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「Back」

世間では、見た目や心が大人に近づくと、やれ勉強だ、やれ将来をと、未来の自分の為の糧になる貢献を求められるものだが俺は納得がいかない。


若い時にやれることを若い時にやらないで、いつやれるというのか。時は金で買えないし、歳は金に変えられない。毎時毎秒、生まれた時に親から貰った膨大な(人によっては刻み込まれた)時間という財産を、人は浪費せざるえないというのに、何が勉強だ!何が将来だ!


「今、一番大事なこと、それは...青年期!最後の夏を!!満喫することだろうがぁぁぁっっ!!!」


そう意気込んだ俺は、素肌を刺す陽をバックに、どこまでも明かりを通さない道が続きそうな森の奥深くを目指して駆け出した。


一話「Back」


「おいクソガキィ!足止めてねぇでさっさと歩けぇい!!殺されてぇのか!!」


「お頭!こいつ来てる服が良いだけで、頭はてんで駄目ですぜ!!自分がまだ奴隷になることも分かってねぇってんだから!」


どうしてこうなった..


「おいガキ、今日からお前鉱山奴隷だ。簡単に死んでくれるなよ」


「は、はい」


「これ、道具な。壊したら....分かってるよな」


「..はい」


ほんとにどうしてこうなった....


渡されたつるはしを壁に振るいながら、数日前の自分を思い出す。


森の奥深くを目指し走り続けた俺は、近くの木に自分の名前と日付を彫った後、無性に座りたくなり、そこら辺の木を背に座り込んだ。


すると、頭がぼーっとして意識が遠のいていったので、少し残念に思いながらも目を閉じて視界も意識も暗闇に包まれたかと思えば、遠く離れた先からうっすらと、膨らむように輝いては消える光の点灯と点滅の交差があったので興味を持ち、その光を逃すまいと一心不乱に追いかけた。


(ら、きたねぇ苔まみれの祠しかなくて、がっかりして、そのまま真っすぐ歩いてたら盗賊団に囲まれて、身ぐるみ剥がされて、奴隷商人に買い取られた後、鉱山奴隷として売られちまったんだった)


「今日はこれで終わりだ!!全員道具持って来い!!」


「お、終わったぁ..腕がいてぇ」


体感時間で24時間以上は働いた気がする....これを毎日って、殺す気か!


「殺す気なんだろうなぁ」


..とにかく、今から何時間寝れるか分からねぇし、どこでもいいから早く横になりたい....ん?



「....」



「だからよぉ!おめぇはガキだから、俺たちが代わりに仕事してやるって言ってんだよ!!」


「その代わり、お前が監視役から貰ってる飯を全部寄こせって。な?いい話だろ?」


(あれは..猫耳が生えたおっさんと、チビでハゲた親父が俺と同い年くらいの銀髪の少年を脅してる?)


「おい!聞いてんのかクソガキ!!さっきから下向いたまま黙り込みやがって!おとなしくしとけば見過ごしてもらえると思ってんのか!!」


「まぁ待てよ相棒。こいつ、きっとお前にビビッて意識落っことしちまってるんだ。だから下を向いたまま動けねえんだよ」


「ギャハハハ!そうか!それなら仕方ねぇな!!」


(ひでぇな、あのおっさんたち。自分たちよりも弱いやつを二人がかりでいじめて、大人げねぇ..)


「くひひ..だから、代わりに拾ってやれよ。思いっきり、足で」


「..そうだな。おいクソガキ!仕事を代わりにやってやると言っといて、おめぇのミジンコ心にも気遣えず、話ができねぇ状態に追い込んじまって悪かったな!お詫びと言っては何だが、おめぇが落っことした意識、顎から元の位置に戻してやるよ!!」


「....」


(ダメだなあいつ。さっきから何言われても黙ったままで、死んだな..)


