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「金蛇」

オルムニーヴァが封印されてる場所を目指す業平達は、昨日と同じ、白い煙が出てきた場所を歩かないと封印先に早くたどり着かないということで、バッヂを先頭にして白い煙の中を歩いていた。


その間、何故白い煙が突然地面から湧き上がってくるのか、何故白い煙の中を進むと、バッヂの屋敷にたどり着いたり、封印先に早くたどり着けるのかと抱えた謎をバッヂに解消してもらい、目的地であるオルムニーヴァが封印されてる地、巨大な岩山がある場所にたどり着くのだった。


「ここかよ」


「え..?き..来た事あるの..?ここに..」


「来た事あるも何も、昨日来たぞ」


天を貫くほどの巨大な岩山に広大な砂地。


昨日の衝撃はもう二回目なので感じることはないが、それでも、何か引き込まれるものがある光景が変わらず存在していた。


「僕が彼らを連れてこの場所に訪れたんだ、事前に」


「....何で知って..」


伝手(つて)でね。僕にはそういうの多いんだ」


「..そ、そんなわけっ..」


「デビアス、今、嘘ついたか?」


「....」


二人の話に割り込んで確認を取る業平。


黙り込むデビアスだが追撃は止まらない。


「言ったよな。また嘘ついたら許さないって。覚えてなかったのか?」


「覚えてるよ」


「なら、説明しろよ」


「..あ、後でいいよっ..!!いっ..今はオルムニーヴァを倒さないとっ」


「あのなぁバッヂ、嘘つきは地獄で閻魔に舌抜かれっ..ぐええっ!!?」


「業平、言ったよな。戦いの前に余計な争いをするなと」


まだ話を続けようとした業平は、アーサーに頭を殴られ舌を噛んでしまった。


痛さで床を転がりまくる業平をバッヂだけが心配する中、アーサーはデビアスに近づくと言葉を投げかけた。


「デビアス、お前も気を付けろ」


「..僕には優しいね」


「興味がないだけだ」


「そう..」


後ろを振り返って業平の方に戻っていくアーサーの背中を見ながらデビアスは嫌われてるなと思うも、それを表情には出さずいつもの顔で三人の元に戻っていくのであった。




「封印を解くには、(コア)となる場所に魔力をこめて破壊する必要があって..ここら辺にあるはずなんだけど....あっ!あった!!」


「これが..核?」


バッヂが見つけたと指さす先には、青黒い小さな石が岩山の壁に埋まっていた。



「..凄い魔力だ」


「....」


デビアスはかけている片眼鏡を核に近づけ隅々まで観察している。


アーサーは興味がないのか後ろから見ているだけだ。


「..は、離れてて三人とも..壊すから..」


「危険なのか?」


「わ、分からないけど..核が爆発して周りの岩が飛び散るかもしれないし..」


「そうか..ならこれかけとくな。剣圧解放(スラッシャー)


「へっ..?」


突然狩衣を着こんだ業平がバッヂの方に手を向けると、手のひらから風が現れてバッヂの体を包み、透明な一枚の厚い服と化した。


「これなら爆発しても怪我せずにすむだろ」


「あっ..ありがとうっ!!」




「ふんぬぬぬぅ~!!!」




「すごい力が入ってるな」


核を壊そうと張り切っているバッヂの姿を見て、(そんなに壊すのは大変なのか)と驚くと同時に、昨日の様に体力を使い果たして倒れないか心配な面持ちで見ている業平と、オルムニーヴァの復活を今か今かと待ち構えているアーサーとデビアスがいた。


「....なぁ、アーサー、今言うことじゃないのは分かってるんだけど一ついいか?」


「..何だ?」


「いやな、少し前まで俺達、樹林の中にいただろ。で、突然バレだした剣を止めた後、俺は空の上に飛ばされて、いつの間にか気絶してたらその間にロウィンの近くにいたけどさ、あれ、どっかに落下した俺をアーサーが見つけてくれて、背負って運んでくれたんだろ?」


