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「漂砂」

宙に映し出した魔法面を通して、業平の腰に差してある剣を見ながら男は言う。あれは、王剣ストラヴルフであると。


しかしもう一人の、同じ様に魔法面を通しながら剣ではなく業平達四人を見ている女は、過去に聞いた話から男の断言に納得がいかず、聞いた話を口にして反論した。


「私が子供のころに聞いたおとぎ話によれば、最後の王剣”ストラヴルフ”は竜の王に飲み込まれ、竜の王と共に永久(とわ)に消えましたけれど、オッキオ、貴方は、それを嘘であると一蹴(いっしゅう)した上で、自身の考えを正しいものであると断言するのですね?」


「おいおい、勘弁してくれってソリッタ..相棒のお前が、大人になった今でもおとぎ話を信じてるとか知られたら俺も笑われるんだからな」


「断言するのですね?」


「する」


「....」


「嫌そうな顔するなあ」


お互いの決め事ゆえ、どうしても自身の方に折れて欲しいソリッタは不服な顔を向けて粘るが、オッキオの意思は変わる様子を見せない。


「......はぁ、今日は特別ですからね、私が先に折れてあげますよ」


「ありがとっ..」


「その代わり、何がとは言いませんが、後日、期待してます」


「..了解」


二人の無言による主張の押し付け合いが数秒続いたが、珍しくオッキオが自分の考えに改めてくれない事と、もしも、あの剣が、本当に最後の王剣”ストラヴルフ”であれば、目を離している場合ではない事を理由にしたソリッタが先に顔を背けたことで、ぶつかり合いは回避された。


「それで、どうしたいのですオッキオは。あの剣が、本当に最後の王剣”ストラヴルフ”であれば、直ちに国に帰還し、ガブリエラ様に報告するべきだと思いますが、そのような提案が直ぐになされないということは、別の考えを持っているという事だと判断しますけど」


「..いや、国に帰ろう」


「それはまたどうして」


「使い手が未熟であれば、周りの仲間達が一番の未知数だったが、少し見て分かった。あの王剣使いが別格だ。特に魔力量が......そうだな、お前も、実力だけで言えばあれに近しい人間だったよな」


少しの冷や汗を流しながら、昇るように湧き上がる、業平の巨大な魔力を感じ取って身を震わせるオッキオとは対照的に、自身と比べても、そこまでの凄さを感じられなかったソリッタは不思議そうな顔をしながら首を傾けていて、それを見てオッキオは、呆れながらぼやくと、話の結論を告げた。


「人である事が不思議な程の魔力量だ。連れて帰ろうと挑めば竜の巣に手を伸ばすような事。危険とは、冒すものではなく遭遇するものなんだから、今回は近づかない事が賢明だ」


「..考えはわかりましたが、それ、やめてください....緊張感が薄れます」


「仕方ないだろ、癖なんだから。それよりも、とっととこの場を離れるぞ......ソリッタ?」


帰還するために、魔法を唱えようとしたオッキオだが、ソリッタが居る場所から硬い物を打ち付けられたような鈍い音がしたのでそちらを向くと、そこには、銀髪の赤い目をした少年が立っていて、足元には、うつぶせの状態で倒れているソリッタの姿があった。


「....」


「..っっ!!?」


何故ここにいるのか、どうやって現れたのか、いや、それよりも、どうして自分たちに()()()()()()()に気付けたのか。


自身の能力の特性上、一方的な観察は絶対で、何があっても気づかれることはないという自信があったオッキオにとって、打ち破られないと思っていた壁が見破られた事実は、目の前に敵がいるというのに数秒間の硬直を生み出す要因となってしまい、そんな心境など知りもしないアーサーは鞘から剣を引き抜くと、飛び出して振りかざした。


「エマージっ..がっっ!!?」


思考が止まって動けずにいたオッキオだったが、間近に迫るアーサーが目に入ると、数歩後ろに下がって剣を避け、作り出したわずかな時間を使い、自身とソリッタの真下に緊急避難用の転移魔法を展開しようとする。


しかし、突然、首元に鋭い痛みが走ったことで集中力が途切れ魔力が分散してしまい、失敗に終わってしまった。


「....て、めぇっ」


落ちていく意識の中で、せめて誰が自分の不意を突いたのかを知るために体を少し横に回せば、そこには全身を茶色の恰好で覆った男が杖を左手に下を向いて立っていて、嬉しそうに口角を釣り上げていた。

....................................


