「粉塵」
「剣圧解放!!」
鞘から剣を抜きだしながら狩衣を着込むと業平は、放出した風を推進力に変えて飛びだし、男の間近に迫ると剣を振り上げた。
「っ..!!」
しかし、少し後ろに下がられた事で避けられてしまい、却って男との間に距離を作るだけでなく、致命的な隙を曝け出す行為となってしまう。
「しっ!!」
が、業平は空いた距離を左足の踏み込みで無理やりに埋めると、剣を斜め横に振り下ろし、少しだけだが、今度こそ男に傷を付ける事に成功した。
そして、勢いそのままに、もう一度真正面から斬り込もうとするが、強烈と風切り音と、頭上だけでなく、視界を覆う謎の影に包まれた事で後ろに下がれば、顔擦れ擦れに、丸太のような大きさの大剣が通り過ぎ、地面が叩き割れ、砂埃が巻き上がった。
「ぐっ.......ごっ!!?」
砂が目に入り、思わず不快感を感じて業平は視界を閉じてしまうと、その間に近づいて来ていた男が右足を振るって、中に詰まった内臓ごと拉げさせながら横腹を蹴り抜き、地面に何度も跳ね上がらせた。
「どうしたぁっ!!蹴り一発でそのざまかぁっっ!!!」
「ぐぅぅっっ..!!!」
立ち上がろうと、腕を地面に押し当て力を入れる業平だが、倍にも近い体から放たれた蹴りはこれまで食らったどの攻撃よりも重く響いているのか、腕だけでなく、足も震えさせ、力は纏まらずに分散してしまう。
「......ふぅぅっっ!!!」
さながら芋虫の様に這いつくばる事しか出来ない業平の姿に男は笑ってしまいそうになるも、自身の首を狙って後方から飛びかかってきたアーサーが横目に入れば、体を少し後ろに倒しながら大剣を横に振り回して、ナイフ事弾き飛ばした。
「..!!」
「軽いな」
アーサーは着地するやいなや走り出し、ナイフを自由自在に扱って、首元や心臓といった人体の急所を狙い連撃し続けるが、男の剣に軽く受け流されると、横の一振りでまたもナイフ事弾き飛ばされ、振出しに戻されてしまう。
「お前も、恰好だけか?」
「........一撃で決めたかったんだな」
「あ?」
「この形態では駄目そうだ」
下を向いてブツブツと独り言を呟いていたアーサーだったが、突然、手に魔力を溢れさせると、ナイフに流し込み始めた。
「....」
時間が経つたびにナイフは、全体が真っ白に輝いてどんどんと細くなっていき、最終的に中剣程の長さにまで伸びあがった。
かと思えばアーサーは、空いた握りの部分に左手を当てて両方の手で掴むと、切り離すように横に引っ張って分裂させた。
「魔鋼具かっ..!!」
流し込まれていた魔力が舞い消え、露わになった双剣。
男は、ナイフが形を変えたこともそうだが、弓の弦の様に薄く、細くなった刃を見て楽しそうに叫んだ。
「..この先は、一味違うぞ」
アーサーの体から無色無透明の魔力が湧き上がる。
「オルクス、スピードブースト」
「....ぐっ!!」
自身に魔法をかけ速さを上げたアーサーは、男が視認できない速度で目前に現れると両肩に刃を斬り入れ深く痛々しい線の痕を刻み、膝をくぐませながら下半身を起き上がらせて足を突き出し、顔面を打ち抜いた。
「パワーブースト」
挟まっていた刃が引き抜け、仰向けの状態で少し奥に飛んでいくアーサーだが、地面に手を付ける前に剣を上に放り投げると、飛び上がった瞬間、掴み戻して男の後ろに移動し、魔法を唱えた後、振りかざされた大剣を横に回転しながら避けて胸元に六つの大傷を斬り入れた。
「っ..」
「..カハハッ!!これもいなすかっ!!!」
剣の握りを持ち直し、顎下に向けて突き上げるアーサーだったが、迫ってきている大剣に気が付くと、直撃する前に刃を滑らせて威力を逸らした。
「..丈夫だな」
それでも完全に封殺することは叶わず、受け止められなかった一撃は手を痺れさせるだけでなく肩の骨を外させ、跳ね返った自剣は額にぶつかって血が流れ出ていた。
「スピードブースト」
「来い」
だが、アーサーは、垂れ下がった腕をそのままに男の方に体を向けると、いつでも次の攻撃を仕掛けられるように機会を伺い始める。
男もまた、その戦意に当てられると、損傷激しい肩で大剣を持ち上げ、次の攻撃に備えて構えた。
両者共、先の応酬でとても戦えるような状態を保てていなかったが、精神だけは最高潮を迎え、今が一番迸っていた。
「吹き契り!!」
だからこそ、芋虫と揶揄され、負け犬に転じさせられていたそれは腹が立って仕方なかった。
「ふんっ!!」
「ぐうううっ!!?」
足元から突如として昇り上がった無数の刃に飲み込まれ、全身が切り刻まれていく男だが、大剣を振るって渦に風穴を開けると、身を外に出して逃れようとした..その時、異様な重さと気迫を纏った杖を業平に投げられ、咄嗟に大剣を盾にして防ぐも数秒も持たずに競り負け、代償として腕が折れ曲がりながら吹き飛んだ。
「負けてないぞっ!俺はまだっっ!!!」
「横槍クズがっ..!!粋がるなぁっっ!!!」
口から血を吐き出しながらも斬りかかる業平に、唯一無事だった左腕と両足で迎え撃とうとする男。
二人がぶつかり、第ニの戦いが行われている間に、隅っこに追いやられていたアーサーは外れた肩の骨を押し込んで元に戻すと、業平が戦いやすくなるよう補助するために割り込み、戦況は混沌に包まれる。
....................................