「......ん?」


「だから、俺のことまた背負って、ロウィンにまで向かおうとしてくれたんだろ、体がボロボロになっても見捨てずに....」


「......どういう事だ?」


「だぁぁぁぁっっ~~!!!だ、だから、ありがとなって..」


「業平が俺の事背負って向かってくれたんじゃないのか?」


「は..?」


「....」


「えっ、えっ、ちょっ、ちょっと待って、どういうことだ?じゃあどうして俺たちはあそこに現れて、というか、何でアーサーはあんなに血を流してっ..」


慌てる業平と考え事をするように押し黙るアーサーだが、二人の思考に針を刺すように声が響いた。


「クラッシュっっ!!!」



核が割れ、岩山全体に無数の青黒い光の線が走る。岩山の一部が崩れ、そこから大きな影がぬるりと躍動した。





「嘘だろ..」



それは本当に生物と言っていいのか。そんな疑問が業平の頭に浮かぶ。


それほどまでに目の前の、岩山を崩してこちらに向かって来る怪物の大きさは常識を脱していた。


「ぐぅぅっっ..!!!」


体が吹き飛ばされてしまうほどの咆哮(ほうこう)を浴びせられ、業平の体は宙に浮きそうになる。


耳からは血が流れなかったが、痛くてしょうがなさそうだ。




「はぁっ..はぁっ..」


長く続いたように感じた咆哮が止んだ。

だが、それを喜んでる暇は無い。

自分たちと同じ人で例えれば今のは叫び声でしかないのだ。

乗り切ったからと言って山場を迎えたわけでも超えたわけでもないのだから。



「はははっ..これが錫獣か..」


業平は思う。


自分は、デビアスの錫獣の説明であんなに喚き散らしていたが、それでもまだ自分の世界に当てはめて恐怖していたにすぎなかったと。


倒すと決めた気持ちに後悔も変わりもないが、この時ばかりは自身の想像力の無さに腹が立って仕方なかった。


それほどまでに生物としての規格が違ったのだ。それほどまでに錫獣とは恐れの象徴でっ..


「け、剣?」


業平の腰に差さる剣が震えて黄金色の魔力が漏れ出た。


久しぶりの剣の反応に業平は驚いたが、湧き出た魔力と共に伝わってきたものがある。


目の前の錫獣は特別だと。


「..いや、だから何だよ」


錫獣の認識が正確じゃないことを教えられても困ると呆れる業平だが、懐かしいやり取りに心が軽くなったのか少し笑った。


「業平っ!!」


少し離れた先から業平の名前を呼ぶアーサーの声がした。


誰かを片腕で抱えている。


よく見るとそれはバッヂだった。


「バッヂが吹き飛ばされて気絶したっ!!!少しの間頼むっ!!!」


そういうとアーサーは、業平の返事を待たずに己に魔法をかけ速さを上げ、バッヂを安全な場所に連れて行ってしまった。


「頼むって..意味分かってんのかよ」


バッヂの危機なので仕方ないことだと分かっていても、目の前のこれを相手にしろとは無茶なことを言うもんだと業平は思ってしまう。


何しろその巨体が脅威なのだ。


岩山よりかは劣るが、それでも太陽を覆い隠せるほどの体長の高さと横の広さがオルムニーヴァにはあった。


加えて、影でその明るさを業平達が見れることはないが、金色に輝く無数の(うろこ)が簡単に人をすり潰せる鋭さを持っているというのだから攻撃も通りそうにない。


「っぶねぇ!!?」


そして、これが一番の恐怖だが、オルムニーヴァはその大きさに見合わない速さと軽やかさがあった。


まるで砂地が海の様で、泳いだり跳ねるように自由に動き回る姿は天災としか言いようがないし、その巨体が早く動くことで発生する風は逆らえようがない強風だ。


「服着といてよかったなっ..!!」


危うく尻尾を叩きつけられそうになった業平は狩衣の能力で空を飛んでぎりぎりの所で搔い潜ることに成功した。


だが、


「だけど、剣は通らねぇか..」


同時に、避けている間に抜いた剣を走らせるように尻尾に押し付けて飛行したが、鱗が少しパラパラと地に落ちただけで効いてもいなかった。


「俺もバッヂの様に魔法が使いてぇな..ん?何であいつ樹林の方に向かって..!?」


黄昏ていた業平だったが、自分を無視して樹林の中に入り込んで行くオルムニーヴァを不思議に思ってみると、樹林ではなくバッヂを抱えて走っていたアーサーを追っていたのだ。