「受けと....がっ!?」


「....えっ」


目の前の光景につい驚いて声が漏れ出てしまった。


何故なら、銀髪の少年が突然右腕を突き出し、おっさんの首を片腕で持ち上げたからだ。


「おい」


「....んぅっっ!!んんんぅぅっ!!?」


俺と同じように思いもしなかった突然の暴力に面食らうおっさんだったが、状況を認識すると、自分の首を掴む少年の腕を払いのけようと、殴ったり、抓ったりして頑張って逃れようとしている。


だけど、少年は痛みに抵抗があるのか気にする様子はなく、逆に首にかける力を強めた。


すると、ぐぎぎとおっさんの首からか口からか分からないが、鈍い音が俺の所にまで響いた。


「..てめぇら新人かなんかか知らねぇけどよ、ここ入る時に教わらなかったのか?俺を舐めてるとどうなるかってよ..痛い目みやがれ」


息が出来ないせいで、脳に酸素が回らなくなってきたおっさんの顔はどんどん青白くなり、赤い線が走った目は浮き出て口から白い泡があふれ出す。


思わず俺は、あのおっさんがどうなるか分かって目をそらしてしまったが、何故かその間に少年は、掴んでいた手を離した。


「はあっ、はぁっ、俺生きてっ..」


「ふんっ!!」


「がっ..!?」


息ができない苦しさから逃れられたおっさんは、鼻水も涙も垂れている顔を気にせず喜ぼうとしたが、間髪入れずに少年が顎を蹴り上げたことで少年よりも一回りも二回りもデカくて重い体は天井に突き刺さって、抜け落ちずにそのまま動かなくなった。


「あ、相棒!?..ひいぃ!!?殺されっ..」


「ふっ!!」


「がぁ!!?」


隣にいたハゲのおっさんは、突然の展開に腰を抜かして尻もちをついていたが、少年の目が自分に向くと、次は自分の番だと恐怖して相棒と呼んでいたおっさんを置いて逃げだそうとした..が、それを見越していた少年は走り出される前に近づいて右ほおに回し蹴りを放った。


すると、ハゲたおっさんは攻撃に気づくことも避けることも出来ず壁に突き刺さり、飛び出ている下半身が小刻みにぴくぴくと揺れた後、天井に突き刺さったおっさんと同じように動かなくなった。


「な、なんだよあいつ..強すぎだろ..」


唖然としてしまった。頭の中に映し出されていた惨状が残酷でも現実であると思ったのに、少年の暴力によって、俺の浅慮な決めつけから生み出された妄想であることを分からされた。


そんな事を考えている場合ではないというのに、刻まれた真実が勝手に頭の中を駆け巡っている間に少年の目がこちらに向いた。


「..!?何で俺と同じくらいのガキがいる!!!」


「な、なんでですかねぇ?ちょっと分からないんでさようならっ!!」


「待てっ!!!」


「ぐえぇぇっっ!?」


おっさんたちと同じ末路は辿りたくないので、目の前の少年の問いかけを無視して走り出そうとしたが俺の歩幅が変わることはなかった。


走り出そうとした瞬間、首根っこを掴まれて動けなくされたからだ。


「ちょとくらい待つ素振り見せろよっ..!」


「このっ..!!離せっっっ!!」


「いいから待てって言ってんだよっっ!!!」


「うっ!?..がはぁっっ!!?」


掴まれた手から逃れようと暴れる俺に苛ついたのか、首根っこを引っ張られ、振り落とされるように硬い床に叩きつけられた。


先ほどのおっさんたちと違って、体が地面に埋まってないので随分と手加減されていることも伝わったが、だからといって、背中から投げられた衝撃が骨の髄まで浸透し、激痛が絶え間なく俺の体の中を駆け巡っている事実が和らぐことはない。


(こ、こいつ、手加減してもこんなに強いのかよ..)


自分と少年との力量の差に苦しんでいる間に、少年は俺の腕を背に回し、逃がさないよう全体重を使って体を床に押し付けて尋問を始めた。


「てめぇ、どんな事やらかしてこんな場所に来た?俺と同じくらいの歳のガキ、初めて見たぞ」


「何もやらかしてねぇしっ..!!ガキっていうな!!腕離せ!!」


「てめぇがちゃんと俺の質問に答えてくれたらよぉ、この腕、ちゃんと離してやるから、な、教えろよ」


「断る!森の奥深くで寝てたら、気が付いたときには盗賊団に囲まれて身ぐるみはがされた後、奴隷商人に売られて鉱山奴隷になってしまったなんて絶対に言わないぞ!!あっ」


「いや、それはさすがにわざとだろ」


うるさい!と心の中で悪態をつくしかない自分を弱く思った。



「別の世界から来たぁ?嘘つけ、俺をなめてんのか?」


「こんな状況で嘘つけるような性格を俺は持ち合わせてねぇよ..!!」


別の世界から来たことを打ち明けさせられたというのに、人を嘘つき扱いするなんて酷いやつだ!と心の中で怒るも、それを表に出すと、さっきみたいに何されるか分かったもんじゃないので、せめてもの抵抗で睨みよりのジト目で見つめると、納得はいかないが、少し居心地が悪いのか、目の前の最悪は頭をポリポリかいて質問してきた。


