「暴風旋回」
剣を強く握り直した業平がオルムニーヴァ目掛けて突っ込んでいく
相手も早く動けるというのに、真正面からのぶつかり合いを選ぶだなんて本来はありえない話だが、業平には考えがあった。
「....っ!!」
飛んできた業平を飲み込もうと、オルムニーヴァもその大きな口を開けて真正面から突っ込んで来るが、業平は突然止まり、剣を横に構え、魔力を多く纏わせた。
「鱗切り裂く前にこれだけは確かめときたかったんだよなぁ..!!」
どんなに硬い鱗で攻撃が阻まれようと、口内、つまり防ぎようもない個所に攻撃すれば、いくら錫獣といっても普通の生物と同じように致命傷なりうるのではないか..
そのためだけにオルムニーヴァの眼前まで近づき、絶好の機会を作り出した業平の頭には、望みに答えるように新たな魔法名が浮かんだ。
それは魔力を風に、暴風に変え、振った方向に解き放つ剣技。
「天挈」
だが、その攻撃が通ることはなかった。
「の、飲み込んだっ..!!?」
放った風の一線は、オルムニーヴァの体に引けを取らない程に大きく、簡単に切り裂けるほどの威力があったように見えたが、当たる前に何故か分散すると、業平の目の前で飲み込まれしまった。
「ぐっ..!!..き、効いたっ..?」
呆然としてしまった業平は尻尾で叩きつけられそうになるが、それを何とか上に上がることで避けることに成功した。
それだけではなく、避ける際に、剣をオルムニーヴァの体に滑らせるように上に飛んだからか、鱗を数枚剝がすだけでなく、切り傷を付けることも出来た。
それも、ただの切り傷ではなく、深い切り傷を。
「がっっ!!?」
しかし、間髪入れずに放たれた反対側の尻尾の攻撃は避けることが出来ず、体に風を纏い衝撃を弱め、剣で攻撃を滑らせ威力を半減しようとしたが、対処が遅かったので業平はそのまま後方に吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫か、業平」
「あ、アーサー..」
吹き飛ばされてしまい、危うく地面にぶつかるところだったが、寸前でアーサーが現れて受け止めてくれたことで業平は激突せずに済んだ。
「立てるか?」
「だ、大丈夫..ありがとう」
「そうか..なぁ、業平、デビアスが言った言葉覚えてるか?」
「いっ、言った言葉?..あ、そ、そうだ、誘導するって言われたんだった」
「違う、そっちじゃない」
気持ちが入りすぎて、デビアスに伝えられたことを忘れて突っ込んでしまった事実に気付き、口に手をかざし冷や汗をかく業平だが、アーサーは別の言葉の方を指していた。
「バッヂの血をかぎ分けてるってほうだ」
「そっちか..それがどうしたんだ?」
「..優先順位はバッヂが一番だが、業平は二番目に選ばれていて、後は興味持たれてないと思ってな」
「?」
「舐められたもんだってことだ」
オルムニーヴァに追いかけられてるバッヂを見ながらアーサーは、いつの間にか腰に差していた、全体が真っ白で、一本のギラギラと輝いた銀線が走る鞘から剣を抜きだしながら感じた気持ちを口にした。
「借り物だが、この剣は妙に手に馴染む。初めて持ったとは思えない程に」
その剣は、業平を置いて三人が下に降りた後に、どうオルムニーヴァを誘導するかの話し合いの中で、自衛のためにとデビアスから多く提示された武器からアーサーが選んだ物で、非常に重いが殺傷能力が高く、ブレイドが厚い、曰く付きのロングソードであった。
「俺もこれで戦う。業平と一緒に」
「..いいけど、デビアス達はどうすんだ?作戦組んでたんだろ」
「....オルクス、スピードブースト」
「おい」
業平の言葉で一度立ち止まるも、都合が悪いのか、アーサーは返事もせずに自身に魔法をかけ、一足先にオルムニーヴァの元に向かっていった。
ため息吐いて呆れた業平だが、直ぐに着込んだ狩衣から風を出して飛ぶと、アーサーを追い越して斬りこんだ。
「さっきよりも硬いなっ..!!」
