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「霞網」

「..あれがデビアス、非情な(やから)ですか」


今も空の上で留まり続け、地上に降りてくる様子を欠片(かけら)も見せないデビアスのその蛇のような目に見下ろされ、ガブリエッラは事前にリナ達から聞いていた印象、そして、そのリナ達が殺された事で重なった印象が口から漏れ出る。


言い表せられない程の怒りが、心の中で渦巻いていた。


「っ......慣れませんね、やはり、仲間の死というものはいつまで経っても。受け入れたくないと思うのに、直ぐにでも報いをと、この衝動に身を任せたくなる....とても、苦しくて仕方がない」


これ以上自身に課した役目から気持ちが遠ざからない様、胸の内に走る痛みに手を当てて心に仮面を被せていくガブリエッラだったが、相反(あいはん)する想いも一緒に奥に押し込まなくてはいけない事には窮屈さを感じてしまい、(よそお)いに覆われてしまう前、最後に、顔をしかめた。


「ですが、今は感情に囚われてはいられません.....申し訳ありませんが状況も状況ですから、少しの間、リナ達には指を噛んでいてもらいましょう」


下げていた顔を上げ、辺りを見渡す事で目にした鬼気(きき)迫る表情で周りを通り過ぎていく群衆達の波を悲しく思いながら、ガブリエッラは次の行動に移る為、情報を整理していく。


見える範囲が知れる現状の中だが、穏やかだったサテナ都市内はデビアスが唱えた魔法によって助けを求める声すら()き消える、恐怖と怒声(どせい)だけが入り混じった孤独の都市に変わってしまった。


これではデビアスの力など関係無しに、この都市に居る全ての者達の間で広がり始めている混乱によってサテナは滅んでしまうのではないか、いや、それ以前に、愛す民同士が自分や大切な者達を守ろうと押しのけ潰し合ってしまう。


そんな暴力が波及した、血で塗りたくられた光景(サテナ)が頭に(よぎ)った時、ガブリエッラは腰に差している(さや)から剣を引き抜き、剣身に魔力を(とも)し、内に眠る錫獣達に呼びかけた。


「行きなさい、お前達。これも計画の内でしょうが、一人でも多くの者を助け壁の外に避難させるのです」


使命を与えられた多種多様な錫獣達が、獅子奮迅(ししふんじん)といった気概(きがい)で輝きに溢れた剣から飛び出し、サテナ都市内全域に駆け巡っていく。


これらは全てガブリエッラが十六歳の頃、今は無きある国の軍事侵攻が発端となり勃発したここ千年の中でも大きな戦争時に、見事、水の国の王剣使いを倒し、王剣を手にした今日までに退治してきた錫獣達の写し身で、飛び出した数百の内の八割がサテナ都市民()の救出・避難に充てられ、数体の突起戦力を除いた二割が王族及び貴族、その従者()といった王城周辺に住まう者達に割り振られた。


「やっと、錫獣を使い始めたか」


それに誰よりも早く気が付いたのは、先ほどからガブリエッラの動向を注視し続けていたデビアスである。


「問題は、全ての市民を避難させ終えるのにどれほどの時間が要されるかだ..今、殺した女の死は何とか誤魔化せても、次は確実に業平に感づかれてしまうだろうからね、早く終わらせて欲しいものだよ」


今回の戦いに参加してもらう為、業平との間に、人を殺さないという無理難題に等しい約束を結ばされた事を思い返したデビアスは改めてがっくりとしてしまう。


まだ、元居た世界の常識を引きずるのかという気持ちにもよるが、これで二度目とはいえ、白紙のカードを消費しなければ唱える事が出来ない死海塩砂(ソルト)の力を十全に振るえる良い機会だというのに、それを自ら放棄せざるえないというのは、性格上、とても納得がいかなかった。


そんなデビアスの眼前に巨大な影が四つ差し込む。


「....控えていた錫獣を足止めに使うか。しかも、どれも大物ときた」


それらの正体をデビアスは知っていた。


「”瑞双蛇(ずいそうじゃ)”アクアリング”、憤牙竜ふんがりゅう”ヴァックボック”、千手咼(せんじゅか)”クレアソナ”、そして、戯殺興狼(ぎさつこうろう)”のダラン。大層な異名を付けられた前時代の元覇者達、間違いなく強敵だ」


水で出来た体内で激流渦巻く浮かぶ蛇、硬く張った茶色い肌に鼻から漏れ出る熱煙、大きな血管とよく目立つ四足歩行の竜、無数の手の中心に位置づく呪いの妖精、大鎌を持った狂気の老狼。


