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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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エピソード 104

「本当に大丈夫?」


「も~エルヴァンおじさんしつこい!」


村の入り口で、エルヴァンさんを若くしたようなアイスエルフさんが怒ってる。


事の起こりは一時間前・・・。


農家エルフさんたちの村を出て野宿を挟んで約一日、大きめの村に着いた。着いたんだけど・・・


「あれ!おじさんじゃないですか、どうしたんですか?」


村の入り口に差し掛かるなり出てきたのはエルヴァンさんにそっくりな若いエルフ。頭には傘のような帽子を被り、毛皮のベストのような服を羽織ってて、日本のマタギっぽい。


「え?アンタ誰よ」


と名指しされたエルヴァンさんは冷たいお返事。さすがアイスエルフ。


「フローネルの三番目の子、クラヴィルの息子のフィリオーンです。式典で数回お会いしましたが」


エルヴァンさんが眉間にしわを寄せて目を細めてジッと見てる。ってか睨んでる?


エルヴァンさんが変な顔のまま固まってるのでネルガスさんがその前に出てきた。


「フィリオーン殿ですな、先日結婚されたと伺いましたがその後いかがでしょう?」


「おかげさまでもうすぐ子供も生まれる予定です。副王大臣様にはお祝いまで送っていただいて、ありがとうございました」


「いえいえ、あれは陛下が・・・」


「陛下が?」


ニヤリ、といたずらっぽい顔で聞き返され、小さなため息をつくと


「まぁこの様子じゃいい訳も出来ませんな」


とおとぼけ陛下を見やる。


どうやら遠い親戚か何かなんだろうけど、エルヴァンさんは覚えてないっぽい。


「ははは!エルヴァンおじさんは相変わらずですね。ほら、前王陛下の生誕記念のパーティで、おじさんの背中に登ってテーブルにダイブした悪ガキが居たでしょう?あれが僕ですよ」


「・・・っあ~!あのクソガキ!何勝手にこんなに大きくなってんのよ!」


おお、思い出したね。正月に親戚が集まったみたいな雰囲気になって来たぞ?


親戚じゃない私達はとりあえず気配を消してみようかと思っていると、爽やか若陛下がこっちを見た。


「今日はどうしたんですか?それに、こちらの方達は人間に見えますけど・・・」


やっぱり気配は消せなかったか~存在感が大きいからね~。


すぐにネルガスさんが説明を始める。すると、少し考え込むような表情。


「おそらくその者は来てません。というか通り過ぎました」


通り過ぎた?


「うちの村はこの辺一帯の獣を狩っているんですが、魔獣の中には恨んで狙ってくるのがいまして。その為、魔獣除けの結界を張って昼夜問わず見張りを立ててるんです。で、二日前に見張りをしていた者から商人のような人間が来たが、入り口の前まで来ると踵を返して通り過ぎて行った、と報告を受けました」


魔獣除け・・・あっ!


ナイトの方を見ると同じことを思ったようで、深く頷いた。


「おそらくドルコスはその魔獣除けのせいで中に入れなかったんでしょう。リザルドは魔獣由来の獣人ですので」


なるほど。じゃあこの村はもう安心って事だね!


「それよりも、よ・・・」


エルヴァンさんが難しい顔をして口を開いた。


「なんでこのクソガキが報告なんて受けてるのよ!偉い立場みたいじゃないっ!」


「え、僕一応村長ですよ?」


「何ですってぇ!村長だなんて悪ガキの癖に!アタシなんて王様よっ!」


何を張り合いだしたんだ、この人は・・・。


ネルガスさんがどデカいため息をつくと、村長さんに向かって「念のため、村の者に確認を取ってもらえるかな?」と聞くと「はいっ!」と気持ちの良いお返事。


後ろで「キィ~ッ!」とおじさん陛下が起こってるけど、顔は似てるのに若い村長さんの方が大人だねぇ・・・。






「先ほどの家族で最後ですかな?」


村長さんのお家にお邪魔して、村の人たちを集めてもらい聞き取りを終えたとこ。


魔力欠乏の症状や変な果物食べた人もいなくて一安心。


「このご時世に魔力欠乏してる子が一人もいないなんて珍しいわね」


エルヴァンさんがアゴに人差し指を当ててポーズを取ってる。喋らなけりゃ絵になるなぁ。


「うちの村で魔力欠乏の症状が出たら、僕が補充してるんで大丈夫ですよ。おじさんに似て魔力が多いらしいんで」


あ~顔も似てるしね。って、そういう事じゃない?