「遅いなぁ、アーサー達」


「そ、そうだね」


用事が出来たからと、アーサーを連れてどこかに向かったデビアス達がいなくなってからどれほどの時間が過ぎたのか、先ほどから退屈で仕方ない業平は、ブグ・マザルの熱波で崩れた岩崖の岩を椅子にし、ため息をつきながら二人を待ち続けていて、そんな業平の機嫌を取るように、昨日の事があって申し訳ない気持ちでいっぱいなバッヂは、気を使って相打ちを打ち続けていた。


「気にしなくていいんだぞ、バッヂ」


「えっ..!?な、何の事っ..」


「昨日のことだろ?別に、泣くほど辛かっただけでどうってことないぞ」


「..そう言われたら余計に気になっちゃうよ、なりひら」


反応しづらい言葉を言われて戸惑うバッヂは、話を変える為に、もう一つ、昨日から気になっている事を質問した。


「あ、あのね、一つ聞きたい事があるんだけど、いいかな?」


「いいよ」


「ありがとう..実は昨日、なりひらが口にしてたひらがな?っていう言葉が気になっちゃって、詳しく教えてもらえないかなって..」


「俺が居た国の文字を表す言葉だな」


「そ、そうなんだ..ち、因みにどこの国の」


「言っても絶対に分からないと思うぞ、こことは違う世界にある国の文字だから」


「........へっ?」


何てことないように告げられた衝撃の事実に、バッヂは頭が追い付かないのか目を丸くすると、ぽけっとした顔になってしまった。


「あれ、言ってなかったっけ?俺、別の世界から来たって」


「き、聞いてないよそんなこと一度もっ!!今、初めて知ったよっ!!!」


「そうだっけ?バッヂの屋敷に泊まらせてもらったときに何か色々話した記憶があるんだけど..元居た世界の話は一回もしてないのか」


「..う、うん」


数週間前、バッヂと出会った日の夜に話した内容を思い出そうとする業平だが、何も思い出せないので首を曲げて唸ってしまう。


しかし、ふと顔を上げれば、何故かバッヂが下を向きながら頬を赤らめさせていたので、あの時、何かあったんだなと察した業平は、聞き出すために更に傍に近寄った。


「俺、あの時のこと何にも思い出せないんだけど、もしかして、何か恥ずかしくなるような事やっちゃったりしたか?」


「さ、さぁ、どうかな..ちょっと分かんないかも....」


「じゃあ、恥ずかしくなるようなこと言っちゃったりして」


「....」


「ほうほう......で、俺はどんなこと言ったんだ?今度はバッヂが教えてくれよ」


「......いって」


「え?ごめん、聞こえなかったからもう一回だけっ..」


「か、かわいいって、何度も頭なでられながら言われたよっ..」


「........」


振り絞って伝えられた自身の過去の行いは直ぐには受け入れられないもので、少しの間、意識ごと業平の体を固まらせるも、時間が経てば否が応でも理解せざるえなかったのか、徐々に赤くした顔を両手で覆って隠してしまった。


その反応に釣られてバッヂも更に顔を赤くすると、恥ずかしさでお互い何も言えなくなり、少し過ぎれば、気まずい雰囲気が両者の間に漂った。


「どうしたんだ、業平」


「ぎやああああああああっっ!!!?」


だが、戻ってきたアーサーが二人の会話に割り込んだことで空気が一変する。


「い、いつからそこに」


「今、戻ってきたばかりだ」


「そ、そうか....よかったよかった」


「?」


バッヂとの、過去の恥ずかしいやり取りの内容が聞かれてない事が知れて安堵する業平に対し、その意味が分からないアーサーはきょとんとした顔を浮かべてしまう。


「遅くなって申し訳ない」


「おっ、やっと帰ってきた...かっ..」


「魔法を使って僕らを見ていた騎士達がいてね、だから、アーサー君と協力して捕まえてきたんだよ」


「....」


ほっとした顔をして胸を撫でおろし続けていた業平だが、そこにデビアスが、二人の目が虚ろになった男女を連れて戻ってきた事で表情が変わった。


「奇襲かけるなんて初めての経験で少しばかり緊張したけど、アーサー君のおかげかな、上手くいって一安心だ」


「....」


「因みに彼らは黄の国という王国の騎士達でね、しかもそれなりの地位に着いていて、帰還されてたら大変っ..どうしたんだい、さっきから何も言わないで、調子でも悪いのかい?」


