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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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エピソード 106

「ん?そこのガキ、見た事ある気がするな・・・」


ルノちゃんを見ながらアゴに手をやり、片眉を上げる落ち武・・・じゃない、悪コス。


するとその視線を遮るようにエルヴァンさんがスッと前に出てきた。


「一応確認だけど、アンタは悪コスで間違いないのよね?」


「あぁん?!誰だそれは。貴様誰に向かって失礼な口を」


「陛下、ドルコスです、ドルコス」


ネルガスさんがそっと横に来て訂正する。


「あ、そうだったわ。ドルコスでいいのよね?」


「んん?俺の事を知ってるのか?・・・もしや貴様らはモルティヴァ様からの使いか?」


悪コスがエルヴァンさんを上から下までジロジロと嘗め回すように見ると満足げな顔をする。


「ふむ、この国ではそれほどモルティヴァ様の教えが浸透していないと聞いたが・・・貴様その身なりは貴族だろう?よくやったじゃないか。このドルコス様が直々に誉めてやろう。そら、早く替えの服をよこさんか。その服でもいいぞ」


すごいや、あのオネエ陛下がうげぇって顔してる。ちょっと面白いな。


これ以上自体がややこしくならないうちにと思ったのかネルガスさんが一歩前に出ると口を開いた。


「ここにおられるのは我がフロストリアの国王陛下、エルヴァン・フロスティアール様である。貴様がドラヴェリオン帝国で行った悪行はすでに知れておる」


悪コス、驚いたのかパカッと口を開けた。なんいう間抜け面。


「大人しく捕まるならば命までは取らぬが、抵抗すれば、あっ、こら、待たぬか!」


ネルガスさんが喋り終わる前に狼狽えながら逃げ出す悪コス。で、走って向かったのがさっきまで刺さっていた池。


バシャーン!


「ぐわぁぁ!!たすっ、たすけっ!」


何をしてるんだコイツは。


「ねぇ、コレこのままでもいいんじゃない?」


「う~ん、そうねぇ・・・」


放置の相談をする私とエルヴァンさんを尻目に、嫌がる護衛の人達にネルガスさんが指示を出していた。






「き、き、貴様ら、こ、この俺に、こ、こ、こんなことをして・・・ぶえっくしょい!」


意外とすぐ近くに落ちたようで護衛の皆さんが何とか引っ張り上げたけど、びしょ濡れでブルブル震える悪コス。ブルコス。


「全く余計な手間かけさせてぇ。コイツそのままドラヴェリオンに持ってけないかしら?」


「無理ですな。それに何かあればこちらの責任になりかねませんので、使者を呼んで持って帰ってもらう方がよろしいかと」


お偉いさん二人が話してる。ってかナチュラルにモノ扱いしてるなぁ。


「それに神の使命もございましょう。キトル様を早く連れて行って差し上げねば」


ネルガスさんがそう言うと、突然悪コスが大声を張り上げた。


「神の使命だと?!緑の使徒がここにいるのかっ?!どこだっ?!そこのお前かっ?!」


唾を飛ばし後ろ手に縛られたまま全員の顔を見ると、ルノちゃんのママの方に向かって行く。


「貴様かっ!貴様さえいなくなればっ・・・!」


護衛の人達が一人、二人としがみつき捕まえるが、その歩みは止まらない。そうだ、コイツもリザルドの獣人だ・・・!


急いで手を出して何か作ろうとするけど、ルノちゃんを腕に抱えたままで固まったママさんのもう目の前に来て・・・


パチンッ!


ピタ、と全員の動きが止まる。


「いったぁ~いっ!でも、コレでおあいこだからね!もうイタイイタイしちゃダメだよ!」


ルノちゃんがママに抱っこされたまま右手をパタパタと振っている。もしかして・・・ビンタした?!


「あっ!こら!ルノ!暴力はいけませんって言ってるでしょ?!」


「やられたらやり返せってパパ言ってたもん!」


「もうあの人ってば・・・ごめんなさい、大丈夫かしら?」


ほけ、と完全に毒気を抜かれた様子のドルコス、心配してくれたママさんを見て「母親・・・?使徒が・・・?」とつぶやいている。


その間に私がドルコスの周りにツタを作ってグルグル巻きに、我に返った護衛さん達も慌ててツタを結んでいく。


「何言ってんのよ!緑の使徒はここにいるキュートな少女のキトルちゃんよ!ごめんねルノちゃん、ママさん!まさかあんなに力が強いとは・・・ルノちゃん、お手柄よっ!ママを守ってとっても偉いわっ!」


「うんっ!」


ルノちゃんとグータッチするエルヴァンさんを無視して、紹介された私を凝視するドルコス。


「は・・・?こんなガキが・・・?」


「どうも、使徒のキトルちゃんです。今はキュートだけど、数年後は絶世の美女予定でっす」


「何言ってんすか」


ドルコスを警戒しながらもちゃんとツッコミは忘れないナイト。


ヘブンも横で元の大きさに戻り、低く唸りだす。


「はっ・・・こんなガキに・・・俺はいつまでもクソガキどもに振り回されなきゃならんのか・・・」


クソガキって何よクソガキって。あ、そうか、コイツってばエルガ君のこともイジメてたんだっけ。


ブツブツとつぶやいていたかと思うと、突然キッ!と私を睨む。


「エルガのクソガキと貴様さえ邪魔しなければ、俺はモルティヴァ神の元で世界に真の救いを与えられたのだ・・・」


「うわぁ、怖ぁい」


両手をグーにしてぶりっ子ポーズ。ナイトの「うげっ」って声が聞こえた気がするなぁ。


「ね、一回聞いてみたかったんだよね」


「何がだ」


すご~く怖い顔で睨んだまま。でも濡れ落ち武者だからあんまり怖くないな。


「あのさ、私って自分でも神の使徒らしいって事しかわからないのに、なんで敵視するの?」


「それはお前がまやかしの神であるアルカスの・・・!」


「だって、モルティヴァさんの使いかもしれないじゃん?」


「は・・・?」


あら、また間抜け顔。


「だって、どの神様のお使いに来たのなんかわかんないじゃん?」


「そっ、そんなもの、貴様の草木を生やす力でアルカス神の」


「え〜?だってモルさんも世界がボロボロになった後に再生させるんでしょ?じゃあ今がボロボロの状態で、私がお使いとして再生させてってるのかもしれないじゃん」


「んふっ、モルさんって・・・」


元従者のエルヴァンさんがクスクスと笑い出す。


「そうね、そう言われればわかんないわね。どの神様に指名されたかなんて知らないもの」


「ちっ、違う!貴様はアルカス神の使いだ!モルティヴァ様がそうおっしゃったのだ!」


「何アンタ、神様に会ったとでも言う訳ぇ?」


エルヴァンさんが馬鹿にしたようにハンッと鼻で笑うと、その表情を見た悪コスが勝ち誇ったように笑い出す。


「・・・ふ、ふは、ふははは!モルティヴァ様の存在も知らぬとは!やはり貴様らなぞモルティヴァ様の敵ではな、んがっ!」


喋ってる途中でナイトが後ろに回り込み、残った髪の毛を掴んで首元に短剣を当てている。


「あんま調子に乗んなよ?この短剣はドワーフが作った業物だから、リザルトの皮もスッパリいくぞ?」


「ぐっ・・・」


「ドラヴェリオンに引き渡すのは死体でもいいしな。頭と身体を別々に送られたくなけりゃ、知ってる事を全部話せ」


あらやだナイトってば!荒々しくて良いじゃないのぉ!

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