エピソード 101
「これよこれぇ~!どうやっても作れなかったのよ~!んん~!美味しい~!」
そう言ってエルヴァンさんが口いっぱいに頬張っているのは、キラキラと白く輝くもちもちの粒・・・そう、日本人の心、白ご飯。
リクエストされたから作ってあげたら、エルフママさんのお店の厨房借りて自分で調理し始めてビックリ。ホントに王様?
でもオカズもなしで白ご飯だけモリモリ食べてるし、ホントに好きなんだねぇ。
ヘブンも「久しぶりですっ!これ大好きです~!」って食べてる。あ~あ、口の周りの毛にいっぱいお米付けちゃって・・・。
「これ、味が無いようであるし、何て言うか・・・美味いっすね」
ナイトは相変わらず食レポ下手くそだな。
「噛めば噛むほど味に深みが出ると同時に感じるほんのりとした甘み・・・消化にも良さそうだし、他の食材や料理と合せても邪魔をせずむしろ引き立て合いそうな食材ですな」
おっ、ネルガスさんわかってるねぇ。さすがお大臣様(?)。
「ママ食べられる?ルノが食べてあげようか?」
「食べてるわよ。あなたはさっきもういっぱい食べたでしょ?」
ルノちゃんも塩おにぎりにしてあげたら三個ペロリと食べちゃったんだけど、まだ欲しいのかな?
「不思議ね・・・どんどん力が出てくるような気がするわ。これが使徒様の力なのかしら」
いえ、お米の力です!と言いたいところだけど、使徒パワーの可能性もあるし黙ってよっと。
ママさんは治癒の花束の花粉、つまりお薬を吸ったんだけど、すぐには効かないみたいでまだちょっと具合悪そう。
やっぱり鼻に突っ込んだ方が・・・と思ったんだけど、全力で拒否られたし仕方ないか。効くんだけどなぁ。
皆が食べ終わる頃、戻ってきた護衛さんとエルフのおじいちゃんに話を聞いたネルガスさんが話を切り出した。
「陛下、村の者にも確認を取ってもらったのですが、やはりドルコスらしき者の顔を覚えている人はおらぬようです」
「子供には効かないような認識阻害の魔道具でも使ってたのかしら?・・・となると、今のところ顔を判別できるのはルノちゃんだけって事になるわね。ルノちゃんに聞きながら似顔絵でも書いてみる?」
エルヴァンさんの提案で、ルノちゃんに話を聞きながらお絵描き大会が開催決定。で、数十分後。
「・・・やめましょう。無駄な時間だわ」
と、散らばった似顔絵を踏みながらエルヴァンさんが早々に閉会宣言。
そりゃそうよね。小さな子供の話を元にド素人が描くんだもん。床には福笑いの顔か魔よけのお札みたいな似顔絵が死屍累々・・・
「キトル様の絵酷いっすね」
何おう?少女漫画の絵柄を馬鹿にするとは罰当たりな!かく言うナイトはちょっと劇画チックな絵。どこで覚えた?
「そうですな、これで探しても誰も見つけられますまい」というのはアメコミ風イラストのネルガスさん。それ、どうやって描いたの?
「まぁこの中ではあたしのが一番だけどね」と自分の作品をピラピラするエルヴァンさんの手には楕円の中に目と鼻と口が点で描かれた人の顔。うん、面倒だからツッコまないぞ。
「しかしそうなると・・・」
とネルガスさんが十数秒考え込み、エルフママさんの前に行くと膝をついた。
この人、話す時に目線を合わせてくれるんだよね。そういう人って信用出来るな~。
「お母さん、念のため再度検討は致しますが、もしかするとお嬢さんにご協力を、いえ、ご同行をお願いしなくてはならないかもしれません」
「え・・・うちの、ルノにですか?」
「ええ。お聞きされていた通り、国の、いえ世界の危機を招くような危険な輩の顔を確認出来るのがお嬢さんだけなのです」
「・・・」
ママさんが下を向き無言になる。そりゃそうよね、こんな可愛いルノちゃんを悪コスなんかに近付けたくないよね。
「ルノやるよっ!ルノ出来るよっ!」
ルノちゃんはピョンコピョンコ飛び跳ねてる。おいおい可愛いな、こんなの悪コスじゃなくてもお持ち帰りされちゃうぞ?主に私かオネエルフに。
「もちろん道中で他に覚えている者がいればすぐにお帰りいただけますし、お嬢さん専属に護衛も数名付けましょう。ウチの陛下は護衛が要らないようですし」
エルヴァンさんが横で口を閉じたまま「んぐっ」って言った。器用だな。
「国からの謝礼や褒賞もお渡しできますし、ご要望があれb」
「どちらまで行く予定なのでしょう?」
「へ?」
ネルガスさんが間の抜けた声を出す。
「目的地はどこになるのでしょうか?あ、あと、期間も」
「あぁ、えっと・・・」
私とエルヴァンさんの方を振り向いて答えを求める顔をする。
「首都、かな?そこからだと近いんですよね?」
どこ、という名前は出さずにエルヴァンさんを見上げる。お花の形の石の存在は公にしちゃダメだから。
「そうね、アタシも一度行ったっきりだから、他の道は知らないし」
さっすが元従者。言っちゃダメな事はわかってくれてる。
「ここから首都まで歩いて七日、アタシの魔法で急げば三日、でも途中の村で嫌な奴の痕跡や他に被害がないか確認しながらだから、トータル四日ちょい。ネルガス、似顔絵や特徴を教えるようドラヴェリオンに魔法鳥で親書を送れって城に連絡したんでしょ?」
「はっ。今頃は城についている頃かと」
「ならアチラからお返事が来るころにちょうどお城に付けるわね。ね、ママさん、長くても四泊五日間の旅行に出ましょって事よ♡どうかしら?アタシとキトルちゃんが守ってあげるんだから、この国のどこにいるより安全は保障するわよ~」
パチン!と音がしそうなほど綺麗なウインクをして見せる。気のせいか、瞬きで飛んだキラキラが当たったエルフママさんが目をパチパチしてる。
「すいません・・・陛下はこんな口調ですが、お嬢さんをお預かりする以上必ずや」
「・・・ください」「え?」
エルフママさんが小さな声を出した。何て言ったの?
