「封印士」
「....」
「うぉ、起きたか、バッヂ」
「..あ、あれ..僕..何で寝ちゃって」
「バッヂさん、お疲れのところ申し訳ありませんが、話の続きをしてもよろしいですかね」
「あっ..は..はい..」
十一話「封印士」
「業平にも錫獣の生態が分かってもらえたところで本題に入りましょう。なぜ、僕たちがこちらに来たか。その本当の理由を」
「っ..」
固唾を飲むバッヂは下げていた杖を強く握るが、それを無視してデビアスは、会いに来た理由を口にした。
「簡単に言えば、業平にバッヂ家が長年封印してきた錫獣、オルムニーヴァを倒して力に変えて欲しくて来たのです」
「....」
予想外な理由だったのか、握っていた杖を落としたことも気にも留めず、バッヂは、口を開いて唖然とした表情のまま固まって動かなくなってしまった。
バッヂの反応を見て少しデビアスの顔がにやつくが、失礼のないよう口元を掌で隠し無表情に戻そうとすると、バッヂだけでなく突然勝手な役目を被された業平が詰め寄った。
「ちょっと待てよ」
「何かな業平」
「聞いてねぇぞそんなこと」
「言えない事情があったからね」
「事情?」
「それも今から説明していくよ。それが終われば長かった話も終幕だ」
デビアスが話を区切ると、驚きで固まっていたバッヂが少し落ち着きを取り戻したのか、業平と同じように詰め寄ろうとした。だが、デビアスは、自分がこれからどんな話をすればどんな反応が返ってくるか分かりきっているので、避けるように席を立ちあがると、業平を席の中心部に立たせた。
「バッヂさん、聞いてください。これから話すことは、貴方の血の役目を終わらせる大きな話でもあるのです。そして、彼と、彼のこの剣が明日、あなたの運命を変えるのです」
「..な、何言ってっ」
「封印士である貴方の運命を」
「っ!!?そ、そんなの無理だよっ!!!」
どこまで人の事情を知っているのかという恐ろしさがあったが、簡単に自身にかけられた呪縛を解き放つと宣言するデビアスにとうとう我慢できなくなったバッヂは、喉が裂ける様な痛みを無視して叫んだ。
「..で、デビアスさんは知らないんだっ..!!オルムニーヴァの強さをっ..!!伝説をっ!!!」
「バッヂさんは知ってると?」
「っ....」
バッヂにとってその一言はどんな意味があったのか。
泣きそうな顔を一瞬見せると下を向いて、言う必要なんてないことを分かりながらも一人ずっと抱え込んできた辛さをぽつぽつと語りだした。
「..お父さんが殺されたんだ..オルムニーヴァに....」
「え?」
「それはまた....」
「..バッヂ家は..初代当主と、当時の赤の国の王剣使いとの密命で、子孫代々まで続く..呪いをかけられて....この呪いさえ続けば..オルムニーヴァの封印は保たれるから..みんな我慢して死んでいった....」
「..だから..諦めて逆らわずに生まれてきた意味だけを果たして死ぬべきなのに..お父さんは..お父さんはっ...」
「..捨てられたのか、お前は、親に、父に」
「お、おいアーサーっ..」
「..捨てられたね..だったらまだよかったのに....」
この先を、濁していた過去を言いたくないのか、苦悩するバッヂに無理はするなと業平が声をかけると、その思いやりが閉じたはずだった心に響いたのか、誰かにずっと話したかった思いと重なったようで、隠していた過去の続きが話される。
「..お父さんは..出ていく前に言ったんだ..お前には自分の人生を歩んでほしいって..誰かに定められた生き方じゃなくて自分が望む世界を歩んでほしいって....意味はよく分からなかったけど..思いは伝わったから..だからずっと待ってた..次の日もその次の日も..でも帰ってこなかった..」
話すたびに顔が青白くなっていくバッヂに気を使って止めようとする業平だが、それを手で制してありがとうと伝えると言葉をつづけた。
「..寂しくなって、もしかして僕、捨てられちゃったのかなって思ったけど、それでも信じてオルムニーヴァが封印されてるところに行ったんだ..いるかもって..そうしたら..そうしたらっっ..!!」
「..お父さんは..ぐちゃぐちゃになってた..血がべちゃって..骨と肉がごちゃ混ぜになってて、体の原型なんてない..叩きつけられたからだ..叩きつけられたからあんな風に....死んでっ」
「バッヂ....」
「..死にたいと思ったんだけどね..呪いは自殺を許さないから..死ぬことも出来ない僕はこうやって伝えることしかできないよ..業平達に誤った道を選んでほしくないって..」
「....」
バッヂの悲惨な過去に業平は何か言うことも出来ず黙り込んでしまう。