「はぁっ..はぁっ..はぁっ..」
「..ここまでのようね」
膝をつき、地面に突っ伏し、呼吸もままらない、そんな状態でも杖だけは離さないでいるバッヂを見下ろして、リナは仇敵であるというのに初めて心の底から思った。
”殺すのは勿体ない”と。
「惜しいわね、ソリッタさえ傷つけてなければその命奪わずに済んだのに..無駄にさせるんじゃないわよ」
今の今まで行われていたバッヂとの戦闘を思い出しながら、リナは感慨に耽りだす。
最初は見た目からしてひ弱で、時代には珍しく、魔法を得意としているだけの枯れ木のような女だと思い、初めに決めた通り、じっくり甚振ってから殺そうと手を抜くつもりだった、が、それから繰り広げられた激闘は見方を変えるほどに真剣で、鬼気迫る戦いであった。
特に最後、放った魔法を紙一重で避けられ唱えられた岩魔法は、途中、相手が体力切れを起こした事で横に逸れたものの、腹の肉を貫いたので、痛みによってもだがとても強く印象に残った。
「..まぁいいわ、それよりも、何か言い残す事ある?奮闘に免じて、一つくらいなら聞いてあげてもいいわよ」
「....はぁっ..はぁっ..」
「ほら、私の気が変わらないうちに早く言っちゃいなさいよ..それとも、今すぐ楽になりたい?」
「....ど..どうやっ..て」
「え?何?もっとはっきり喋っ..」
「どうやって....解いたの..デビアスさんがかけた魔法を..」
「....それ聞く?普通、最後に..」
触れられたくない質問を投げかけられリナの顔は憤怒に染まるが、その怒りに当てられてもバッヂは動じる様子を見せず、一切口を開く様子を見せる事はなかった。
「......いいわよっ!教えてあげるわよっ!!!そこまで知りたいってんなら!!あいつの魔法が解けた理由はね、私の魔法で破壊してやったからよ!!どう!これでいいっ!!!」
「......なら何で..デビアスさんを襲って..」
「はぁっ?当たり前でしょ!!ソリッタを傷つけたんだから、魔法が解けようが、それだけでどんな事があろうと許すわけないじゃない!!!....ま、もう一つ理由があるからなんだけどさ」
「......もう一つの理由って..」
「聞きたがりねぇ......話してあげてもいいけどその前に、その杖をこっちに渡しなさい」
「っ..!?」
バッヂの心に動揺が走る。
「見え透けてんのよさっきから、何か狙ってることくらい、バレてないと思ったわけ?」
「....」
「望む事があるなら望んだ分差し出しなさい、それが願うって事よ。ほら、早く」
熟考する時間も与えずにリナは選択を迫る。
この僅かな時の中にも、逆転の一手が潜ませられていると警戒して。
「..」
「..ふーん、そこまで知りたいの、結構やばいわね、あんた..まぁいいわ、教えてあげる。もう一つの理由はね、ここ、脳よ」
見透かされ、後にも引けないバッヂは、苦々しい表情を浮かべながらも杖を転がして手渡し、それを確認したリナは指で頭を指す仕草を取った後、話し始めた。
「ソリッタ達にかけられていた魔法を破壊した後、ある異変に気付いた奴がいて、聞けば、二人の脳にほんの少しだけ傷が付いてる反応があったと。それで、そいつと一緒に調べたら、こんくらいの小さい刺し傷が脳にあって、しかも、傷口には、ソリッタの魔力でもそいつの魔力でもない、知らない誰かの魔力が付着していたの..それも破壊したかったけど、あんな最小な物だけ破壊するなんて今の私には不可能だし、何より、脳なんて繊細な場所いじくるなんて絶対に無理..どうやって付けたのよ、本当..」
「....?」
「..何、その顔?何か不満でもあるわけ?言っとくけど、あたしの説明に不備なんて無いわよ。今ので理解できなかったなら、それはあんたの頭が悪いからでっ..」
「ど..どうしてそれが..デビアスさんを襲った理由になるの..?」
