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ある日、鉢合わせをしてしまいました ②

「ん?ワーグナーはどうした?」


「エクトルならさっき殿下に“少しお側を離れます”と言ってそのまますごい勢いでどこかに走って行きましたよ」


「どこに?」


「さあ?」


賑やかなバザールを歩きながらコラールとイヴァンがそう話していると、リュミナ・ドビッチが急に感嘆の声をあげて小走りした。


「きゃー♡なんて素敵なアクセサリーなんでしょう!」


その背中にルドヴィックが声をかける。


「おいリュミナ、勝手な行動はするな。

生徒会執行部(私たち)と行動を共にするならと許されている学園生活だという事を忘れるな」


「わかってますよぅ。だから早くこっちに来てくださぁい!」


リュミナはとある店の前でルドヴィックたちを手招きする。

そこは異国の珍しいアクセサリーなどを売っている出店であった。


「ほぅ、外国の装飾品か」


第二王子ルドヴィックが珍しそうにそれらの品を眺めた。

出店の店主が大陸公用語であるハイラント語で言う。


「大陸東部や南部で採れる天然石を特殊な技法で磨き上げた伝統的なペンダントやブレスレッド、指輪なども揃えてございますよ」


「ほほぅ、それは興味深いな」


ルドヴィックは感心しながら品々を見ている。


「わ~コレなんて素敵だな~♡」


リュミナがピンク色の石を用いたブレスレットを手に取りうっとりと眺めた。

そんなリュミナの近くにあるひとつの髪飾りがルドヴィックの目に留まる。

彼はそっとその髪飾りを手に取った。

見た目に反してとても軽い。

客が品に興味を示したのを見逃さず、店主がその髪飾りを薦めてくる。


「お客さんお目が高いですね。それは古くから魔よけとしても用いられる希少な石で作られているんですよ。大切な女性に贈られると喜ばれますよ」


「魔よけの意味もある髪飾りか……」


ルドヴィックはその髪飾りをじっと見つめた。

薔薇を象って彫り込まれた純白の石の髪飾り。


「赤い髪に映えそうだな」


「え?何か言いました?ていうかソレ、買うんですか?」


リュミナがルドヴィックが手にしている髪飾りを見てそう言った。

何やら期待に満ちた眼差しを向けている。

ルドヴィックは店主に告げた。


「これを貰おう」


「へぃ毎度あり」


「わ~♡」


何故かリュミナが嬉しそうな声をあげる。

ルドヴィックは代金を支払って包みに入れられた髪飾りを受け取った。

(お忍びの時は自ら支払う)


