「愛燄」
場面変わり、その生まれ持った隠す事は天にも許されていない可愛さが理由に、エイラと名乗る少女に気に入られてしまったバッヂは非常に戸惑ってしまっていた。
「今日はどんな用事でサテナに?誰かと一緒に来たりとか?仲良い人結構いる?趣味は?名前だけは呼んでくれないかな、うそ、良かったら名前も教えてくれないかなぁ......って、ごめんごめん。沢山話しかけちゃった。抑えきれなくてつい....ね」
「え、ええうぅっ..」
今は元居た位置に戻っているが、傍に寄ってこられながら沢山の質問を投げかけられたバッヂの顔は恥ずかしさで真っ赤に染まり、隠す様に下を向いた。
それと同時に、先ほどからの予想に反した相手の反応に心の中で困惑を露わにする。
(....ど..どうしよう..さっきから全然戦いが始まらない........旅行しに来た人だと思われてるからかなぁ..?....だとしたら、ここは自分から目的を打ち明けてっ......で、でも....)
顔を少し上げ、バッヂは上目づかいでエイラを見つめる。
「......う..うぅっ..」
(や..やっぱり無理だぁ..僕にはこの笑顔を崩せない..崩したくないよ..)
敵意や悪意などの戦闘に繋がる感情をむき出しに挑みかかられれば、バッヂにとってはどれほどまでに楽であっただろうか。
相手の機微を感じ取ろうと一片たりとも目を離さずに見つめ続けているが、何も分かってない様子で微笑まれるだけなので、戦いを望んでいる事に変わりは無いものの、自身もサテナを陥落させにやって来た襲撃者の一員であると打ち明けた時のエイラの心情を想像してしまうと、良心と板挟みになって口をつぐんでしまうのであった、
「....」
泥濘にはまり込んでしまった様に、頭を抑え悩み苦しみだすバッヂ。
その愛おしい姿を見て、エイラは何を言われずとも内心を察した。
「もしかして、この騒ぎってお仲間さん達が起こしたものだったりするのかな?」
「あ..え.い....いいっ..」
確信を突かれる問いかけをされたバッヂは、見て分かる程に動揺し始める。
「あぁ、大丈夫大丈夫、それなら仕方ないよ..立場が違うから、今はまだ仲良くなれるわけないか」
しかし、エイラはバッヂの心配とは違い、確信に至る結果となっても暗く佇むわけでもなければ責め立てる事もなく、慈愛が籠った目で優しく見つめ返しながら、腰に付けている木製の箱に触れてある言葉を発した。
「四針」
二本の、針の様に細長い槍がエイラの両手に現れ握られる。
「仲良くなる為にはまず、その立場をどうにかしないとね」
「えっ」
「ごめん、少し痛むと思うけど直ぐに終わらせるから安静に....ねっ!!!」
言葉早々に、予備動作も捉えさせない速さでバッヂの目の前に移動したエイラは、左腕を狙って横斜めから槍を貫き落とす。
突然の攻撃に驚いてしまい僅かに反応遅れるバッヂだが、杖を打ち当てると、押し込まれる力を利用して数歩後ろに引き下がった。
「やっぱり運動神経良いんだ。リナさんが言ってた通り」
「イファースっ..」
「それも知ってるよっ!!」
杖先をエイラに合わせバッヂは魔法を唱えようとしたが、右横腹に槍を叩き込まれ、体が九の字に折れ曲がりながら遠くに吹き飛んでいく。
「ふんっ!!!」
「ぐぅぅぅっ..!!?」
九の字から逆さまになった状態で吹き飛び続けているバッヂは、地に足付けようと杖を地面に押し当て勢いを削ごうとした。
だが、間髪入れずに槍が投げられ、無防備に垂れ上がっていた左腕に深々と突き刺さり、鮮血が宙を舞う。
「仲良くなろ!!」
投げた方とは反対の方の槍を利き手に預け走り出したエイラは、直前にまで迫ると、次は右腕目掛けて突きかかった。
「セデメンテス!」
突きかかられたその時、地面に手を向け魔法を唱えたバッヂは自身とエイラとの間に岩の柱を突き出し、盾代わりにして攻撃を阻害した。
「カルン」
岩柱が砕かれ砂煙が広がる中、バッヂは急いで岩で出来た水牛を作り出し背に乗り込むと、この場から離れるよう走り出させる。
「っっ..」
一息つく事もせず、突き刺さっている槍を抜き取ろうと手を伸ばすバッヂであったが、柄に触れた瞬間、槍が塵と化して腕に纏わりつき、文字が入った円の文様が肌に巻き付くように浮かび上がった。
「はぁっ..はぁっ..ど、どうして..」
バッヂは、今日二度目の困惑を露わにしながら左腕を凝視する。
流れ出る血と汗の奥で黒く輝いている文様が気になっているのではない。
「腕がっ..」
左腕が突如として動かせなくなってしまったのだ。