「....」
「もし本当に..その傷と魔力が..デビアスさんによって付けられたものだとして..も..それくらいの魔力なら..長くても三十日位で自然に消えるのに..そ、その前にデビアスさんの命を奪ったら何か良くない事が二人の身に起こるかもしれないのに..どうして襲ってっ」
「分かってるわよ、そんな事」
「..え?」
「その上で許せなかったの..ソリッタの綺麗な体に、脳に、自分を刻み込んだあいつがっっっ!!!」
怒りをぶつけるように、リナは地面を踏みつけて怒鳴り散らかす。握りすぎた拳からは血が零れていた。
「あの子は誰よりも美しいの..あたしのモノだから詳しくは語らないけど、心も、体も、すべてが美しいの..分かる?こんなちんけな見た目したあたしを、ソリッタはリナ姉様って呼んで慕ってくれるのよ。それだけであたしは、あの子の為なら何にでもなれるし何でもやれるの..ううん、何にでもなるし、何でもやるの..それが私の宿命......ま、たまに、あの子の愛が重たすぎて怖くなる時があるからそこだけは治して欲しいんだけっ..」
(....く、)
”狂ってる”
生まれて初めて触れさせられた人の狂気を前にして、バッヂの頭には、同じ言葉が延々と流れ続けた。
同時に、心底恐怖し後悔した。未知を追い求める裏にこんな苦難があると思っていなかったバッヂは、愚かにも世界を回る事を夢にしていたが、探究心過ぎれば心身とも蝕む毒になると知った今、想いは揺らぎ翳みがかっていた。
「..喋りすぎたわね」
リナの体から魔力が溢れる。
「次は生き方間違えるんじゃないわよ」
「っっ..」
「じゃあね」
溢れた魔力が魔法となり、血が混じって刺々しい赤紫色に変わった時、恐怖で震えていたバッヂの体が止まり、熱が瞳に止まった。
「そんなに大事なんだね..貴女にとって、ソリッタさんって人は」
「..バゼル」
「だけど、ごめんなさい..僕にも負けられない理由があるから..飛び越えていくよ」
バッヂの足元が輝く。
「セデメンテス!!!」
地面が割れ、岩の柱が飛び出しバッヂを空中に突き上げた。
「(..なるほどね、杖に魔力を集めていると見せかけて魔力を地中に送っていたと、だからその大きさの岩を突き出せたのね)..で、だから何?」
虚を突かれた形だが、少し前の激闘から油断も侮りも一切ないリナは理解していた。
”こんなのは苦し紛れの賭けでしかない”と。
「ゼルデ、ディゼル」
無数の魔弾と、数本の四角い深紫色の棒を生み出して前方と側面に配置すると、リナは両手を突き出して魔力を集中させて万全を期す。
「杖がなきゃ強力な魔法が使えない事には変わりないでしょ。甘いわっ..」
「イファーセル」
「ね....がっ!!?」
左手を地上に向け、バッヂは魔法を唱える。
すると、リナの後ろの地面から細長い岩が数本現れ、後頭部に狙って発射されると激突した。
「カルンっ!!」
更に魔法を唱え、岩で出来た小鳥を生み出すと、バッヂは、昏倒し、前に倒れそうになっているリナに向けて飛ばした。
(決まって..!!)
この機会を熟させるために、辛抱強く耐えてきたバッヂは唇を噛みしめ勝利を願う。
「当たれっ!!!」
希望の小鳥は、主の意思に呼応して勢いを増させた。
「......舐めるなぁっっっ!!!!」
しかし、当たる直前に、掬うように右手を叩きつけられた事で、小鳥は使命を果たす前にその身を粉々にされ砂粒にされる。
「あっ....」
「バゼル!!!」
数多の破壊が四方を囲み監獄となれば、檻の中のバッヂは為すすべなく蹂躙され、絶望に潰えた。
王剣の鍔は四本ともそれぞれ違う形になっています。
例としては業平の王剣の鍔は四角、黄の王剣は丸の形となっております。
後、鍔の部分には四つの穴が空いていて、通常は一つの宝石が埋め込まれています(黄の王剣なら黄の宝石と)それだけの話でした。




