「調子」
「って感じで、もうだめだなって思ったときにデビアスが助けてくれて死なずに済んで、何故か眠らされて今に至るってわけだ」
「....」
はぁ〜、やっと終わったぁぁ..デビアスに説明した時よりも少し時間かかっちゃったけど何とかアーサーが気絶してる間、何があったか説明しきれたな。寝るか。
「じゃあ悪いけど俺寝るから」
「..そいつらは」
「ん?」
「業平を傷つけたそいつらは今どこにいるんだ?」
「分からん」
「そうか..業平、悪かった..俺が弱いから守れなくて、苦しい思いさせて、本当にっ..」
..あのなぁ
「何言ってんだよアーサー。弱いからって、弱くねぇよアーサーは」
「気絶した俺の事見捨てないで三日間も、あんなに傷だらけの体になっても倒れるまで守ってくれたんだ。俺にはそんなことできないし、おかげで俺たち二人とも無事ロウィンにたどり着くことが出来たんだから、だから、自分の事悪く言うのはやめてくれよ」
本当にひどかったんだからな。
全身から血が噴き出てて、いつ死んでもおかしくない状態で、こうやって今話せてるのも奇跡だっていうのに自分の事悪く言って..責任感強いってのも困りもんだ。
「..ありがとう、業平」
「俺もずっと言いたかったんだ、ありがとう、アーサー」
よし、伝えたいことも伝えられたし寝るか。
「ちょっといいかな」
「..何か?」
「他人行儀はやめてくれよ。僕たちも助け合った仲じゃない」
助け合ってはないだろ。助けてはもらったけど。
「どうも」
「..大事なことなんだ。聞いて欲しい」
「....それもっと前に言ってくれよ」
..まぁ、聞くけど、何かを説明するのってすごい疲れるんだぞ。
それを今日目覚めたばっかの俺に二回もさせといて、これ以上何かを求めるのは勘弁してくれよな。
「実はね、君たちにお願いしたい事があるんだ」
....................................
時刻は朝の四時。
暗い夜空に昇ったばかりの陽の光が滲み出す時間に誰かがどこかに向かおうとしているのか、ロウィンの内側の門前には一台の馬車が停留していて、馬車の持ち主が門番と外に出るための手続きを行っている。
「ふぁぁぁ~」
「寝てていいんだぞ。業平」
「あぁ..デビアスが来たら寝させてもらうわ」
屋根付き馬車、キャリッジの中で、眠くてしょうがない業平はあくびをかくが、デビアスが来る前に勝手に寝るのは失礼だと考えているので、アーサーに大丈夫だと伝えると、眠気を少しでもごまかすために、都市の人通りについて話し始めた。
「このロウィンって都市、おかしくないか?こんな時間に人が結構外歩いてて、門も開いてるって異常だろ」
「いや、そうでもないぞ業平。業平の世界では、もう少し遅い時間に一日が始まったのかもしれないが、この世界では朝の三時には一日が始まるし、それよりも一時間前には、神に祈る修道士が目覚め、都市の安全を守る夜警の入れ替えが行われる。だから、人が住んでいる場所であれば、どこに行っても変わらない光景なはずだ」
「うそおぉ...」
異世界の早起き事情に驚く業平。
そこに、門を出るための手続きを終えたデビアスが戸を開け、にこやかな笑顔を携えながら中に入り込むと、出発を告げる。
「すまないね、遅くなって。さぁ行こうか」
....................................