「使徒様!先ほどのお薬を下さい!それならすぐに治るんですよねっ?!ルノ、ママも一緒に行くわ!やられっぱなしで寝込んでるなんて、アイスエルフの名折れだもの!」
私をしっかりと見据えて、ふんふんと鼻息荒く言い切るママさん。
「あらヤダいい心意気♡」
エルヴァンさんは手を口に当てて笑みを隠せない様子だけど、ネルガスさんは驚いて口が丸くなってる。
「え~ママも行くのぉ?一人でもルノ大丈夫だよ~」と口を尖らせつつ嬉しそうなルノちゃん。
「なんか、予想外に大所帯になりましたね」「そうだねぇ」
ナイトと小声で喋りながら、もう一度点鼻薬を手の平の上で作り始めた。
「は~疲れたあ~」
エルフママさんがお薬を勢いよく鼻に突っ込んだ後そのまま村の宿場に泊めてもらって、次の日の朝にさぁ出発!という時に昨日のおじいさん、村長さんが慌てて呼びに来た。あの水色のブドウを原料にした作りかけワインを持って・・・。
どんな影響が出るのかもわからないからその辺に流してしまうわけにもいかず、朝っぱらから普通のワインになるまでパワーを流し込んで変色させてきたのだ。その数、五樽分。
もう疲れるのなんのって・・・
「ホント余計な事しかしないな、悪コスめ・・・」
「キトルちゃん、その悪コスって何なの?」
フラフラと村の出口に向かいながらエルヴァンさんが聞いてくる。
「悪いドルコスだから悪コスですよ。本名で呼んであげる必要もないかと思って」
「あ~、なるほど。そうね、どうせ偽名使ってるだろうし、悪コスって呼んじゃいましょ」
ふふふ、と光にを浴びた銀髪を風になびかせながら笑う姿はまさに理想のエルフだな~。
村の出口ではやっと元の大きさに戻ったヘブンとナイト、ネルガスさんや護衛の人達にルノちゃんとママさんの姿も見える。
「あらポッちゃん!元の大きさ・・・って言っても、昔よりは大きくなってるのね!」
「えへへ、そうですかぁ?まだ成長期ですかね~?」」
ヘブンまだ成長途中なの?今すでに馬より大きいんだけど、どれだけデカくなるんだ?
「ナイト、もう私ヘトヘトだからヘブンに乗ってく~。後ろで支えといてぇ」
「へいへい、いいっすよ」
とナイトが私を抱えようとすると、エルヴァンさんがその手を制した。
「やぁねぇ。昨日言ったでしょ?アタシの魔法で行くって」
「魔法?」
そういえばなんか言ってたね。
「見せてあげるわ、アイスエルフの王の魔法を!」
高らかに叫ぶと両手を上げる。
ヒュオ~ッと冷たい風がエルヴァンさんの方に向かって吹いたかと思うと、雪のように小さな氷が集まっていく。
「うわぁ・・・」
キラキラと光る氷の粒が一つ二つと引っ付いて行き、大きな氷の塊になる。この形は・・・
「フロスティキャリッジ、 簡単に言えば氷のソリね。人数多いし、二組に分かれて乗りましょ!」
氷で出来た馬車のような形の乗り物。装飾もされていてすっごく綺麗!テーマパークにあったら大人気だよ!
「あれ?でもコレどうやって動くんですか?」
氷の馬はいないから、ヘブンに引いてもらう?でも二台あるしなぁ・・・。
「ふふん、こうやるのよっ!」
エルヴァンさんが右手を振ると、村の出口の目の前の雪道が凍っていく。
「少しだけ傾斜を付けてるから、乗ってれば自然に進むってわけ。アタシが操作してるから、危険もないわよ~」
す、す、すごいっ!オネエって事以上にビックリしたかも!
エルヴァンさん、今が一番カッコいいんじゃないの~っ?!