「ここに来た奴隷、監視役含め、ほぼ全員に外の世界について聞いたりしたが、一度も聞いたことねぇぞ、別の世界から来た奴の話なんて」


「あんたが聞いたことなかろうが、信じる気がなかろうが知ったこっちゃない。実際に俺は知らない世界に迷い込んじまったんだからな」


「..なら聞くがよ、ほんとに別の世界から来たって言うなら何でてめぇ、こっちの世界の言葉、理解したり喋れたりすんだよ」


「それは..あれだあれ、こっちの世界の言葉と俺がいた国の言葉はたまたま同じなんだろ」


「..無茶苦茶だな」 


こ、こいつ..!!確かに呆れられても仕方がない回答をした俺も悪いが、逃げ出そうとしたからって、人を床に投げつけて逃がさないようにしてきたお前にだけは言われたくねぇよ!!


「あのなぁ!確かに何で俺が、この世界の言葉を喋れたり、理解したり出来るのかは分からないけどな、流石に一つの答えで人のことを全否定するのはどうかと思うぞ!」


「ふーん、ならよぉ、てめぇが居た別世界の話を一つや二つでいいから聞かせてみろよ。どんな話でも構わねぇから。まぁ、どうせどこかで聞いたことあるような話をそのまま話すか、適当に別の話同士を組み合わせて、これが俺の居た世界の話だとイカレがアホ面引っ提げていい気になるだけだろうがな..」


「お前っ!!..いいぜ、いくらでも話してやるよ。 覚えてること全部。その代わりっ!!!俺が話し終わった後に絶対に謝ったりするなよ!!!分かったなっっ!!!」


「ふぁぁぁ〜っ、一つでいいぞ。無理すんな」


もう俺の、怒りを抑え込む自制心という名の心の蓋は耐えきれなくなっていた。


(一つ..一つ答えを持ち合わせていない問題にぶち当たっただけで人を嘘つき扱いしやがって....あまつさえ、かけられた疑いを晴らすため、俺の居た世界の話をいくらでもしてやると言ってるのに、あくびだと......ふざけるなっっっ!!!)


理不尽な目にあわされ続けた俺は、遂に自分の怒りを抑え込む心の蓋が完全に天高くまで吹っ飛び、本当は話す必要もないというのに、一泡吹かせてやりたい己の内から湧き上がる欲によって、自分が居た世界の思い出が口から絶え間なく溢れ出た。


話してる途中、自分でもよくこんなに色んなことを覚えてるなと、まるで冷水かけられたかのように冷静になってしまったが、口と頭の回転は熱をもって回り続ける。


しかし、話は尽きないが、少年が途中から下を向いて微動だにしなくなったことと、流石に疲れてきたので、区切りのいいところで終えたかった気持ちが重なり、話すのをやめ、どうせ聞いてないと思うが一応感想を聞いてみた。


「ぜぇぜぇ..どうだ?流石にこの中身がちゃんとある、似通ってもいない俺の頭の中の思い出たちを簡単に否定することはできないだろう?」


「......」


「ははっ..無視か....」


「続きは?」


「え?」


「続きはって聞いてるんだよ」


....いや、聞いてたのかよ。そう言いたかったが少年の目を見て俺は押し黙る。


(人が話している間も下を向いて何考えてるのか読ませなかったというのに、何でそんな目キラキラさせてるんだよ..)