「ぐがぁぁ~ぐーすかぴー」
「熟睡してるねぇ、これから仕事だっていうのに」
「....」
澄み渡る青空の下、デビアスの馬車は目的地に通じる一本道を走る。
この道は、唯一馬車が地面のでこぼこに躓かないで済む道な為、普段は多くの馬車や、出稼ぎに来たり、永住を求めてやってきたロウィンの近くの村に住む村民でごった返しになる場所なのだが、朝早い時間だからか、そのような目まぐるしい光景はどこにもなかった。
「一ついいか?」
「ん?何だい」
「この馬車は、どうやって走らせてるんだ?」
「これは魔法だよ。僕の」
アーサーから見て前方、本来は馬が繋がれているはず先頭には、一頭の馬も操縦者もいないというのに、何故か車輪は回り道を進んでいるので、疑問に思ったアーサーが質問すると、聞きなれているのか、デビアスはすらすらと質問に答えた。
だが、その答えを聞いて更に疑問が増えたアーサーは更に何かを聞こうとすると、それをデビアスは手で遮った。
「僕たちは三人で仲間なんだ。この先はちゃんと説明するから業平が起きてからにしてよ」
「..一時的なものだ。この依頼を受けている間の」
「それでもさ」
「......」
「着くまでに随分と時間がある。君も少し寝たらどうだい?」
「いや、いい」
「そう、なら、何かあったらよろしく」
そう言うとデビアスは、シルクハットを深々と被り直して目線を隠し何も言わなくなった。
馬車の中は、一人のいびきを除いて、静けさに包まれた状態で進み続けた。
「なりひら...なりひらおきろ...起きろ!!業平!!」
「おげぇぇっっ!!?」
「起きたな」
は、腹がっ、沈..むっ..
「行くぞ、業平」
「行くぞじゃっ..ねぇよっっ...」
暴力は..どんな理由があろうと振るっちゃいけないんだぞ..
「準備は出来たかい?ここから先は君らも知ってる通り、入ったら危険な樹林の中だから油断しないように..心配ないか」
「....」
「あい...」
「よし、行こう」
目的地を目指して、一人気合の入ったデビアスの後ろを俺たちは付いていく。
それから一時間が過ぎた。
「なぁ..」
「お手洗いは向こうだよ」
「違うわっ!!って、そうじゃなくて。本当にこの先にあるのか?あの、何とかって石は」
「石じゃなくてオウルムという薬草だ、業平」
「..そのオウルムっていう薬草は本当にあるのかよ。こんな樹林の奥に」
「はははっ、確かだと思うよ。勘当されるときに父から選別として教えてもらった情報だし」
「か、勘当?」
勘当って、マジか..
「......」
「って、アーサー、驚きすぎだろ。目が蛙の舌みたいになってるぞ」
「...?」
「何だいその例え、詳しく教えてよ」
「嫌です..」
もう何かを説明すんのはこりごりだ..
.................... .
「君たち、見えてきたよ目的地が」
「見えてきたよって、あれは..光?」
あれから更に数十分。いつまで歩き続けなきゃいけないのかと精神的に参っていた業平だったが、先頭を歩いていたデビアスが足を止め、奥で輝く光を指さした事でやっと外に出れると思ったのか、淀んでいた気持ちが幾分か晴れ、嬉しそうな顔に変わった。
それを見るまでは..
「おおおおおおおおおおっ...」
外に出た直ぐに目に入ったのは、巨大な山、いや、身も心も飲み込まれてしまう程に巨大すぎる岩山があった。
「こんな場所もあったのか、樹林内には」
「いやぁ、すごいねこれは」
アーサーもデビアスもそれぞれの反応を示すほどに、圧倒的な高さがあった。
「こ、これどれくらいの高さなんだ?てっぺんが全く見えないぞ」
「おそらく三千、いや三千五百くらいはありそうだね」
岩山があることによって、太陽から発せられる日射もかき消され、生み出され陰に身を黒く染められている業平は興奮冷めやらぬ様子だ。
「さて!時間は有限だ!とりかかろうか!薬草探し!」
「これ見てよくもまぁ直ぐに気分変えれんなぁ..」
「....」
発破をかけられ、薬草探しが行われる。
「見つかんねぇ..」
何時間経ったんだ..?
外と言っても、開けた場所に出ただけで、危険な地にいる事は変わりないからと三人固まって探すことになったが、薬草どころか草一本も見つかんねぇ..本当にあるのかよ、こんな所に。
「なぁ、こんだけ探しても無いんだから場所変えないか?腰も痛くなってきたしっ....」
「....」
「は?」
サ、サソリ?それにしてはデカすぎるような、色も砂色で変っ..!!?