王剣使いも無邪気に嬲れる怪物共が、徒党を組んで横並んでいた。


「だが、それも想定の域を出ない。黄の王剣の能力によって写し出された錫獣達にも本物と同じ強さ、能力が備わっていたのであれば話はまた変わるが、実態は、姿を写しただけの中身の無い傀儡(かいらい)でしかないからね。それに..()()()()()()()()()()()()


挟まれる僅かな沈黙の合間、建物の隙間を何重にもくぐり抜け、風を切る音と共に飛んできたある物がダランの横腹を押し曲げながら貫通し、そのまま他三体の体も貫いてバラグシャバラに吹き飛ばした。


「....嬉しいね、どうやら僕もここからは張り切らないとどうしようもないみたいだ」


事前に用意していた解によるあっけない決着とはいえ、期待実らず、少々ガッカリしてしまったデビアスは溜息をついてしまいそうになるも、散らばったダラン達の体が突如として宙に集まりだし、一つの肉塊となって融け合わさればそれぞれの特徴を満遍なく揃えた一体の錫獣に変化したので、一転して、まるで唯一の活路が切り開かれたかのような嬉々とした表情を浮かべながら、左手に現わした赤いカードに魔力を込めて魔法を唱えた。


「ボルグ・ヴェーレ」


赤いカードが雷の槍となり、不動でいたデビアスが遂に地上に降り立ち始める。


「全力を振るわせてもらおう」


当たれば、どんな障壁に包まれていようとも塩塊と化させてしまう光の柱を流星の様に錫獣達に向けて

振るい落しながら、デビアスは、雷槍(ボルグ・ヴェーレ)片手に市民の被害を極力気にかけて挑みかかる。


一方その頃、事前に聞かされていたデビアスの指示に従ってオルムニーヴァの杖を投げ放った業平は、そのままの姿勢で固まっていた。


「..あ、改めてやばいなあの杖。あんな強そうな奴らを一纏(ひとまと)めに倒しちゃって、バズーカ砲ぶっ放した気分だ」


いともたやすく錫獣達を葬った杖の力に恟然とし、本来の目的を忘れていつまでも先の行動に思考が囚われ続けそうになる業平だが、一人の男の声が耳に入ってきた事で更に驚く羽目になる。


「まさかとは思ったが、杖が投げられた場所を目指してよかったな」


「げぇぇっっ......?」


「今度はてめぇらから襲撃しかけてくるとはなぁ、おい」


背中にかけている鞘から既に大剣を引き抜いていたハバルが、悠然とした足取りで近づいて来ていた。


「ぶちのめしてやったのに、詰めが甘かったかこんな大それた事企てやがって、罪の大きさ考えれば生きて帰れるだけが心配にはなれねぇぞ!!!分かってんのかぁっっ!!!」


「......?」


「どうした、今になって力の差を思い出してっ..」


「なぁ、何で泣いているんだ?」


流れる涙を見た時から話が頭に入ってこない業平は、怒鳴るハバルの言葉を遮ってでも訳を知りたくなり、無粋だというのに声をかけてしまう。


「そんなに涙流して、何か悲しい事でもあったのか?」


「..........そうか、てめぇは........いや、何でもない。が、泣いたりもするだろう。自分の国がどよめきにまみれて、お前は平然としていられるのか?あ?」


「......」


至極当然な言葉を受け、その通りでしかないなと心に釘が刺さった業平は、今回の作戦に同意してしまった自身の愚かさを強く感じ直し、地面に手を付けながら(うずくま)って項垂れた。


「....気にさせて悪かったな。ただ気持ちが高ぶっただけだ、この前と同じように」


「この前と同じようにって、あの時は涙なんか流してっ..!!?」


「だから、ここから先は何も気にしなくていい。この身から溢れる火に燃やされないかだけ警戒しろ..通え」


ハバルの体から火が上がり、剣に移される。


前回の時とは違い、今回は、初速から全開を発揮させるつもりのようだ。


「..そうかよ、なら俺も気にしないで戦うだけっ....はちょっと無理だけど行くぞっ!!!」


うだうだ言いながらも、昇った熱気に当てられ目に火を灯した業平は戦いに臨もうと大きく叫ぶ。


剣圧解放(スラッシャー)!!!」


吹き荒れる猛風の中、狩衣を着込んだ業平は剣を引き抜くと同時に一歩踏み出してハバルの前に現れると、魔法を唱えながら剣を下に振るった。


「断ち斬りっ!!!」


先手は、業平から繰り出される。


「......うぅぅぅぅぉぉぉぉおおおっっっ!!!」


「....しっ!!!」


振り落とされたというには余りにも強大な一撃を大剣で受け止め、足元の地面が陥没しても押し負けない様に力を込めて受けきったハバルは、跳ね返して業平の体を宙に舞わせる。


