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「怨嗟」

サテナ都市内の中心部に位置する王城、その屋根部分には、古くから、位が高い者が罪を犯すと収監される塔がある。


塔と言っても、風が吹けば吹き飛んでしまいそうな細長い形をしているので、取り付けられてある窓を外側から見つけられた者が居たとしても、その中にはこじんまりとした部屋があり、収監者が出られないよう鉄柵が設置されてある事を確認できる者はまず居ないだろう。


それこそ、自身が招いてしまった失態によってとはいえ、一カ月もの間、塔の中で悔い改める事以外の行動を許されていない女の姿にも。


「仕方ないじゃないすか、リナさん、独断で奇襲しかけちゃったんだから。罰は罰として受け入れなきゃ」


「..い、一々蒸し返されなくたっても分かってるわよ!私が悪い事くらい!!でも、しょうがなかったのよ!ソリッタを傷つけたあのクズがどうしても許せなかったんだからっ!!!」


「いや、俺は?」


「アンタは......まぁ、いいじゃない、ハバルが心配してくれたんだし。というか、何でアイツは許されて私は塔の中なのよ!!!」


「そりゃそうでしょ、ハバルさんは、リナさんに何かあった時の為に同行してただけなんだから罪を問われたりはしないっすよ」


「はぁっ!!?嘘よそれ!絶対に嘘!!!アイツ、戦いたい相手がいるからって自分が戦闘楽しむために、私に魔法使い押し付けてきたんだからっ!!!騙されてるのよアンタ達っ..」


「ゴホン」


「あっ..」


様子を見に来ていたオッキオの淡々とした正論に、頭では納得がいっても心では受け入れきれないリナは自分の現状をハバルの今とも比べて激高し始めそうになるが、もう一人の来訪者であるソリッタが怒っている事に気が付くと首筋に冷や汗が流れた。


「そこまでにしてください、一生涯、塔の中から出ないおつもりですか?」


「ご、ごめんなさい、ソリッタ、そんなつもりなかったのよ、本当に。ただ、私は..」


「..分かっています。今のは反応してしまったお姉さまも悪いですが、そもそも、オッキオが過ぎた話を蒸し返さなければ良かった事。そうすれば、お姉さまも怒らずに済んだのですから、一番悪いのはオッキオです」


「うんっ..!!うんっ..!!」


「おいこら」


二人から罪を擦り付けられ、今度は、オッキオの方が納得いかないという感情を表に出す。


「ですが私は、リナお姉さまとは、この鉄柵越しにではなく直でお話しし合いたいのです。ですから、ガブリエッラ様や私達の制止を振り切り、独断で、あの方達の元へ向かって行ってしまった事を心の底から悔い改めましょう。私も、もう一度、リナお姉さまを赦して頂けるようにガブリエッラ様にお願いしてみますから」


「分かったわ!!!ソリッタがそう言うなら、幾らでも悔い改めてやるわよ!!!だって私は、ソリッタの為ならどんな物にもなるし、どんな事もやるもの!!!!」


「....それは、ちょっと気持ち悪いです」


「........」


「酷いな」


向けた好意を気持ち悪がられたリナは、膝を丸めて床に座ると、どんよりとした雰囲気を纏いながら俯いた。


「では、私達はそろそろ戻りますね」


「も、もう行っちゃうのっ..?」


「本当は、今はその時ではないからとここに来る事は許されていないので。もし、無断で、お姉さまの元に訪れてしまった事が発覚し、それがガブリエッラ様の耳に入ってしまえば、私達も罪に問われてしまいます。まぁ、お姉さまと同じ檻の中に収監されるのであれば喜んで歓迎されるのですが」


「....そう、そうなのね..それは悪かったわね..気を付けて戻るのよ..」


「....なので、ガブリエッラ様に赦して頂き、塔の中から出られたのであれば二人でどこかに行きましょう。先ほども言いましたが、話したい事が沢山あります..ので」


「......ソリッタっ!!!!」


「じゃ、俺もここで、ちゃんと反省しなきゃだめっすよ、リナさん」


「アンタねぇ..!!!今はまだ我慢が必要だけれど、これを乗り切ったら二人でどこかに行きましょうって誓い合ってる時に空気読まないで割り込んできてんじゃないわよっ!!!この、アンポンタン!!!」


