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ミイラの人魚

作者: 雉白書屋

 ある夜のこと。見せたいものがある、と男が住むアパートに友人が桐の箱を持って訪ねてきた。


「で、これなんだよぉ、見て驚くなよ? でも驚くぞぉ」


「お前、おれをどうしたいんだよ」


「開けるぞ……さあほら、見ろ! すごいだろ!」


「あー……死ね?」


「なんだよその感想!」


「いや、そのはしゃいだ顔が腹立ってさ……」


「いや、お前がはしゃげよ! 本物の人魚だぞ! ミイラ人魚!」


「語呂が気持ち悪ぃな。人魚のミイラだろ。いや、どっちでもいい。はぁ、何かと思えばくだらない。お前が作ったんだろ?」


「まあ、そうだよ」


「おぉ……認めるの早いな。もうちょっと粘るかと思ったよ」


「粘る?」


「そう。しかし、よくできてるじゃないか。魚と、あとなんだ? 粘土か何かか?」


「ん? なに言ってんだ?」


「あ? 材料だよ。だから、お前が作ったんだろ? 本物っぽくさ」


「いや、本物だよ」


「は? だって今、お前が作ったって」


「そう、おれがちょっと干して箱にしまった、本物のミイラ人魚」


「だから人魚のミイ……え、これ、今」


「ギィィィィ……」


「うおっ! 鳴い、動いた! え、これ、マジか!? は!?」


「おーほほほう。いいリアクションだぁ。それだよそれ」


「いや、は? これ、マジで生きてるじゃん……いや、ミイラって生きてるのか? いやいやいやそれ以前にえ、本物って、え? 人魚? お前、本物の人魚で作ったの?」


「そうだよ。この前、海岸歩いてたら見つけて拾ってさ。で、それでちょっと干して――」


「はぁ!? お前、え、干した!? いやこれ、もったいな! 人魚ってさ、あれだろ? 食うと不老不死とか何とか、えぇぇ、お前マジか、もったいねぇ、あ、それかもう食ったのか?」


「はははは! そんなの迷信だろ! ははははは!」


「いや、だって人魚だぞ、えぇーこれ、食えばまだ効果あるかな?」


「いや、お前、それは引くわ……」


「人魚をミイラにした奴に言われたくねえよ! あーあ、なんとか一応、まだ生きているみたいだし水に戻せばツヤツヤになったりしねぇかな……いや、ここまで萎んでちゃ無理か……干物だと思えば、食えなくも……あ、どうでもいいけど、あれかな。前にテレビでやってた人魚のミイラもあれ、本物だったりするのかな!?」


「お前、ミイラの人魚にすげー夢中じゃん」


「なんでお前の方が冷めてんだよ! はぁーしかしもったいねぇな……でも人魚って本当にいるんだなぁ。やっぱ美人だったのかなこいつも」


「さぁーなーそいつ、まだ子供だしなぁ」


「へー、子供。まあ、小さいしな……いや、お前、子供を生きたままミイラって……」


「いやいや違うよ。元々そんな感じだったんだってば。だからさ、おれはそれっぽくなるよう、干したり箱を用意したり演出をさ」


「ふーん? まあ、海岸で見つけたってことはそうか、弱ってたか。でもまだ生きてるしなぁ。どうにか海水、塩水で元に戻らねえかな……でも、なんで子供だってわかったんだ? 萎んだのかも、ん? なにしてんだ? ああ、窓か。暑いのか?」


「んー、大人は尾が二つに分かれるみたいだぞ」


「へぇー、色々調べたんだな。よし、とりあえず風呂に浸けてみるか。おれ、水溜めてくるわ!」


「おー……じゃあおれ、もう帰るな。っと靴忘れるところだった。よしと……いや、やっぱ人魚のミイラじゃなく、ミイラの人魚だよなぁ。大人の人魚のあの姿を見ればあいつもそう思うかな。ミイラみたいだって」


 男の友人はそう呟くと窓から外へ出て行った。

 それから少し経つとノックの音がした。それは執拗に、男が出るまで止まず、そしてドアを開けた男の悲鳴は一瞬のうちに止まった。

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