そして、腸を切り出してやろうと今度はハバルの方から大剣の切っ先を腹に向けて突き出すと。業平は、斬られる前に剣を下から叩きつけ、剣同士がぶつかった衝撃の反動を上手く利用して真下の地面に着地し、足を狙って刃を横に振り回す。が、飛んで回避されてしまう。


「ふっ..!!!」


追撃でもう一度下から剣を振り上げるが、体を横に反らされた事で難なく回避され、直ぐに後方に移動される。


その動きを同時に察知した業平は、距離が空かないよう刃を下に向け直してから即座に詰め寄り、左肩から右腰に掛けての斬り落としを放った。


「安直だな....、先手、詰める、その二通りしかない」


見切っていたハバルはまた体を斜め後ろに反らして避けると、首筋に宛がうように大剣を横に振るう。


しかし、当たると思われていた大剣は直前で業平の姿が消えた事で空振り、どこに居るのかと辺りを見渡し始めれば、業平は、すぐ隣で剣を横に構えていた。


「....どうだっ!!!」


横腹に向かって剣を振るい、斬り傷を刻み込んだ業平は反撃を食らわないよう直ぐに後ろに飛び引き、振り落とされた大剣を回避する。


「..強くなったじゃねぇかぁ」


「まぁね」


強さの秘訣があった。


「俺には戦闘経験と速さが足りないと思って、この数日間はアーサーの動きを観察し続けたからな。その見返りに俺は、魔力を一点に集中させる方法と、無駄なく全身に行き渡らせれる秘訣を教えた訳だけど、まぁ、教えたって言うか軽く伝えたら直ぐに物にされちゃった..」


最初は褒められたという事もあり上機嫌に回想していた業平だったが、自分のお得意が直ぐに習得されてしまったのを思い出すと自信を無くしてしまった。


「..ずっと前からだけど、アーサーの方が俺よりも何十倍、いや、何百倍も強くなったよ」


今、どこで誰と戦っているのか、負ける心配はしていないが、相手を死に至らしめてないか気にしてしまう業平の顔から冷や汗が流れ落ちる。


まだアーサーは戦いを始めていないというのに、悪い予感がしてしょうがなかった。


「貴様が、ハバルが話していたアーサーという者か」


「......」


銀の仮面を被る男とアーサーが対面を果たす。


「何故、私の居場所に迷いなくたどり着けたのかは分からないが、一人で何をしに来た?お前は、もう一人と共にハバルに挑んで完敗してしまったらしいじゃないか」


「......」


「もしや、一人で挑んでも勝てると思ったのか、この私にならっ..」


「おい」


「..何だ」


「名前教えろ」


「答える義理が無いな」


失礼な物言いに顔をしかめた仮面の男は要求を突っぱねようとするが、アーサーは言葉を続けた。


「約束したんだ、殺しは何があってもするなと、だから、俺はお前も殺せない」


剣を引き抜きながら、アーサーは無自覚に挑発する。


「だがもし、俺が思っている以上にお前は弱く簡単に死んでしまうような存在だったら困る事になる。残された遺族に骨を渡そうにも身元が分からなくて。だから、教えろ」


「......私に家族というものは居ない」


表情から感情を読み取る事は出来ないが、声色に怒りが混じっている仮面の男の周りに、大粒の水銀が幾重にも滲み出した。


「信棒するガブリエッラ様の為に生きているだけだ」


水銀の集まりが連射され、それを剣で撃ち落しながらアーサーは仮面の男に迫っていく。


またも場面が変わる。


「....あ、の..」


「なーに?」


「......あうぅ..」


バッヂは困っていた。


目的の人物を発見し、すぐさま攻撃を仕掛けようとしたのに調子を崩されてしまって。


「無理しようとしなくて大丈夫だからね、落ち着いた時に話しかけてくれればいいから..因みに、私の名前はエイラって言うんだけど、試しに、名前だけ呼んでもらえたりっ..」


(ま、また変な人に当たっちゃったよぉっ..)


各地で、一対一の戦いが始まる。

内容としてはソドムとゴモラ+バベルの塔をモチーフに書いてたつもりですが、実際はそれだけではありませんでした。むしろ次いで要素程度でした。


(黄の王剣の能力によって写し出された錫獣達は、目といった一部の機関を除いて骨と筋肉だけで構成されています。臓器とか血はありません。内臓等無くても体崩れたりしないのかは分かりませんが、グロテスクな表現とか描写とか嫌なので無いです)

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