し扉がゆっくりと開き始める。


「色々あって疲れたもの。今日明日はお休みして、明後日から動き始めましょ」


そう言うと、クルリと優雅に振り向いた。


「緑の使徒様と、そのお供ご一行様!ようこそ首都シヴァリエルへ!国王、エルヴァン・フロスティアールは皆さまを歓迎するわ!」


門が開くと、冷たい風と共に吹首都への道が現れる。


よぉ〜し、せっかく来たんだもん、アイスエルフの首都、楽しんじゃおうじゃないの!

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