オルムニーヴァの横腹に斬りこんだ一線は、今回も傷を付けることに成功したが、少し深い切り傷を付けただけで大した致命傷にならなかった。
だからなのか、オルムニーヴァは業平を見向きもせずにバッヂを追いかけたままだ。
だが、業平の背中を飛び越えて、鱗を階段にして駆けあがっていくものがいた。それはアーサーだった。
「思ったよりも柔らかいな」
切っ先を下に、オルムニーヴァの体に剣を突き刺していくアーサの連撃は、鱗を簡単に貫いてどんどんと肉を抉っていった。
あっという間にトンネルの様な穴を作ると、痛みで苦しんだオルムニーヴァが、体に纏わりつくアーサーを跳ね除けるために飛び跳ねまわった。
その隙を見逃すほど業平の動きは遅くなかった。
「天挈っ!!」
先ほど飲み込まれてしまった一撃がもう一度放たれる。
「またダメかっ..!!」
しかし、二度目の天挈も体を切り裂くことはなかった。
当たる直前に、オルムニーヴァが口を開いた状態で業平の方を向くとまたもや分散して飲み込まれてしまったからだ。
「ならっ、これはどうだっ!!!」
業平は思い出す。
ロウィンにたどり着く前、突然着せられた服から発生した、自身を下から上に突き上げた暴風の事を。
「吹き契り」
「くそぉぉぉっっ..!!!」
業平の頭に新たな魔法名が浮かび、突き動かされるように手を前に向け唱えると、オルムニーヴァの腹下から無数の風の刃が現れ、下から上に体を切り刻みながら上昇した..はずだった。
危機を感知したのか、オルムニーヴァは魔法が発動する前に口を開きながら宙に飛んで一回転すると、なんと、業平が放った魔法は無効化されてしまったのだ。
「ならこっちでっ..!!」
魔法が効かないならと、唯一、傷を付けた剣でオルムニーヴァの体に斬りかかるが、
「あ..あれ..力が抜けてっ..」
突然、業平が着こむ狩衣から漏れていた風が消え、業平は訳も分からずにさかさまの状態で落下してしまう。
何も出来ずに業平は、口を開いて飛んできたオルムニーヴァに食べられてしまう..
「っ..」
その前に寸前の所で現れたアーサーが助けに入ったことにより、業平は何とか食べられずに済んだ。
オルムニーヴァは業平を食べられなかったが興味を無くした様で、逃げるバッヂを再度追いかけに行った。
それを確認するとアーサーは、疲労困憊状態の業平に事実を突きつけていく。
「業平、魔力の使い過ぎだ」
「つ、使い過ぎ..?」
「ああ..だから魔法を使うな」
突然の言葉に戸惑う業平だがアーサーの話は続く。
「魔力量が多いとはいえ、飛ぶためだけに常時魔力を風に変えてるんだ。消費が激しくて仕方ないというのに更に大規模な魔法なんて放てば魔力が欠乏して当然だ」
「ぐっ..」
「それに効いてもいないようだしな」
理不尽を思い起こされて怒りが再熱したのか業平は喚き散らかした。
「そっ、そうなんだよ!!一度目の天挈は目の前で飲み込まれてっ..!二度目の天挈も飲み込まれてっ..!!次に放った吹き契りは何故か無効化されてっっ!!!理不尽にもほどがあるだろっ!!!」
「..そうだな、業平の言う通りだ」
アーサーが業平を床に寝かせて、鞘に戻していた剣を引き抜く。
「業平、俺はそろそろ戦いに戻るが、分かったことがあるから二つ伝えておく」
「分かったこと?」
「一つ、オルムニーヴァは食した魔法を無効化し自身の力に変える」
「嘘だろ!!?」
驚く業平を無視してアーサーは話をつづけた。
「俺がオルムニーヴァの肉をえぐり取る前に、業平が先に斬りつけた後、さっきよりも硬いって言ったの覚えてるか?」
「あっ..ああ」
「おかしいと思わないか?」
「..何が?」
「最初に放った魔法が飲み込まれ隙が出来た業平は上に飛びながら剣で尻尾を斬りつけた。その時は今も残る深い切り傷を付けることに成功したのに、二度目の同じ斬撃は効かなかった。だが、その後、俺が攻撃を仕掛けたときは思ったよりも柔らかいと感じた。この差は俺と業平の差か?違う。あいつの能力で業平の魔法を自身の力に変えたことで出来た差だ」