「なに、アンタ魔力の補充出来るの?」


「はい。あ、でもこの前あげすぎて初めて倒れちゃって・・・へへ、ビックリしました」


照れくさそうに頭を掻く村長のフィリなんとかさん。エルヴァンさんに似てるから違和感だわぁ。


「えっ!ダメじゃないの!こっち来なさい!アタシの分けといてあげるから!」


「え?!いやもう大丈夫ですよ。それに急いでるんでしょう?」


フィリさんが断るも、エルヴァンさんは腕まくりしてる。


「いやいいですって!もう回復してますし!」「ダメよ!また倒れたらどうすんのよ!」「陛下!我々は先を急がねば!」


エルフ三人が取っ組み合いみたいなこと始めちゃったぞ。なんだコレ。


「あ、じゃあ」


ずっと黙ってたけど、そっと手を上げる。


「私が雪花樹をこの家の横に生やしましょうか?そしたらエルヴァンさんも安心だし、すぐ出発出来るのでは?」


「それよ!」「それだ!」「え、本当にこの子が?」


返事を返さず立ち上がり、外に出る。


後ろから付いてきたフィルさんに許可を取り、家のすぐ横の地面に手をかざす。


ん~っと、雪花樹・・・あれ?


「キトル様、どうしたんすか?」


「うん、なんか、作りやすい・・・?」


力を込めてみると、見る見るうちに芽が出て葉が増え枝が伸び、どんどん大きくなって・・・大木になった。


「えぇっ?!なんでこんなに大きくなっちゃったの?!」


思わず自分でツッコむと、エルヴァンさんが横に来た。


「キトルちゃんここに来るまでに、その国特有の植物を意識して作った?」


「え?えっと・・・アルカニアでモーリュ草と、バラグルンに入ってすぐくらいかな?」


「あぁ、それじゃスキルアップしてからそんなに作ってないのね。その土地に合った植物は成長しやすいのよ。他の植物と同じように作ったら大きくなっちゃうってわけ」


え、じゃあもし今モーリュ草作ったら、モーリュの森になっちゃうのか?


「でも、これどうしましょう。大きすぎますよね?」


「いえ、このままで!使徒様が作ってくださった樹がある村なんて嬉しいです」


フィルさんがニコニコしながら幹に触れている。


「さて、これでドルコスを追えますな。陛下!出発しますぞ!」


ネルガスさんが促すが、エルヴァンさんは名残惜しそうにフィルさんの方を見ている。


「ねぇガキンチョ、本当に大丈夫なの?やっぱり一回魔力あげときましょうか?」


「だから大丈夫ですって。そもそも、もう回復してますし」


フィルさんがエルヴァンさんの背中を押しながら村の入口に向かう。


で、冒頭・・・。


「ホントのホントに」「大丈夫ですっ!ほら、皆さん待ってますから!また今度お城に会いに行きますね!」


やっとエルヴァンさんが氷馬車に乗り込む。おじさんは心配性だねぇ。


「ご用事おわった?」


ママのお膝で遊んでたルノちゃんが横に座って聞いてきた。


「そうだね、終わったけど・・・次に馬車が止まったら、ルノちゃんが見た悪い人がいるかもしれないんだ。だから、ルノちゃんは護衛のお兄さんとママから離れないでね?」


「はあい」


小さな可愛いお手手が目の前でひらひらと揺れる。


さぁ、このお手手を叩いた悪コスを、思いっきりとっちめに行こうじゃないの!

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