「あ、あれ?いない......もしかして、逃げられちゃった?」
砂煙が消え、辺りを見渡せるようになったエイラも困惑していた。
「うーん、向かって来ると思ったんだけどなぁ。態勢を整えたいのかな」
顎に手を当て、エイラはバッヂの心境を読み解こうとする。
「ま、それ以上は離してあげないけどね」
離れていくバッヂの背中が視界に入った途端、エイラは当てていた手を腕ごと前に構え、反対の腕を後ろに内に引き締める。
「クェーク」
続けて、膝を曲げて前のめりの姿勢になると、魔法を唱えて駆け出した。
「っ..!!」
着ているローブの裾を千切り、槍が刺さっていた個所を結んで止血していたバッヂの顔に焦りが浮かぶ。
とじんもない速さでエイラが迫ってきていた。
「イファースブ!!!」
作り出した数本の細岩をバッヂはエイラに向けて発射するが、意にも介されず走りながら叩き壊され、大振りで槍が投げられた。
「外しっ......!!?」
「ははっ!!!」
投げられた槍が横を通り過ぎ、思わず直撃は免れたと安堵してしまいそうになるバッヂであったが、間近にエイラが現れ槍を掴むと、渾身の力を込めて上から下に振るい落とした。
「っっっ..!!!」
「また会ったねっっっ!!!」
水牛が粉砕され宙に放り出されたバッヂは、地面を何度か転がった後、即座に立ち上がり振るわれた槍を杖で受け止める。
そのまま押し合いとなり押し倒されそうになるバッヂだが、踏ん張って持ちこたえると、強引にエイラを跳ね除けた。
「......がっ!!?」
間合いの差は長物を扱うエイラの方が有利で、バッヂは縦や横に振るわれる槍を体を反らして避け続けるが、顔に叩きつけられ打ち抜かれてしまう。
「ああああっっ!!?」
仰向けで吹き飛ぶバッヂの右足を掴んで、エイラは槍を突き刺した。
「四針」
木製の箱に触れ、新たな槍を手にしたエイラはバッヂの胸板を踏みつけて身動きを取れなくさせる。
「もう一本!....ととっ、元気があるね」
「ごふっ..ううぅ..!!!」
右腕を狙って槍を突き刺そうとしたエイラだが、杖でふくらはぎを叩かれ膝を崩されてしまい、その隙に拘束から抜け出したバッヂに肩を力強くぶつけられて仰向けに倒される。
そのまま抑え込む形をとられ、喉元に杖の下先を突き立てられるが、エイラは握っている槍を投げ捨てると両手で掴んで抵抗に努めた。
「うぐぐぐぐぐぐっ..!!!」
左腕と同様、右足に刺さった槍が円の文様と化し、肌に浮かび上がってから右足も動かせなくなってしまったバッヂは、ここで決めなくては勝てないとはっきりとした気持ちを抱いて杖を押し込む力を更に強める。
口からは、歯の噛みすぎで血が流れ出ていた。
「いっ!?」
「動かせないだろうけど痛覚は残るんだよ」
必死な形相を直で見て恍惚とした表情になりながらぼーっとしてしまうエイラだったが、杖を押し込まれる力が強く、振りほどく事は決して不可能と察すると、素早く離した左手でバッヂの指を折り曲げ、痛みでひるんでいる間に腰を上に引いて腹を蹴とばした。
「四針」
箱に備わった能力で投げ捨てた槍を手元に戻したエイラは、一呼吸置くと、真正面からバッヂに襲い掛かった。
「..カルンっ!!!」
「はっ?」
横に手を向け、バッヂは魔法を唱える。
手の先には砕かれた水牛の残骸があり、中から岩で出来た大鷹が飛び出して、エイラの背中にぶつかった。
(何で..いつ..どうやって..どうやって後ろに....まさか、さっき砕いた水牛を元にっ..)
「うおおおおおおっっ!!!」
大鷹に背中を押されて近づいてきたエイラの顔面を、拳を構えた状態で待ち構えていたバッヂが打ち抜いた。
「......げっ、げふっ..ははっ..いいね!大好きだよ!!!こういうのも!貴女が一番だけど!!!」
「..はっ..はぁっ..」
(こ、これでも..た..足りなかったぁ..)
何事もなかった様にエイラが起き上がり、無自覚に自身の体力の底を感じ取ってしまったバッヂは、我慢できず膝を付いてしまう。
大鷹に押し込ませた勢いを上乗せして放った拳だが、使い物にならない右足を抱えたままでは仕留めきるどころか致命傷にすら至らず、勝ち逃げは算段共に崩され、一か八かの望みが叶う事はなかった。
「残る二肢、どっちから刺そうか!!!」
可愛すぎるのが悪いバッヂの台詞に納得がいかず更新期間がだいぶ空いてしまったのと、文字数が多くなってしまったので分けました。(このあとがき自体も三週間前のものですが)
実質、銀速sono2です。




