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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
フロストリア王国編

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102/147

エピソード 102

「すご~いっ!ルノ、こんなの初めて!」「風が気持ちいいね〜!」


氷の馬車から顔を出し、風を浴びる。これどの位の早さなんだろ?時速六十キロくらい?


かなり早いんだけど、カーブなんかは自然と曲がるし下り坂ではちゃんと減速してる。


「このように精緻な傾斜操作とこれほど大きな氷の維持が出来る者など我が国でも他におりません。陛下は歴代の王の中でも飛びぬけた才能を持っているのですよ」


自分の事のように自慢げに話すネルガスさん。


「んもぉ~!ネルガスってば、そういうのはちゃんとアタシの顔を見て言わなきゃ~!」


「アンタは前を向いててくださいっ!危ないでしょうが!・・・全く、いつもシャンとしていればもっと早く王になれていたというのに」


「そういえば、最後に会った時は王様じゃなかったですよね?」


結局また小さくなって氷馬車に乗り込んだヘブンが、ナイトの膝の上から聞いている。


「そうですな、前王は陛下の兄君で、魔力も高く賢く謙虚で非常に優れた王でした。ですが三十年ほど前にご病気で崩御され、しばらくは次の王が決まらずにいたのですよ」


「え、魔力が高くて操作が上手い人がなるんじゃないんですか?」


エルヴァンさんがそう言ってたけど、違うの?


「そうですな、基本はその通りですが、ほら、陛下はあの通り中身に難がありますので・・・」


「あぁ・・・」


チラ、と氷馬車の先頭に座ったエルヴァンさんを見ると「なぁにっ?!何か悪口言ってるぅ~?!」と

こちらを見ずに聞いてくる。


「それに、神の使いの従者が国王になった前例などありませんでしたからな。一、二年ほど議論がなされ、その間玉座は空席のままでした。しかしそのせいで治安は悪化し、魔力枯れの国民が回復出来ず、国力は下がる一方でした。しかし国の危機に立ち上がり、国を救ったのが陛下だったのです!」


へぇ~オネエルフの覚醒か。オネ覚。


「その時の陛下と言ったら・・・文句を言う貴族どもを圧倒的な魔力の放出で黙らせ、首都に増えていた悪ガキどもを捕まえ、国中を回って民に力を分け与え・・・その姿を見た国民は、誰もが言葉にせずとも次の王はこの方だと確信したものです」


「ネルガスはその話好きねぇ~」


前を見たまま苦笑いするエルヴァンさん。


「常に王の務めをちゃんと果たしてくれていれば、思い出にすがる事などないんですがね!」


「だあってぇ、アタシが一人で国を回してるわけじゃないんだから、皆でお仕事しなきゃ~。ネルガスだってやる事なくなったらボケちゃうわよ?」


「余計なお世話ですよ!」


やるときゃやるけど、基本やる気のないオネエルフ陛下かぁ。


ポテッ。


ん?


興味のない話をしていたからか、ついさっきまではしゃいでたルノちゃんが私の肩に頭を乗せ、瞼を閉じようとしている。


「あら、ルノってば。使徒様に迷惑よ、こっちにおいで」


とママさんが呼ぶけど、「んん~」と私の腕にしがみついてくる。きゃ、きゃわいい・・・!


「いいですよ、妹が出来たみたいで可愛いし」


横のナイトがグフッって笑ったから肘鉄お見舞いしたら、綺麗に入ったみたいで悶絶してる。


ルノちゃんのパパも出稼ぎ?で村で作ったワインや野菜を売りに首都に行っているらしい。もし首都で会えたらパパと一緒に帰るつもりなんだって。


「まさか主人を追いかける形になるとは思ってもいませんでしたけど・・・でもルノは予定よりパパに早く会えるから喜ぶかもしれませんね」


ふふっと笑うエルフママさん。う~む、エルフの人って肌や髪の色も相まって幻想的で儚げな美しさよね。


ママさんの柔らかな笑顔に見惚れていると、儚げとは正反対のオネエルフの声が飛んできた。


「もうすぐ村が見えてくるわよ!悪コスがまだ滞在している可能性もあるから、ルノちゃんとママさんは村の手前で護衛の半数と待機!アタシとネルガス、キトルちゃん達と残りの護衛は村に行って悪コスの捜索と確保、もしいなくともその痕跡があるか確認、万が一例のブドウがあれば全て回収して!」


「はっ!」


おぉ、ちゃんと仕事っぽい事してる・・・!


わたしも、はっ!ってい言った方が良かったのかな?