断言口調で語るアーサーに何か言うことも出来ず、業平は話を聞き続けてしまう。
「そして、オルムニーヴァは放たれた魔法を自身の力に変えれても直ぐに消費してしまうんだろう。
そこで二つ目だが..」
「な、なんだよ」
「..オルムニーヴァは他者の魔力に依存しているように見える。
だから、魔力量は多いが、決定打がない業平は不利だ」
「は?」
「業平は魔力が戻ってもそこで見ててくれ。俺が終わらすから、そうしたら止めを頼む」
足を引っ張ってると思ってる訳ではないだろうが、実質、長引かせてる原因の様に言われた業平は呆然としてしまう。
「行ってくる」
そんな様子が見えてないのか、アーサーは業平に声をかけると、今もバッヂたちを追いかけているオルムニーヴァを倒しに行ってしまった。
「......ふ、ふ、ふ、ふざけるな」
少しの間、アーサーの言葉のせいで呆けていた業平だったが、鱗を足場に上手く体に上っていき、オルムニーヴァの体を穴だらけにしていくアーサーを見て沸々とした怒りが沸いた。
戦いが好きなわけでも無理が好きなわけでもないが、この場限りとはいえ、使えない存在と認識されるのはそれ以上に嫌なのだろう。
「俺が倒してやる、アーサーよりも先に」
猛る業平に呼応するように、体から煙のような新たな魔力が漏れ出し、その魔力を風に変えて業平は、オルムニーヴァ目掛けて飛びこんだ。
「業平..?」
それを困惑した目で見るアーサーだが、業平は止まらない。
「誰に吠えてんだよっ、オルムニーヴァっ!!お前の敵はアーサーじゃない!俺だっ!!」
その巨体周りを旋回するように飛び回りながら切り刻んでいく業平の斬撃は、薄い切り傷ではなく深い傷を無数に作り出し、オルムニーヴァを更に苦しめた。
しかし、黙って甚振られるほどオルムニーヴァは弱くない。
「ぐうううぅぅっ!!?」
オルムニーヴァは業平の方に向くと、持てる力を全て使って飛び出して、その巨体を叩き込んだ。
その速さと重さを避けきれず直接受けてしまった業平は、体を鋭く硬い鱗で潰されながら地面に圧し潰されそうになってしまうが、
それでも業平は諦めなかった。
「空中で動きを変えれるお前にっ、体ぶつけられた時点で逃れることは普通出来ないんだろうけどなっ!あいにく俺には風があるっ!!体が傷つこうが関係ねぇ!!」
支離滅裂なこと言う業平は、オルムニーヴァの体に剣を押し当てると、そのまま上に飛んで体だけでなく顎から口も切り上げていく。
そうして頂点に達すると、天挈を放った時以上の魔力と集中力を剣と体に込めて、オルムニーヴァ目掛けて放てるように引き絞って構えた。
「威力の問題じゃないのは分かってるっ!だけど、天挈と吹き契りを超える魔法だったら、食われずにお前を切り裂けるって俺の感が言っている!!」
凝縮された魔力は、光を幾重にも集めたような輝きだけでなく、その魔法の威力を最高の物にしてくれる。
その脅威を感じ取ったオルムニーヴァが口を開き飲み込もうと飛び上がるが業平は怯まない
天挈と吹き契りを超える魔法、それは両方を合わせた重ね技。
極限まで凝縮された魔力の一太刀が、向けられた相手の体を切り裂いて、無数の刃で切り刻む無限の斬撃。
「神代っっっ!!!!」
その剣は、下に振るわれたというのに、空に漂う雲も切り裂き、オルムニーヴァを真っ二つに切り裂いた。
................................... .
「おい..おい..なりひら..起きろ....」
....誰だ..?俺の名前を呼ぶのは....
「....彼が今日一番頑張ったんだ..寝かせてあげよう..」
「だ..大丈夫かな....なりひら....生きてる..よね....」
声が聞こえる..三人..二人は男で..一人は女..か?
「ふんっ!!」
「ごえぇああっっ!!!?」
「起きたか」
「危うく死ぬところだったわっっ!!!」
くそっ..アーサー達か。全然気づかなかった。
「目覚めはどうだい、業平」
「最悪だよ」
見りゃ分かんだろうに、聞くまでもないこと聞いてきやがって..
