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ある日、男爵令嬢の言う事には…

国王陛下、並びにリュミナ・ドウイッチ男爵令嬢の御入来っ!!」


「うふ♡ワタシも来ちゃった♡」



安定期に入り国内に懐妊を公表したものの、無事に出産を終えるまではとごく小規模に行われている祝いの宴。


それに出席予定はなかった国王と、さらに王太子夫妻はもちろん第二王子ルドヴィックにも招待されていないリュミナ・ドウィッチが共に入場して来た。


しかもリュミナの側には彼女に寄り添うイヴァン・オーブリー侯爵令息の姿まであった。


「チ、無理やり来たか」


エクトルの小さなつぶやきがプリムローズの耳に届く。


「え?」


よく聞こえなかった為にプリムローズが聞き返すもエクトルはリュミナの方へと視線を向けたままだ。



会場中が国王とリュミナに注目する中で、ルドヴィックの同腹の実兄である王太子が慌てて父王の元へと行く。


「ち、父上っ……な、なぜ突然宴にご出席を?正式な祝いは生まれてから、その時に出席されると申されていたではないですか」


息子にそう言われ、国王は人が良さそうに見える笑みを浮かべて王太子に言った。


「将来の我が国に益を齎すであろう聖母ドウィッチ令嬢が宴に出たいと申したのだ。王太子妃に是非祝いが言いたいと言ってな。口実としてはなんとも殊勝で健気ではないか。なので私自ら連れて来てやったのだ」


「ドウィッチ嬢の事はまだ内密とし、対応もこれから定めてゆく段階なのですよ。それなのに表に出してどうされるおつもりなのですか」


半ば呆れ、半ば憤りを込めていう王太子に、国王は表向きの笑顔を崩さずに声を抑えて答えた。


「宴に連れて来たからといって、何も馬鹿正直に正体を明かす必要はないであろう?」


「……それでは父上が自分の子ども程の若いご令嬢にお手を出されたと思われてしまいますよ」


「そう思いたい奴には思わせておけば良いのだ。私の女癖の悪さは昔から有名だからな。しかしそれが男爵令嬢の隠れ蓑になる、そうは思わんか?」


「亡き母が知ればきっとお怒りになりますよ」


王太子とルドヴィックの生母である王妃はルドヴィックが五歳の時に流行り病により急逝している。

王子二人がすでに誕生している事もあり国王はその後王妃を定めず、代わりに愛妾を側に置き出したのであった。


「儚くなってしまったお前たちの母親以外の女とどのように騒がれようがさして興味はない」


「父上」


「まぁ良いではないか。男爵令嬢(あの娘)、何やら面白い事を言うておったぞ。逆ハーがどうのこうのとか今夜は悪役令嬢たちの断罪パーティだとか。どうやら今夜何やら起こるらしい。面白そうだろ?」


「私の妃の祝いの宴を台無しにするおつもりですか」


「まぁそうカッカするな。何か起こるというならさっさと終わらせておく方が良いだろう。しかし私はここまでだ。後はオーブリー侯爵令息に…もうすぐ()が付きそうだがな、彼奴に任せてあるから良きに計らってくれ」


国王はそう言ってリュミナ達には目もくれず会場を出て行った。

元々ひと癖もふた癖もある性格で、策士を通り越して変人と化している、じつに食えない人物なのである。

それが王妃が亡くなってからはより顕著にその性格が表に出るようになってしまったのだ。


合理性の鬼で使えるものは王子である息子たちも躊躇なく使う。

(もちろん危険な事はさせないが)