それは業平だけじゃなく、アーサーもデビアスも同じなようで、うかつな言葉を避けたいという考えもあって黙って話を聞くことに専念する。
「..さ、最初は何でこんな場所に人がって怖くて言葉が出なかったけど、すごく楽しかったよ..今日は..だから..ありがとう..」
「....」
「..も、もう遅いから早く帰った方がいいよ..た、ただでさえ樹林の中は危険なんだから..」
「....」
「..今日の事は忘れて..に、二度とここに来ちゃダメだからねっ....」
「..バッヂはそれでいいのかよ」
「えっ?」
「お父さんに言われたんだろ。自分の人生を歩んでほしいって」
思わぬ言葉に面食らうバッヂだが、話を聞いてたのかと、自分の心配が頭に入ってない言葉に少し怒りが沸いて、つい強めな言葉を言ってしまう。
「..聞いてなかったの?抗っても無駄だって..強いんだよ..君が思ってる以上にオルムニーヴァは」
「戦ってみないと分からないだろ」
「っ..!!戦ってみなくても分かるから言ってるんだ!!」
「バッヂのお父さんもそうやって最初から無理だって分かった上で挑んだのか?違うだろ」
ついに我慢できなくなったのか、怒りを爆発させたバッヂが落とした杖を拾って業平に向けた。
「君にっ..君に何がわかるっ!!僕のお父さんの強さも知らないくせにっっ..!!!僕の攻撃すら簡単に捌けないくせにっ!!」
「そんなことねぇと思うけどな」
「....なら、これくらい..どうにかしてみなよっ..」
向けられた杖から魔力が迸る。
「イファースブっ..!!」
「業平っ!!」
「....剣圧」
バッヂの杖の先端から、数本の細くて長い岩が生まれ、今の業平では目視出来ない速さで発射された。
思わず、アーサーが声を上げて庇いに入ろうとするが間に合わない。
業平は狩衣を出そうとしていたが、着る前に岩が直撃したのか砂煙が発生して真偽のさほどは分からなかった。
「..あっ、ち、ちが、僕は..」
「てめぇっ..!!」
目の前で業平が為すすべなく打ち抜かれた衝撃で、アーサーの怒りに恨みが灯り、自身に魔法をかけ、バッヂを攻撃しようとするが、それを止める者が一人いた。
「..ちょ、ちょっと待ってくれよアーサー。少しは俺が何とか対処できるとか、強さの信頼持ってくれてもいいんじゃないか?」
「..な、業平?」
土煙の中から影が一人現る。手には何か握っているようで、それはバッヂが発射した細長い岩に見えた。
「あっ..あああっ」
「..だけど、やっぱ強いなバッヂの魔法は、自力ではどうしようも出来なかったわ」
「な..なりひら..ち、血が..」
「あぁ、ちょっとかすっちまって避けれなかった。偉そうな口聞いて悪かったなバッヂ。自分の言葉変える気はないけど」
土煙が消えるとそこには、狩衣を着てない業平が腹から血を出して立っていた。
そんな業平を見てバッヂは怯むが、容赦なく業平は近づいていく。
「さっき話聞いてて思ったんだけど、俺は、バッヂのお父さんがあっけなく殺されたとは思えねぇんだよな」
「えっ..?」
「だって、そんな簡単に殺されたんなら、何でオルムニーヴァは今もどこかで暴れてないんだ?」
「あっ」
確かにと、今分かった事実とそんな当たり前のことに気付かなかった自分にバッヂは驚いてしまう。
「やっと出れた外なんだから嬉しくてしょうがないだろ。俺なら小躍りするけどな」
「業平踊ってたか?」
「その踊りじゃないわ」
「..だ、だけど..それでもお父さんは封印の道を選んだってことは..倒せる相手じゃないってことでっ..」
「はぁっ..」
痛みもあってか、前置きなしに直接叩き込んでやろうと業平はさらに近づいていき、バッヂの眼前に立った。
間は目と鼻先くらいしかない。
「前提が違うだろ、前提が」
「..ぜ、ぜんてっ..あうっ」
「噛んでんじゃねぇよ..まぁ、いいか」
自身の傷ついた腹を見ては自責の念に駆られてるので、背中を向けて業平は言いたい事を言った。
「バッヂのお父さんは一人で挑んだわけだけど、バッヂには俺らがいるだろ。仲間がいれば勝てない勝負だって勝てるようになんだろ」
「..な、なか..ま..?」
「うん、仲間」
「な..何で..?今日知り合ったばっかなのに..」
「何でって、俺がそう思ったから。我がままだよ。ダメか?」
「..だ。ダメってそんなっ..」
「俺はバッヂのために戦いてぇよ」
業平が振り向いて話す。
「デビアスの考えに従ってとかじゃない。話を聞いて思ったんだよ。いいお父さんだなって。だから、風化してほしくないって。バッヂを思うお父さんの気持ちが心の中で」
「..ぼ、僕の中で..」
「うん。それにさ、勿体ねぇよ。あんな強い魔法放てる奴がこんなところで一生終えるなんて。俺はこの世界のこと全然詳しくねぇけど、引く手あまただと思うぞ。どこでも必要とされる存在だって、何にでもなれる力がバッヂにはあるって」