「..まじで人として最低だな、この人」


自身もソリッタと同じく、塔の中に収監されているリナを心配して罰則覚悟で様子を見に来たというのに、そんなのはお前の勝手だろうがと言わんばかりの暴虐無人な物言いをされ遂に呆れ果ててしまったオッキオは、一つ、恨み言を吐くと、先に離れていったソリッタに続いて席を立った。


「....ふふっ、それにしても、私と二人きりになりたいだなんてあの子も可愛い所あるじゃない。普段はあんな事絶対に言わないのに..もしかして、触れ合えない寂しさでやっと素直になる事にしたのかしら。それともっ..」


ふと、リナの頭に、生まれた時からの自信の無さによる最悪な想像が浮かぶ。


「ま、まさかとは思うけど、ほ、他に好きな人が出来て、そいつの影響であんないつもは言わないような事口走っちゃったとかじゃないわよね..?私が負けて帰ってきたから愛想が尽きて、それで他に好きな人が出来たから..あ、ありえる。だって本来は、私みたいな醜い女を、ソリッタみたいに完璧な子が好きでいてくれてた事が異常だったわけだし......で、でもいやぁっ..!!!もし、もしそうだったとしたら、私、これからどうすればっ..」


「お姉さま」


「ひゃああっっ!!?」


とっくのとうに、塔の下を目指して降りて行ったと思っていたソリッタがまだ近くにいたので、リナは飛び上がって驚いてしまう。


「びっくりしたぁっっ..!!!ソリッタ、まだいたのね。どうしたの?何かあって」


「逃げてっ..」


「え?」


突然の言葉に疑問を持ったリナは、ソリッタが立つ場所に顔を向けてしまう。そこには、


「バゼル」


動けないのではなく、自分の意思では僅かにも動けない様子のソリッタとオッキオがこちらに背を向けながら立ち尽くしていて、二人の間に空いた隙間からは、見覚えのある、全身茶色づくめの異様な格好をした男の姿が見え隠れしていた。


それだけでなく、男は、両の手でソリッタとオッキオの顔の前に赤いカードを突き出していて、魔法が唱えられると、二人の顔は頭部ごと破裂し、床に周りに血と肉がばら撒かれた。


「..........」


「理解が追い付かないという顔をしているね。それは今、目の前で、二人の頭が君の魔法で破裂したからかな?それとも、僕が音も影もなく、突然現れたからかな」


「....あ..えっ..?..あっ..な、何で....ソ、ソリッタっ..?な、何で....」


「君も知っているだろう、二人の脳に刻まれていた傷。オッキオ君だったかな?二人に洗脳魔法をかけた時、調べていく中で、傷を付けた相手の元に現れる事が出来る魔法を唱えられると教えてもらってね。それで飛んできたんだよ」


「............だ、だから..傷口に魔力を付着させてっ..?」


「いや、それは違う」


その問いを、デビアスは否定する。


「もう一つ教えてもらったんだ。こっちは女からだが君のバゼルについて。何でも、自身の魔力が付着していれば、自分や相手がどこに居ても魔法を炸裂させる事が出来ると。なので、もしもの時を考え、僕の魔力を事前に付着させて置いて、いつでも頭を破裂させられるようにしておいたのだよ。でないと、唯の殺され損になってしまうからね。まぁ、そんな時は来なかったのだが。バッヂ君の涙のお陰で」


「........そう、そうなのね....そうだったのね..アンタの考えてた事、よく、分かったわ..............し、しぃっっ..!!!」


怒り、涙、抑えきれない感情と共に、リナの体から魔力が溢れだす。


「死に晒せえぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっ!!!!!」


纏った魔力で鉄柵を破壊しながら突進し、リナは感情のままに壁ごとデビアスを塔の外に吹き飛ばすと、両者は落下しながら残骸の雨に包まれ、その中で今日、初めて顔を合わせた。


「ディゼルっっ!!!!」


相も変わらずといった様に薄っすらとした微笑みを携えているデビアスと違い、それをまじまじと見せつけられたリナは憎き仇敵に対する恨みが更に燃え上がって、目を血走らせながら魔法を唱えると、生み出した深紫色の四角い棒を足場にし走り出す。


そして、間近に迫ると、顔面を狙って拳を横から振りかざした。


「ぎっ!!?」


「顔はダメだよ」


しかしそれをデビアスは、空中にいるとは思えない速さで横斜めに回転して避けると、勢いそのままに、リナの左肩を狙って右足を振り下ろし、城の屋根に向かって蹴り飛ばした。