さっきまで人に見切りつけて冷めた目してたじゃんと思うが、そんなツッコミはまるで野暮だと誰かに言われているかのような気持ちにさせられる。


「い、いやー、お、俺のことを疑ったやつに話すことはないと言うか..」


だけど、予期していなかった反応に心がついていけず、口からつい余計な一言が漏れてしまった。それだけは止められなかった。


それがよくなかった。


「俺が間違ってた。この通りだ、申し訳なかった」


突然の謝罪。それも、今もだが、どんな恐怖を与えてくるか分からない相手からの謝罪に俺は心の底から恐怖する。何故、今謝るのか?心も頭もこんがらがる。


「俺はよぉ、外の世界の話が好きなんだ。物心つく前から鉱山奴隷だった俺は一回も外に出たことがなくてよぉ..親もいねぇし、守ってくれる奴もいねぇから、夢も希望もねぇ地獄みたいなこの場所で、毎日死にてぇって思ってた。だけど、唯一死にてぇって思わないで済む時間が、外から来た同じ鉱山奴隷の連中達と、監視役達が話してる外の世界の話を盗み聞きしてる時だけでな。詳しく知りたくて、そいつら締め上げて話聞きだしたりしたが、それが本当のことなのか知るすべがねえって気付いてからはさらに寂しくなっちまったけどよ、今の話聞いて俺は初めて満たされた気がしたぜ。今、お前が話した内容が本当かどうか、他の奴隷、監視役達から聞き出した外の世界の話と同様、知る術がねぇけどよ、質が違うな。手のひら返すようで悪いが信じるぜ。お前が別の世界から来たこと」


初めて、ずっとつっかえていた本懐を遂げたような顔とそぶりをしながら満ち足りた笑みを浮かべている少年を見て俺は気付いてしまう。


こんなのは始まりでしかないと。取り返しのつかない過ちを犯してしまったことを。


「これからよろしくな、異世界人」


異世界っていう言葉があるんなら最初に言っといてくれよとか、幼少期のころから何の助けも得られず、劣悪な環境で生きてきた人間の普通の笑みはここまで凶悪なものになるんだとか、いろんな思いが頭に浮かんだがそんなことどうでもいい。


それよりも、いつまで続くかわからない地獄(どれいせいかつ)に最悪が重なった。


その事実が今、一番、俺の心を占めているのだから。


「とりあえず、異世界人。名前教えろよ」


「俺は馬鹿だ..何が俺の勝ちだ....考えずに行動する癖どうにかしなちゃって、さんざん自分に言い聞かせてきたのに....」


「おい、聞いてんのか?」


気にしなくてもいい光を目指したのも、盗賊団につかまって奴隷になったのも、こいつに目をつけられたのも、全て..全て..


「俺のせいだっっ!!!」


「ふんっ!」


「うげぇぇぇっ!!?」


意識がマイナスに包まれていると、手加減なんか何もない強力な握力で首根っこを掴まれ床にたたきつけられた。


「無視すんなよ」


「だからって簡単に人を投げ飛ばすなっっ!!!」


「なら早く名前教えろよ。呼び方分かんねえと会話しづれぇし」


「こいつぅぅっ..!!」


暴力を伴わないと会話ができないこいつに目をかけられたのが俺のせいだなんて間違っていた!


全てこいつのせいだ!!


「人の名前が知りたいんなら、まず自分から先に名乗れよ!!」


「....ねぇよ」


「は?」


「だからねぇよ、俺には、名乗る名前が」


「嘘だろ?」


「こんな嘘ついて何の意味があるんだよ」


確かに、名前がないなんて嘘ついたって意味がない。いや、だけど....


「親代わりとかいなかったのか?」


「だから言ったろ。生まれつき親がいないって。もちろん育ての親もな」


「....ならどうやって言葉覚えたんだよ」


「猿真似よ。誰に教わるわけでもなく自分で聞いて覚えたんだ、俺は。だから口調も似てるだろ?ほかの奴隷たちに」


「誰も話す言葉を教えてくれない環境で、他の奴隷が話す言葉を聞いて自力で覚えられたなんて信じられるわけがないだろ..」


「別に誰も信じてくれなんて言ってねぇだろ。それに、お前にだけは疑われたくねぇよ。俺はてめぇの馬鹿みたいな答えを信じて異世界から来たことを認めたわけじゃねぇんだから」


「....」


「勘違いするなよ、間抜け」


....とりあえず、深堀するのはやめとこう。


自分の心と体に傷をつけてまで、本当の事情を知りたいわけでもないし..


「は、話は変わるけど、名前、自分で考えたりしようと思わなかったのか?みんな持ってるのに、自分だけ名前がないって違和感すごそうだけど....」


「そういえば、考えたりしようと思わなかったな。まあ、俺の名前なんて考えてもどうせ誰も呼ばねぇだろうし、いらねえだろ」


「そんな悲しいこと言うなよっ!!」


俺の心が耐えきれないわっっ!!!だめだ、俺、さっきからよくない方向に進んでる気がする....