「....ほ、ほんとかなぁ」
「ほんとだよ。なぁ、デビアス」
「突然だね..業平の言う通り引く手あまただよ。ただでさえ能力を持って生まれる人が少ない世界で、人間にはとても珍しい自然系の能力を持って生まれたんだ。それも相当高位なね」
「らしいぞ。すげぇなバッヂ」
「え..えへへ..そ..そうかなぁ..?」
「おう。すげぇよバッヂは」
気が良くなったバッヂは照れが止まらないみたいで、ニヤニヤして他の動きは取らなくなってしまった。
「..ひひひっ」
バッヂの笑い声は少しの間誰にも邪魔されず続いた。
外がどんどん暗くなって遂には夜になってしまうが誰も止めようとはしなかった。
「..ご..ごめんなさい..僕のせいでっ..」
「それはいいんだけどよ、ひひひって笑い方は怖いからやめてくれ。盗賊たちを思い出すから」
「は、はい....」
隅っこで体操座りをしながら顔を伏せようとするバッヂを止めて、業平は先ほどの話を続けた。
「さっきの続きだけどさ、一時的でもいいんだ。オルムニーヴァを倒すまででも。その間はさ、仲間として一緒に戦おうぜ」
「..ほ、本当に本気なの..?..し..死んじゃうよ..?」
「死なねぇよ」
「....」
「さっきデビアスも言ってたけど、バッヂは強いんだからもっと自信持てって。俺とデビアスとバッヂ、三人で挑めば勝てるさ」
「何で俺は仲間外れなんだよ業平」
「アーサーも一緒に戦ってくれるのか?」
「..業平が望むなら」
「ありがとう」
いつの間にか傍に立っていたアーサーがバッヂの方を向いて呟く。
「ここまで業平が言ってるんだ。お前も少しは立ち上がってみせろ。手を借りてでも」
「....うん..」
慣れてないながらも頑張って業平の目を見ながらバッヂは手を前に出した。
「..な、なりひらっ..僕っ..諦めてたけどっ..変わりたいんだっ..オルムニーヴァを倒して、外の世界に出て..ほ、本に書いてあった世界を見てみたいっ..!!」
「だ..だからっ..よ.よ.よ..よろっ、よろしくお願いしますっ..!!」
「..いい夢語るじゃん」
業平も手を前に出した。そして
「あぁ、よろしく」
その手は結ばれた。
「じゃあ今日は泊まらせてもらおうか。そして、明日みんなで封印先に行こう」
「うえぇっ!!?」
「デビアス..お前、本当にっ..」
「しょうがないだろう。こんな暗闇の中で馬車がある場所に向かったら、僕たち日の目を見れずに死んじゃうんだから。今日はお世話にならないと」
「..バッヂはいいのかよ」
「....ぼ..ぼくのせいでこんな時間になっちゃったんだ..せ..責任はとるよ..もてなせる品なんて一つもないけど..」
そういうことで、お世話になることになった業平達はお言葉に甘えて明日に備えるのであった。
「じゃあ、ご飯でも取り寄せるかね。業平達、好きなものあるかい?」
「め、飯を取り寄せる?そんなことも魔法で出来るのか?」
「いや、これは違うよ」
.....................................
「行くぞ業平」
「あっという間だったな。昨日の夜は」
時刻は六時。前日の、馬車に乗って出発する前の時間と比べたら二時間の遅れがあったが、それでも業平にとっては眠くてしょうがない時間だった。
「..い.い.い.いこ、いこうっ..みんなっ..ぼっ..僕が先陣を切るから後ろにっ..」
「バッヂ君、少し落ち着きたまえ。道はまだ先だ」
緊張してしょうがないのか、バッヂはまだ出発すらしてないというのに一人異常に不安定な様子を見せ、デビアスが落ち着かせようと声をかけた。
「デビアスは本当に切り替えが早いな。昨日の夜、バッヂと仲良くなったからって直ぐに口調変えて、二重人格ってやつみたいだ」
「やめてくれよ業平。君の馴れ馴れしさに比べれば、流石に僕の方が普通さ」
「業平..俺たちはこれから強敵と戦うんだ。余計な争いを起こすために力を使うな」
「そ.そ.そ.そうだよ二人とも..て、敵は目の前なんだから油断しちゃだめだっ..!!」
「バッヂ、落ち着け」
かくして、集った四人は封印先を目指す。各々の思惑絡まる戦いとなるが、オルムニーヴァを倒すという心は一致していた。
後は突き進むだけだ。
「そういえば、バッヂは何で最初に俺に話しかけてくれたんだ?」
「..へっ?」
「いや、俺が不用意に近づいたり、話始めようとしたバッヂのこと邪魔しちゃったりしただろ。なのに、何で名前聞いてきたのかなって」
「..さ、三人の中では..一番話しやすそうだったから..」
「へぇ..」
「....」
「ほうほう」
「..め、目が怖いよみんな..」