「..言い訳は充分か?」


「ん?」


何を言っても返事も返されないので、おかしいなと思ったデビアスは、業平の様子を伺うために話を途中で切り上げ調子を尋ねると、それも癪に障ったのか、先ほどから苛ついてしょうがない業平は、眉間に青筋を浮かべて怒りをあらわにする。


「よくもまぁ長々と、舌が沢山あるようで」


「何の事だい?」


「とぼけるなよ、人攫いしてきたんだろ」


「何を言ってるんだい」


放たれたまさかの言葉に虚を突かれ、驚いた表情を浮かべてしまうデビアスを尻目に、一人、怒りの原因を知るアーサーは、急いで両者の間に割って入ると、業平の方を向いて弁明を始めた。


「待て業平、疑いたくなる気持ちも分かるが、今回ばかりはデビアスが言ってることは本当だ。俺達を遠くから見ていた者達がいたから二人で捕まえに行っただけで、人を攫いになんてっ..」


「加担しといて説得かまそうってか?俺は騙されないぞ」


どうにかしてデビアスにかけられた疑いを晴らそうとするアーサーだが、人攫いに協力した裏切り者だとと思われている今、業平に届く言葉はなく、言葉を被せられ、話を遮られるとそっぽを向かれ、耳を塞がれてしまった。


「どうしたものか」


「ちょっといいかい」


「..何だ」


一度、意固地になられてしまえば中々崩れない頑固な状態に入られ、どうしたものかと頭を掻いて思案しているアーサーに、蚊帳の外に追い出されていたデビアスが近づいて話しかけた。


「いやね、どうしてここまで、業平が人攫いという行為に怒りを感じているのか気になってね、理由を知ってそうな君に聞いてみようと思ったんだよ」


「知ってどうなる」


「業平を落ち着かせられる」


「....」


デビアスの言葉を受け、アーサーは少しの間、何かを考えるように黙り込むと、少し面倒くさそうな表情をしながら口を開いた。


「俺も詳しくは知らないが、一つ、言える事があるとすれば、虚ろな目に、意識がない空っぽな状態の人間が連れてこられて、奴隷として売られていたころを思い出したんだろう」


「売られていたころ?」


「....多かったんじゃないか、魔法で心を囚われた奴隷や、現状に絶望して無気力になった奴隷が..自分も同じ身分に落ちたというのに、業平は優しいから、他人の不幸も気になって仕方なかったんだろう。それこそ、今でも」


「ふーん、なるほどね」


業平の過去の一端が話され、そういう考えを持って生きている人間もいるんだなと納得すれば、直ぐにいつもの笑みを浮かべてデビアスは、業平に声をかけた。


「少しいいかな..ってどうしたんだい、今度は(ひざまず)いて」


「..いや、バッヂに、過去に何かあったのかもしれないけど、最後まで話聞かなきゃダメだよって怒られて、辛くって....」


「沈んでると」


「....」


勝手に言葉の最後を付け足されたり、蹲っている姿を跪いている形容された業平だが、今は、そんなことも気にしてられる心の余裕はないのか、無言で悲しみ続けているので、どうしたものかと、少し前のアーサーと同じように考え込む姿をとると、黙り込んでしまった。


「..だから」


「?」


「も、もう一度聞かせてください」


「..うん、分かったよ」


その言葉を待っていたのか、デビアスは一間置くと、笑って了承した。

やっと書きたい展開①を書けた嬉しさが大な反面、表現の難しさやこれが作者の贔屓症候群かと色々思い悩んだり、あれこれも感じる。



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