「こいつっ..!攻撃してきやがった!!」
尻尾が速ぇっ!
「..ちっ、また戦いかよっ」
痛いのは嫌なんだよこっちは。だから、戦いは好きじゃないってのにめんどくせぇ..
「それでも戦うしかないか..とりあえず、そのしっぽ斬らせてもらうぞ!!」
腰に差していた鞘から剣を抜き取って、前に飛び出し、サソリに向かって振り落とす。
剣なんて振るった事ないが、その硬さも威力も身をもって知っている。
上手く当たれば俺でも斬り落とせるだろう。
「ふっ!!....いっ!?」
しまっ..!?よけられてっ..
「ぐっ..!!」
横っ腹に尻尾ぶちこもうとしやがって..!!少しかすっちまったじゃねぇか。
「毒とかあったらお終いだな」
俺は剣を構え直して思い出す。
アーサーが言っていた。人が、獣が敵であろうと自分を見失うなと。
いつだって、自分が自分を殺すんだと。
「おい、剣、起きてんだろ。お前に役目を与えてやるよ」
借りるとまたいびられそうで嫌だけど、今はあれ着ないと勝てそうにないからな。頼るしかねぇ。
「俺に風の出る服を着させてくれ」
全身に魔力が駆け巡る。
今だ慣れない第二の力だが、空の上に飛ばされた時と違って、自由に使えると思うと気持ちが違った。
「剣圧解放」
そして、あの時と同じように知らない言葉が口から漏れ出す。
次からは、剣圧解放と口にすれば、簡単に呼び出せるようになるんだなと理由もない感覚で理解した。
「行くぞ」
激闘の再開だっ!!
「ふっ!!」
「....え?」
あ、アーサー?
「業平!!無事だったか!!?」
「....」
「怪我はっ..業平?」
「..ありがとな、アーサー」
「おう」
「俺、あっち探してくるわ」
「業平、怪我は..業平?おい、なりひっ..」
..................
「うーん、見つからなかったね。はずれだったかな」
「理解すんの遅すぎだろ..」
「....」
手に汗握る激闘を終え、また探し出してどれほどの時間が経ったのか。空はまだ青いが、少し橙色に溶け込み始めた。
「さて、帰ろうか」
あんなに探したというのに、オウルムという薬草は結局のところ見つける事は出来なかった。
だけど、俺達の役目はデビアスの護衛と薬草探しの手伝いだからな。発見は含まれてない。
だから依頼はこれで完了だ。デビアスには申し訳ないけど。
「腹減ったぁ~」
「業平、服、解かないのか?」
「..あぁそうだった、忘れてた」
また、あの変なサソリが出てくるかもしれないと着たままにしてたけど意味なかったな..
これなら、早くに脱いで動きやすい恰好で薬草探しとけばよかった。
これなら早くに脱いで快適な格好で薬草探しとけばよかった。
「そういえばあの尻尾、毒付きじゃなかったな」
予想に反することばっかだ、今日は。運がねぇ。
ローマが崩壊したことで(東ローマ、西ローマとありますが)舗装されていたコンクリートの道路は無くなり(完全になくなったわけではありませんが)二輪馬車、四輪馬車の存在、技術も消えた為、(存在も技術も消えたというの見られなくなったと言っているのであり、歴史そのものが消えたと言ってるわけではありません)当たり前のように馬車が利用されていることに史実性の違いから違和感を覚える方もいらっしゃると思いますが、この世界には魔力と魔法というご都合主義的な力がありますし異世界なので、きっと車輪に使われている未知の素材かコーティング方法、または、製造師の力によって荒れた地でも揺れることも突っかかることもなく走れてるのだと思います。そもそも、デビアスのコートとシルクハット、片眼鏡が時代にそぐわないドラえもん状態なので(他にも色々と無茶苦茶ですが)好き勝手クオリティーということでお許しください。