「灼吹」
「ヴァルバドス」
片手を突き出して放出された火焔が、倒壊した民家や石畳みの道路に伝番した火を巻き上げ、炎の渦と化して業平に襲い掛かる。
「吹き契り!!!」
重ねて業平も片手を突き出し、無数の風の刃を放出して対抗しようとするが、場の熱に風が狂わされ一定に纏まらず数も勢いも半減してしまう。
通った場所を黒焦げに焼き尾を引く炎の渦と比べ、衝突する前からその差は一目瞭然であった。
「ぐぅううっ!!?」
炎の渦と風の刃の集まりが衝突し、両者の間で熱風が広がる。
風圧に押され身が浮かびそうになる業平と違い、塔の様に傾きが無いハバルは今が好機だと捉えると更に出力を上げ火気を強めた。
「うわあああああっ!!?」
風に穴を開けられ、炎を一身に浴びた業平は吹き飛んで路面を転がる。
「ふんっ!!!」
手のひらを足元に押し付け立ち上がる業平だが、真正面から大剣を振り落とされてしまい、避けるには気づくのが遅く、鈍い音が辺りに鳴り響いた。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぅぅぅっっ!!!!」
「うおっ..!!?」
「ふんがああああああぁぁぁっっっ!!!!!」
直撃する直前、咄嗟に剣を横にかざして大剣を受け止めていた業平は不安定な体勢というのもあって力負けしそうになるも、もう片方の手で面を押し上げ刃を滑らして回転し、抜け出すと同時に回転の力を乗せてハバルの横腹を斬り裂いた。
「....ごがぁっっ!!?」
「お返しだ!!!」
すぐさま後方に飛び退き、業平はハバルの傍から離れようとしたが一挙の間に距離を詰められ側頭部を殴り抜かれてしまい、顔を鷲掴みにされ、燃やされながら何度も何度も路面に頭を叩きつけられた。
「ふっ!!!」
「くぉぉぉぉぉっっっ....!!!?」
「カカカっ!!!蹲ってんじゃねぇ!!!」
流血し、血溜まりとなった中で気泡を吐き出している業平をハバルは蹴とばす。
そして、蹴とばした先で痛みで悶えている業平の姿が目に入っても躊躇などせず走って飛び上がり、重さをかけて圧し潰した。
「に、逃げるっっ!!!」
「むっ..」
真下に向け風を放出し、業平は自身ともどもハバルを吹き飛ばして低飛行で逃げ出した。
「ここでいいか......ふぅぅぅぅっ....」
魔力の無駄遣いを考え、火の海と化した大通りを走って移動していた業平は丁度いい瓦礫の隙間を見つけると、中に入って大の字で横になり、大きく口を開けて息を吸った。
「はぁぁぁぁっ......あついぃぃ..一歩も動きたくないぃ..疲れたぁ....このままじゃ先に熱にやられるぅ..」
吸った分以上に息を吐き、内に籠った熱を外に排出しながら業平は自身の身に起こった異常に呻く。
血や汗を流しすぎただけでなく、熱気に強く当てられたせいで意識が朦朧としてしまい、視界も震えてしまっていた。
常時風を纏っているとはいえ、狩衣を着て戦っている状態で燃え盛る空間など耐えられる訳が無かったのだった。
「......無茶苦茶だアイツ..ずっと燃えてるし、傷つけてもすぐ治るし....何より、容赦がないし..勝てる見込みなんて......駄目だ、頭が痛い、考えるだけで疲れる..とにかくこの熱さをどうにかしないと..!!?」
顔に手を添えて、ハバルの猛攻を思い返していた業平の耳に楽しげな喜色が織り交ざった怒号が轟く。
「どこ行ったぁ!!!隙狙って満喫中かぁっっっ!!!あぁっっ!!!」
確かめずとも、その威圧的な声から叫んでいる者が誰であるか分かっている業平だが、正確な位置を知る為に瓦礫の隙間から目を通して確認すると、追ってきたハバルが声を張り上げながら周囲一帯を練り歩いていた。
「ここかぁっ!!それともこっちかぁっっ!!!」
「......うるさいっっ..しつこいっっ..」
目星は付いているのか、ハバルは気になった個所を見つけるとその場に立ち止まり、間から火を潜り込ませ、内から炎柱を昇らせて隠れ先をしらみつぶしに炙り出していく。
それを見て業平は、見つかる前にこの場から立ち去るか先手を打って対処するか少し悩む素振りをとるもやり過ごす事に決め、変わらず大の字で横になったまま、瞼を閉じてまだ見ぬ未知を追い求め始めた。