「間に合うかっ..!!」


出せる限界まで速度を上げアーサーの方に飛んでいく業平だが、間がだいぶが離れているので間に合いそうにない。


それでも諦めず近づく業平だが..


「えっ」


走っていたアーサーの隣に突然黒い影が現れると、アーサーとバッヂは影と一緒に消えてしまった。


「危なかったよ本当に」


「で、デビアスっ!!?」


呆然としていた業平の隣に音もなくデビアスが現れた。


よく見ると両手でアーサーとバッヂの二人を抱えていた。


さっきの影はデビアスだったようだ。


「ど、どうやって隣に現れてっ..いや、それよりも何で空飛べてるんだ!!?」


「後にしてくれよ。あれがこっちに迫ってきてるんだぜ」


デビアスに言われて前を見ると、オルムニーヴァがこっちに向かってきていた。


「げぇっ!!?あいつ、何でこっちの居場所が分かるんだ!!?」


「恐らく、自身を封印し続けたバッヂ家の血をかぎ分けているんだろう。随分と恨まれてるようだ」


デビアスの言葉が本当かどうかは分からないが、業平達とオルムニーヴァの距離はどんどん近づいてきている。


「うっ..ううぅん..あ、あれ?ここどこっ..」


「バッヂっ!!」


「な..なりひら..?どうしてそんなに喜んで..え..こ、ここ..」


「空の上だよ」


「....きゅう」


高度恐怖症というわけでもないのに空の上だと聞いて気絶寸前までに陥ったバッヂは起きる気配すら見せずデビアスの腕の中で掴まれ続けようとするが、それを許さない存在がいた。


勿論、デビアスである。


「バッヂ君、君も分かっているように僕たちは余裕がないんだ。戦う意思を見せないならここから落としてしまうけど、どうにかできるかね?」


「ひっ、ひぃぃっ..!!」


「脅してやるなよ」


逆効果だったようだ。


「もうあれは目の前だ。覚悟を決めなさい」


「は、はいっ..空の上が怖いだけなんだけどな」


小さい声で内心をさらけ出すバッヂを無視して、デビアスは、業平の方を見ると、これからの行動を説明した。


「業平、あいつを倒せるのは君しかいない。僕たちは下に降りて注意をそらすからその剣で攻撃し続けてくれ」


「で、でも..さっき剣で斬り続けたけど、鱗が数枚剥がれただけで、斬り傷すら付かなかったんだぞ..効くとは思えねぇ..」


「それは君の心の持ちようさ。無理だと思えば難しくなり、出来ると思えば楽になる。ただそれだけの話なんだから....後は任せた」



そう言うとデビアスは、落とされたくないので目をギラギラさせて無理やり燃えるような闘志を出し続けるバッヂと、話に入れてもらえず、何か業平に言える瞬間も奪われてむすっとした顔でそっぽを向くアーサーを連れて下に降りて行ってしまった。



「心の持ちよう..か」


一人ぽつんと取り残された業平が、剣を掴んでいる方の腕を上げてデビアスの言葉を反芻する。


剣は変わらず光っていて震えていた。


「お前も俺のせいって言いたいのかよ..そうだな、確かに圧倒されてたわ」


業平は、剣身に映る自分の顔を見てやっと理解した。


情けない顔をしていたのだ。


負け犬の顔を。


「..やってやるよ」


業平の、オルムニーヴァを見下ろす目が変わる


「うぉぉぉぉぉっっ!!!」


業平の雄たけびに答えるようにオルムニーヴァも咆哮し、遂に両者の間に開戦の狼煙が上げられた。

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