「だっ..大丈夫なりひらっ!!?....ふ..二人ともひどいよっ!!なりひらは今の今まで気絶してたっていうのに追い詰めてっ..!!!?えっ..!?ちょちょっ..!!?」
「バッヂだけだよ..優しいのは」
「あわわわわわ...」
「どうしたんだいアーサー君、そんなに怖い顔して..羨ましいのかい?」
「..」
「..それで、オルムニーヴァは君の攻撃を受けると、光の粒となって、あれを残して消えたというわけさ」
「あれ?」
少しの休憩をはさんで、業平が気絶している間に何があったのかデビアスが説明し終えると、最後に、遠くの方にポツンと落ちてある何かを指さした。
「見え....る」
「君が倒してあれが残されたんだ。拾ってきなよ」
「..拾ってくれてもいいのに」
ぶつぶつ言いながらも業平は立ち上がって、その何かに近づいた。
そこにあったのは..
「つ、杖?」
杖、何の変哲もない杖、そこにあったのは先端がどんぐりの帽子の様に丸いだけの何の特徴もない少し太い杖であった。
「....まぁ、いいや。よくわからないけど、これは」
そう小さく呟くと業平は、アーサー達三人を置いて、オルムニーヴァが封印されていた場所へと走り出した。
「....」
少し走って数分、たどり着いたオルムニーヴァが封印されていた入り口は、封印が解かれるときに岩が崩れたので入り口が塞がれて入れない。
だが、業平は関係ないとばかりにニヤニヤと二やついている。
「ふっふっふっ、塞がれてようが関係ない。俺にはこれがあるからな。剣圧解放」
業平が狩衣を呼び出した。
そして入り口を塞ぐ岩に手を向け、風を出して塵に変えた。
「よし、綺麗に出来たな。これで中に入れる..失礼しまーす」
岩が除去され、中に入れるようになると、業平は目を光らせてどんどん奥の方に行ってしまった。
それをずっと見ていたアーサー達三人は、業平の行動理由が分からなかったので、後を歩いて追いかけた。
だが、アーサー達が完全に岩山に近づく前に業平は暗い顔をしながら杖を握って出てきたので困惑したアーサーとバッヂは理由を問いただした。
「業平、どうしたんだ急に岩山の中に入っていって、何がしたかったんだ?」
「なんでも..なんでもない...」
「何でもないって、理由もなく岩を塵に変えたりしないだろ。教えてくれ」
「....かった」
「悪い、業平、聞こえなかった、なんて...」
「宝の山がなかったんだよぉぉぉっっ!!!」
「......宝の山?」
泣きながら意味不明なことを叫ぶ業平に更に困惑するアーサー達だが話は続いた。
「普通、こういった岩山の中には宝がたくさん隠されてる物だろっっ!!!なのにっ、金貨一枚もなかったんだよぉぉっっ!!!くそぉぉぉぉっっ!!!」
「....そ、そうなの?デビアスさん?」
「..いや、そんな話聞いたことがない」
「....」
膝をついて泣き叫ぶ業平だが、アーサーは近づくと、呆れた顔をして業平に話しかけた。
「昨日、バッヂが言ってただろ。この岩山は、バッヂ家の初代当主が、オルムニーヴァを封印するために作り出した岩山だって」
「....」
「最初から宝が仕舞われてるわけがないんだ....だから、帰るぞ」
そう言ってアーサーは業平に背を向け歩き出した。
とっくのとうに歩き出していたデビアスは、一部始終を気にしてもいなかった。
バッヂは、最後まで心配そうに業平を見つめて声をかけようとしていたが、オルムニーヴァを倒そうと提案してきたのは、もしかして宝目当てだったからではないかと思い浮かべると、少し頬を膨らませて怒った。
だが、優しいバッヂは今はやめとこうと、呆れ半々、怒り半々の気持ちで背を向け、業平を置いて行く。
「......こ、これだけなんてっ、くっそぉぉぉっっっ」
置いて行かれた業平は、立ち上がると、杖を岩山に投げ飛ばした。
「ふんっ!!」
「っっ!!!?な、なんだっ..!!!?」
突然、アーサー達の後ろから何かが爆発するような音が響いたかと思えば、強風が吹いて、砂煙が肌を叩きつけるように襲い、視界が砂で染め上げられる。
そんな状況が、何分間も続いた。
「ごほっっ..ごほっっ..な、何が起こって」
喉にも入り込んだ砂のせいで咳が止まらないが、段々と砂煙が晴れると、落ち着いてきたのかアーサー達はゆっくりと目を開いた。
「..........は?]
先ほどまで、悠然とそびえていた岩山が跡形もなく消えていた。
それこそ、塵すら残さず、最初からなかったように。
岩山があった場所には一つ、杖がポツンと落ちていて、
その近くには、気絶した業平と、光り輝く剣が横倒れていた。