「天挈は..押し負けちゃうし、吹き契りは..威力不足。神代は....使ったら絶対に気絶しちゃうから確実を狙わないと....杖は....これも外れたら魔力がからっきしになるだけだし、壺は......笑い取ってる場合じゃなーい!!!」
早急に秘策を用意しなければ、風前の灯ならぬ灯前の風になってしまうと消えゆく自身の姿を幻視してしまい、業平は探されているのも忘れて絶叫してしまう。
「どうしたものかぁ..」
「ん?......そこかぁっっ!!!」
「ぎゃああああああ!!?」
聞こえてきた千載一遇の機会をハバルが聞き逃す事は無く、隠れ場所目掛け大剣が投げられ、着弾して業平は瓦礫ごと吹き飛び、数軒の民家の壁を突き破って最後は竈に体を打ち付け、ひっくり返った状態で静止した。
「見つけたぞぉっっ!!!」
「ひぃぃぃぃぃっっ!!!?やばいやばいやばいっっっ..!!!な、何とか、何とかしなきゃ、何とかっ..!!!」
駆け抜けながら、ハバルは路面に突き刺さった大剣を回収して業平の元に迫る。
起き上がったばかりの業平は、その状況にただただ慌て、恐怖で震えるしかなかった。
「後は扇だけ..だけどっ..」
「カハハハハっ!!!」
「....ええい、ままよっ!!!」
昂る業火がもうそこという所にまで近づき、勝ち手がない業平は半ば自暴自棄になりながらも、望みを込めて扇を振るい子狐達が呼び出され、宙を跳ねて突撃した。
「こんな縮れ火、炙られもしねぇわ!!!」
しかし、子狐達は大剣の一振りによってあっけなく斬り落とされてしまった。
「あ?」
二分された子狐達の体が横に大きく膨らみ、ハバルを包み込んで張り付く。
「何だこいつら大きくなって、纏わりついてっ....ぐがぁぁっっ!!?」
己の身を燃やす炎を異に返さない処か、糧にして今以上に膨張して広がったので、不思議に思ったハバルは歩みを止めてしまう。
油断ともとれるその合間に、同じ文体同士、液体状に変化した子狐達は繋がって固まると、全体が魔力であふれ出して爆発した。
「な、何だ、何がどうなって」
希望が絶たれ、精神が絶望の淵に侵食されつつあった業平であったが、一変し、呆然とした様子で立ち込めている火煙を見遣る。
「....もう一度放ってみるか..?石橋は叩いて渡れって言うし..」
たった一度の起死回生の反撃であったとしても、業平は掴み取った一寸の希望を握り直して、唾を飲み込んで決断する。
心中に、勝機を逃すという手は無かった。
「ふんっ!!!」
扇が力強く振るわれ、今度は先ほどよりも多くの子狐達がハバルに向かって行く。
「これしきぃぃっっ..!!......ごぉぉぉっっ!!?」
爆破を懸念し、ハバルは攻撃を中断して避ける行為に全神経を集中させるが、数が多く数体張り付いてしまい、またも分体同士液体状に繋がって爆発した。
「....いける、いけるぞぉっっっ!!!」
業平の鼓動が激しく高鳴る。
どういう理屈の元、ハバルの身から溢れ出ている炎を無効化し、子狐達は糧にしているのか業平本人も分かっていなかったが、間違いなく自身の方に分が傾き始めているという確信はあった。
「ようし、このまま遠くから狐達放って勝つぞぉぉぉっっ!!!」
それでも業平は真っ向勝負を恐れ、卑怯者らしく遠くからの争いで勝利を勝ち取ろうとする。
だが、突然扇が光りだした事で運命は、業平を戦いの主軸から引き離させない。
「い、いだいぃぃぃっっ!!?手首が捻じれるぅぅぅっっ!!!」
謎の光によって強制的に業平の右腕が捻られ、子狐達が描かれた裏面から狐の女が描かれた表面に扇の面が裏返る。
意思に反して意のままに自由を制御されてしまった業平は、それだけが役目であるかの様に、扇をハバルに向け振るわされた。
「....はっ..はっ....はぁっっっ?な、何でアンタがっ..!!」
頭から突き出た狐耳、光沢輝く黒の頭髪、太陽を催した髪飾りに気品漂う佇まい。
「....」
鮮やかな着物を着込んだ狐姫。
フルックヌーが腕を組んで立っていた。
本当は初めの銀速一話でここまで乗せる予定だったんですけど、やっぱり長いと精神的に負担掛かっちゃって遅れあそばせました..嘘です。怠慢働いてました。
蛇足ですが、扇に備わった能力は狐火です。吸火じゃありません。きゅうは嫌いなので。