丁度その時、どこかへと走り去ったエクトルが戻ってきた。

彼の婚約者であるプリムローズの手をしっかりと握って。

思いがけない人物の登場にルドヴィックは目を丸くする。


「プリムローズ嬢っ?なぜこのような場所に?」


驚くルドヴィックに、

「我々と同じですよ。ご令嬢方皆で見聞を広めるために訪れたそうです」とエクトルが説明した。

そして婚約者を送り届けたいのでこのまま帰宅すると言う。


目立たぬが護衛も付けているしイヴァンやコラールもいるのでそれはもちろん構わない。

構わないのだが、ルドヴィックはある事が気になってそれを口にした。


「ちょっと待て、プリムローズ嬢がいるという事はまさか……」


こんな様々な人種が横行する場所にまさか、と嫌な汗が滲み出るルドヴィックにエクトルが答えた。


「はい。レントン公爵令嬢や他のご令嬢方もご一緒なようです」


「ベスが……バザールにっ!?」


恐ろしい予想が当たりルドヴィックが驚愕する、と同時に当の本人の声が聞こえてきた。


「プリムローズ!どうしたというの?突然走りだして………」


プリムローズにそう声を掛けたエリザベスがすぐにルドヴィックの存在に気付く。


「殿下………」



「……やはり来ているのか……ベス……」


まさか自分の婚約者が、この国の筆頭公爵家の令嬢が喧騒でごった返すこのような場所に居る事にルドヴィックは只々驚くばかりだ。

この国の第二王子である自分がここに居るというのもかなりおかしな話だが、エリザベスよりはマシである。


というかそもそもエリザベスはこのような大胆な行動をするタイプではないはずだ。


寛容で情に篤い性格ではあるが、高位貴族令嬢として、いずれは王族に嫁ぐ身として常に自分の取るべき最善の行動を念頭に入れて行動してきた。


そのエリザベスが、たとえ公爵家の護衛を配していたとしても万全とは言えないこのような場所に来るとは……。


その時、ルドヴィックの頭にバザールへ来る前にエクトルが言っていた言葉が()ぎる。


『殿下、我々はもう少し危機感を持った方がいいのかもしれませんよ?』


とある事件がきっかけでリュミナ・ドウィッチに新たな属性の魔力がある事が明らかとなった。


リュミナの持つ魔力がどのようなものなのか今、魔術師協会が分析している。

もしかすると“第七番目の属性”の存在が明らかとなり、西と東の両大陸を震撼させるほどの大発見となるかもしれないリュミナの魔力。

それより今後リュミナをどうしてゆくのかが議会で決まるらしい。

世紀の大発見かもしれないし、実際にはそこまで珍しい魔力ではないのかもしれない。

ただ、それがはっきりするまではリュミナ・ドウィッチをどう扱ってよいのか、国も決めかねていた。


倫理的にそれまでどこかに閉じ込めておくわけにはゆかず、さりとて野放しにするわけにもいかず、とりあえずは貴族院学院に入学させ自由にさせているように見せかけて監視下に置いているのだ。


その役割を同い年であるルドヴィックと次代の国政を担う高位貴族の令息たちに任されたわけだ。

彼らなら私欲のためにリュミナを利用する事は無いだろうという国王の判断である。

まぁそれも偏にリュミナの魔力が害悪となるものではないという診断が出ているからなのだが。

(リュミナは珍しい魔力を持ってはいるが魔術は扱えない)


そうやって任された責任を果たすべくリュミナを執行部に置き、目を離さないようにしていたのだが……。


───逆にベスから目を離し過ぎたというのか……?


だから婚約者がいつもとは違う行動をしている事にも気付けなかったのだ。


───このような場所に令嬢たちだけで……ではないな、誰だ?後ろのその男は。


ルドヴィックはエリザベスたちの後ろに立つ、背の高い見目の良い男を見た。


そんなルドヴィックを他所にエリザベスが告げる。


「まぁ殿下、このような所でお会いいたしますとは奇遇ですわね。殿下もバザールをお楽しみで?」


───また殿下呼びだ。


「……ベス、キミこそ何故このような場所に?それに後ろに控える男は誰だ?」


「この方は近頃わたくしのサロンに講師としてお招きしている吟遊詩人のグスタフ・グスタン様ですわ。今日は彼の案内でいつも聴いている吟遊の国々の文化を実際に体験しに参りましたの」


「少ない護衛で危ないではないか。それに未婚の令嬢が異性を連れて歩くのはあまり褒められたものではないな」


違う。こういう言い方がしたいんじゃない……とルドヴィックは内心臍を噛むも、エリザベスの予想外の行動に思った以上に狼狽えているようだ。


そしてその言葉がエリザベスの神経を逆撫でした事にもルドヴィックは気付けていない。


エリザベスはリュミナを見ながら硬質な笑みを浮かべた。


「あら?おかしな事を仰いますのね、殿下たちこそ未婚の若い令嬢を連れて歩いているではありませんか」


「我々は生徒会執行部の仲間として行動を共にしているだけだ」


「わたくし達とてサロンの行う講義の一環としてグスタン様とご一緒しているだけですわ」


「エリザベス」


「ご安心ください。()()()()()殿()()()()のお邪魔をしようとは一切思ってはおりませんから」


エリザベスはそう言ってプリムローズの手を握っているエクトルに向き直った。


「エクトル様もプリムローズはわたくしにお任せになって?どうぞ当初の予定通り執行部の皆さま水入らずでバザールをお楽しみくださいませ」


エリザベスの言葉を聞き、プリムローズはエクトルを見上げる。

彼は迷う様子を見せる事もなくエリザベスに答えた。


「いえ。プリムは俺が連れて帰ります」


「……(今はまだ)婚約者であるあなたにそう言われてしまうとこれ以上は出しゃばれませんわね、残念ですがわたくしたちだけで続きを回りましょう」


エリザベスがそう言って皆に目配せをした。

そして略式に膝を折りルドヴィックに挨拶をする。


「では殿下、思いがけずお邪魔をする形となり申し訳ございません。これにて御前を失礼いたしますわ」


そう言ってその場を去ろうとするエリザベス。

しかしルドヴィックはそれを許さなかった。


「馬鹿を言うな。お前たちだけで行かせられる訳がないだろう」


「まさか一緒にバザールを回るとでも?」


「嫌なのか?」


「嫌です。せっかくのびのびと楽しんでいましたのに」


「ならば帰ろう。屋敷まで送る」


「もっと嫌ですわ。それなら乗ってきた馬車で自分たちで帰ります」


「ベス、ダメだ」


もはや興味のない婚約者の事など捨ておけばよいものを何故か引き下がらなルドヴィックに、エリザベスは苛立ちを募らせる。

そんなに体裁が大事かと言ってやろうとエリザベスが口を開きかけた時、それを遮るようにリュミナの声が響いた。


「っ殿……「もーー!なんなんですかっさっきから!ワタシたちの邪魔をしないでくれますっ?」


皆が一斉にリュミナを見ると、彼女は腰に手をあてぷんぷんと怒っていた。




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