チラ、とナイトを見ると「キトル様は使徒様なんですからでんと構えててください」って言われちゃった。何も言ってないのによくわかったね。


膝の上のヘブンも起きて伸びをしている。村の入り口が見えて来て、氷馬車が減速してきた。


そろそろ突入・・・もしかしたらそこに悪コスがいるかもしれないのか。おらワクワクすzz、いや普通にちょっと怖いな。ドキドキ・・・







「商人ですか?あ~最近来たのは・・・おばあちゃ~ん!最後に何か売りに来たのっていつだっけ~?!」


村の中を見て回ってもエルフの女性しかいなかったのでちょっと肩すかし。ホッとしたようなガッカリしたような。


ぞろぞろと村長さんの家を訪ねると、男性は皆畑の世話に行ってるとかで村長の娘さんが対応してくれた。


エルフって言っても皆銀髪じゃないのね。ナイトより年上に見える娘さんは少しウェーブがかかったグレーの髪、でもやっぱり綺麗で彫刻みたい。


「この村は前のとこより小さいから、もしかしたらドルコスも来てないかもしれないっすね」


ナイトが耳打ちしてくる。


そうねぇ、確かに見て回った感じ家の数もルノちゃんの村より少ないし、お店もあんまりない。クリスマス感のある家が並んでるのは一緒だけど、これはこういう文化なのかな?


「物売りが最後に来たのは二ヶ月ほど前だ。うちは畑がデカいから食べ物には困らないし、あまり来ないのさ」


二か月前か~。じゃあ悪コスが来てる可能性はなさそうだね。


「アンタ達お貴族様だろ?すぐそこにあるからうちの畑見てきなよ、立派なもんだから!もっと肥料届けろって王様に言ってもらわなきゃな!」


あははは!と笑いながら腰の曲がったエルフのおばあちゃんが立ち上がり、護衛の人の制止も聞かずに歩き出した。


「うちのばあちゃんみたいっすね」って苦笑いのナイトが言うけど、私も同じこと思ってたから同じ笑みで返す。


おばあちゃんについて雪かきされた道を歩き出すと、ネルガスさんが近くに寄って来てフォローしてきた。


「すみませんな、キトル様。地方にはなかなか手が回らない事もあるので陛下もついでに見ておきたいと言われて・・・」


「いえいえ良いですよ~、畑見るくら、い・・・」


数人のエルフがいる畑らしき場所に着くと、背筋に感じる悪寒は嫌悪感に変わっていた。


目に入ったのは水色のブドウ畑、というほど大きくはないけど、数本の樹。


小さな実を付けた樹のそばに、支柱が今まさに立てられようとしている。


前を歩いていたネルガスさんが振り向いた。


「キトル様・・・!」


「わかってます」


目を閉じながら両手を前に出す。


目を閉じていてもわかるこの不快感。ブドウが早く元に戻してって言ってる気がする。


大丈夫、今助けるよ!


両手から力を放ち、間違った理を正していく。


・・・数秒後、気持ち悪い感じが無くなって目を開けると目の前には普通のブドウ畑が広がっていた。


「お疲れ様です、キトル様」「お疲れ様ですっ!」スキルを使った後の、いつものナイトとヘブンの挨拶。


は~疲れた。一仕事終えた感・・・。


「あ、アンタら何したんだっ!おい、ブドウの色変わってしまってないか?!そこの娘、元に戻せ!」


農機具のようなものを物を持った数人のエルフが殺気立って近寄って来る。


そうか、何も説明せずに始めたから、ブドウの樹に勝手に何かしたと思われてるんだ!


ナイトとヘブンが腰を落として臨戦態勢になった、その時。


「おだまりっ!このお馬鹿どもっ!」


ブワッと冷たい強い風が吹いたと思うと、目の前に来ていたはずのエルフたちが地面に伏せている。


いや、押さえつけられている?起き上がろうともがいてるけど、地面から身体が離れない。


「アンタ達、この子を誰だと思ってんのっ!世界を救う緑の使徒様よっ!控えおろうっ!」


ひ、ひ、控えおろうって言ったぞ・・・?いや、控えおろうで合ってる?リアルで聞いた事ないや。


なんだか水戸のおじいちゃんになった気分だけど、どうしたらいいのかわかんなくて、とりあえず胸を張ってみる。これでいいのか?「やっておしまいなさい」とか言った方がいい?


「あ、アンタは一体・・・」


地面にうつぶせになったまま農家さんのエルフの一人が問いかける。


「フフン!聞いて驚きなさい!このクールビューティのアタシはなんと」


「この方は国王陛下で、私は副王大臣のネルガス・グランフェルだ。事情があってこの村に来たので、詳しく話を聞かせてもらいたい。陛下!早くこの魔法を解いてください!」


歌舞伎役者みたいなポーズをしてたエルヴァンさんを押しのけて、ツッコミ大臣が前に出てきた。


「・・・せっかくアタシのキメ台詞が炸裂するとこだったのにぃ・・・」


口を尖らせながら手を振って魔法を解くエルヴァンさん。


いやはや、植物のこと以外じゃこの国で私の出番はないんじゃないの?

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