「さて..そろそろ始めようか」


間近に迫った脅威は振り払ったものの、リナ一人を踏み台にしたくらいでは同じように落下し続ける運命は変えられないので、デビアスは赤いカードを取り出すと、自身に向けて魔法を唱える。


「カムレ」


すると、デビアスの周りに風が集まりだし、体を包むようにそれは固まっていき、透明で滑らからな形をした風の大衣へと変化すると、リナの突進によって崩壊した塔の最上部分よりも更に高い場所にまで身を浮き上がらせ、サテナ都市内全域が隅々まで見渡せる所まで昇り、止まった。


「何をっ..」


城の屋根にぶつかる直前、再度のディゼルを唱え、生み出した数本の棒を足場にし着地していたリナは、

そのままの状態でいつ攻撃が仕掛けられても反撃できるように待ち構えていたが、何を考えてか、デビアスは向かって来るのではなく今居る場所から上昇し始めたので、その行動の意味が分からず訝しんでしまう。


そんなリナを見下ろしながら、デビアスは、開戦の狼煙を上げようと手向けの花を添えていく。


「足掻く君の最後にね、僕は一つ、自分の秘密を明かしてみようと思うんだ」


デビアスの左手に、赤いカードとはまた違った、表面にも裏面にも何も描かれていない白紙のカードが現れる。


「僕の能力は現象現像(カードセレクト)。見た魔法を任意でカードに現像し、唱えることが出来る。ただし、一日四十枚、そして、消費魔力は元の二倍と、唱える度に大きなを負債を抱えることになるので使い所を見極めるのがとても大変なんだが、これから起こす魔法には関係しないので割合させて頂く」


それが天に掲げられると、白紙のカードは端から崩れていき、塵と化して一片たりとも地に落ちる事無く舞い上がった。


「そして、四十枚の赤いカードとは別に三枚の白紙のカードが用意されていて、これらは例外もあるが、一枚につき一度だけ、要求される魔力量や見るという条件を経ないで、どんな魔法も現像し唱えることが出来る。このように」


塵となって舞い上がった白紙のカードは、空と混じり合って、群青色と橙色が溶け込んだ色にへと変える。


次に、サテナ全域を覆うように雲が集まりだし、隙間から無数の光芒が漏れ出て地上に散らかっていく。


終わりに、突如として吹き荒れ始めた突風が建物だけでなく教会の鐘をも揺らし、様々な響音が都市内に広がる中でそれは落とされた。


死海塩砂(ソルト)


燃えるように輝く光の柱が振り落とされた先には、デビアスを追いかけようと限界まで膝を曲げて飛び上がり、同時に飛ばしていた棒を踏み越えながらその時の自身よりも高い場所で入れ替え、着実に上空を駆け上っていたリナが居た。


が、今は、強大な魔力の奔流を感じ取ってしまい、呆然とした表情で立ち止まってしまっていた。


「グラビオッ..」


それでも何とか正気を取り戻し、破壊の力を凝縮した巨大な魔弾を作り出して対抗しようとするが、光の柱に包まれ飲み込まれてしまう。


「デビアスううぅぅぅっっっっっっ!!!!!」


魔弾や自身の体が塩の塊に変えられていく中、リナは、怨嗟の声を轟かす。


恨み悲しみ多々あるが、最後に思うは、ソリッタを守れなかった事に対する後悔だけだった。


「....パレット、サテナ都市内全域。」


塩の塊に変化したリナを見届け終えたデビアスは、赤いカードを地上に向け魔法を唱えた後、両指で四角を作り、次に唱える魔法効果の範囲を広げる。


「チェック。指定は、先ほど片眼鏡を通して見た二人とハバル・アクストン..そして」


地上から、先ほど振り下ろした光の柱よりも強大な魔力が湧き上がったので、デビアスは、そちらに目を向けその者の名前を口にした。


「ガブリエッラ・アルローゼ」


金色の刺繍が施されたローブを着込み、また、フードを被って顔を隠しているガブリエッラが、デビアスを見上げていた。

魔法という不思議な力がある世界で、果たして、窓の奥の小部屋や、設置された鉄柵を確認できる者は居ないと言い切っても良いのかは不明ではあるが。

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