あんなに怖かった目の前の、何考えてるか分からなかった少年が一気に可哀そうな奴に見えてきた。


「そんなに名前って大事か?」


「当たり前だろ。名前がないなんて、普通じゃないわ」


「ふーん。あ、ならよぉ、お前が俺に名前つけろよ」


「..なに言ってんだ?」


「普通じゃねぇんだろ?名前がないってのは。俺は別に必要性感じてねぇけど、気になるってんならお前が付ければいい」


「ちょっ」


「じゃ、俺あっちで寝てるから、なるべく早く考えてくれよな....思いつくまで起こすなよ」


そう言うと少年は、少し離れ場所で壁に寄りかかって眠ってしまった。本当に、俺が役目を果たすまで起きそうになさそうだ。


「......ど、どうしよう..名前、考えなちゃいけなくなっちゃった」


一応チラッと寸分の希望に賭けてもう一度見るが、やっぱり壁によっかかって寝ている。


「起こそうにも思いつくまで起こすなって言われてるしなぁ....はぁ、余計な事言わなければとよかった......まぁ、過ぎたものはしょうがない。とりあえず、適当な名前なんて付けてボコボコにされるのは勘弁願いたいし、いい名前を考えないと..アイツの特徴から考えてみるか」


思いつく限り上げてみると、力が強い、口調が悪い、銀髪で目が赤くて、体格は俺の方が少し良い、身長は同じくらい。そしてイケメン....


「やっぱり考えるのやめるか。名前なんかなくてもあの顔が名前みたいなもんだろうし..って、嫉妬しそうになっちゃだめだな。ちゃんと考えないと」


名は名刺だって言うしな......ん?


ちゃんと考えないと?考えないと..ないと....ナイトっ....!!


「閃いた!!!」


「うおぉっ!!?なんだよ、いきなり大きな声出して、びっくりしすぎて逆にすぐ落ち着いちまったぞ」


「お前の名はアーサーだ!!」


「あ、アーサー??なんだそりゃ」


「名前だよ名前!!ナイトの話!!顔も外人ポイし決まっ....」


「ナ、ナイトって何だっ!!?早く教えろっっっ!!!」


「お、おちつけ!俺もアーサー王伝説っていうタイトルしか知らなくって..」


「........あ、そう....悪かったな....」


めちゃくちゃがっかりしてる....後、何とか俺のこと責めないように我慢してるけど、目が、目が怖い。怒りが目に凝縮されてるのかってほど、元々赤かった目が更に血走るように赤くなってる。


「いい名前付けてくれてありがとな、ナイトとは....何にも分からなかったが、この名に恥じない生き方をするぞ、俺は」


「....応援するよ」


一時はなぶり殺しにされるんじゃないかと恐怖したが、何とか暴力の嵐に見舞われることなく過ぎ去ってもらえたようで安堵する。


そう思った瞬間、人の名前を考えるという重大な使命も終えたこともあって、先ほどまでの興奮が失せて眠気が出てきた。


よくよく考えたら俺、今日、鉱山奴隷になったばっかりだったんだ、忘れてた。忘れられるような重労働じゃなかったというのに、こいつとのやり取りが濃すぎたんだな。


「じゃあ、そういうことで、ありがとうございました」


「待て待て待て待て」


「なんですか?もう寝たいんですけど」


「いきなり他人行儀になるなよ....そんなことより、教えてくれよ名前」


「え?あ、そうか。まだ俺、自分の名前言ってなかったのか」


目ざといな....ぶっちゃけ怖いしイケメンだし、あんまり関わりたくないから名前教えたくないんだけど、明日も詰め寄られたら嫌だし....言っとくか。


「俺の名は猪熊業平。猪に熊で猪熊業平だ」


「イノシシにクマで猪熊業平....なら俺は猪熊アーサーってことか」


「絶対にやめてくれ」


それから二年後


「の前に、一ついいか」


「....何ですか?」


「その、お前の左腕に付いてる小石は何なんだ?」


左腕に小石?何言ってっ....


「....え?なにこれ??」

因みに、アーサー王伝説に関する最古級の資料と呼ばれ、アーサー王の名が初めて出たぁ!(仮説)とも言われてる「ブリトン人の歴史」の原本は828~830年頃に成立したといわれています。

(アネイリンの書、ア・ゴドズィンは現時点で写本しか残されていないため初出かどうかは不明)

そして在原業平は天長2年、825年生まれなので関りは薄っすらとあるんです。


名前だけね。

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