国王は父親でありながら決して敵に回したくはない、王太子やルドヴィックにとってはそのように評価する存在であった。


「勘弁してくれ……」


王太子は小さな声でそうひとり()ちてリュミナ・ドウィッチ男爵令嬢の方に視線を巡らせた。


一方突然現れたリュミナとイヴァンを、ルドヴィックとコラールは驚きを隠せない様子で凝視している。

まさか国王に伴われて無理やり宴に来るなど想像も付かず、もしやリュミナは国王に直談判したのでは?と彼女の破天荒ぶりに戦々恐々となる。


その中でエクトルはいきなりがっしりとプリムローズの腰をホールドして身動きを取れないようにしてきた。


「あら?エクトル?」


プリムローズはきょとんとしてエクトルを見上げる。


「変な事は考えてくれるなよ」


逃がさんとばかりにプリムローズの腰に手を回して、エクトルはそう言った。


そんな三名を見つけ、リュミナは嬉しそうに破顔して大きく手を振りながら駆け寄って来た。


国王にオネダリし、その豪胆さというか考え無しの底抜けの馬鹿さを面白がった国王が買い与えた真新しい純白のドレスを着て。

(リュミナは『ワタシはみんなのものだからぁ、誰にも染まらない白を着ます♡』と言ってこのドレスを選んだという)


「きゃっほー♡ルドヴィック様エクトル様コラール様ぁ♡あなた達のリュミナが来ましたよ~!」


それを見た瞬間、すん…と顔からごっそりと表情が抜け落ちたエリザベスがルドヴィックの側から離れようとした。


それに瞬時に気付いたルドヴィックが慌ててエリザベスの肩を抱き引き止める。


「ちょっと待てベス!ど、どこへ行こうというのだっ」


「……殿下が大変可愛がっておられるドビッチ令嬢が来たのです。わたくしはお邪魔でしょうから退散しようかと思いまして」


冷ややかな声でそう言うエリザベスの手を取り、ルドヴィックは焦燥感を顕にする。


「可愛がってなどいない!友人として接していただけだっ。ベスが邪魔なわけがないだろうっ、この場合邪魔なのはむしろあっちだ!」


かろうじて繋がっていた首の皮が脆くも千切れそうになり、ルドヴィックは必死になって繋ぎ止めようとした。


コラールもフランシーヌの手をしっかりと握り「信じて」と彼女の目を見て訴えている。


「でも……コラール様……」


「信じて。僕はもう、間違えないから」


コラールがハッキリとそう告げたのを聞き、フランシーヌは不安に瞳を揺らしながらも小さく頷いた。


そんな中、リュミナは喜色満面で皆の元にやって来た。

後からリュミナを追いかけたイヴァンを後ろに従えて。


イヴァンの姿を認めたロザリーが「もう療養は済んだのかしら?」

と言ったのが向こうから聞こえた。



「みなさんこんばんは!王様にお願いしてワタシも参加させて貰っちゃいました!」


嬉しそうに元気よくそう言うリュミナに一同は乾いた笑いしか出ない。

それならば宴の主催者である王太子夫妻に先ず挨拶をするのが筋だろう。


エリザベスは前世で読んだ物語のヒロインはこんなにもバカだっただろうか?と考えた。

貧乏な男爵家の娘としてろくなマナー教育を受けずに育った彼女だが、天真爛漫ながらも思慮深さで周りの空気を常に読み、上手く立ち回って愛されキャラとなっていたはずである。


しかし物語の中の悪役令嬢の一人である自分が転生者というイレギュラーな事が既に起きているのだ。

リュミナの性格がガラリと変わってしまっていても不思議ではないのかもしれない。


───ずっと筋書き(シナリオ)を気にして怯えてきたけれど、もしかして全く別の物語となるのでは……?


エリザベスは急にそんな考えが頭に浮かんだ。


これも前世の記憶だが、同じ物語でも並行世界というものが存在するとあった。


同じ登場人物、同じ世界でありながら個々の性格や立場が違い、それによりシナリオやラストが全く違う物語になる……。


前世のエリザベス自身も、そんなアナザーストーリーやif版と称された作品を多数読んできた。


───もし、この世界が私の知る物語の並行世界なのであったなら……。


エリザベスはちらりと隣に立つルドヴィックを見遣る。


───わたくしがずっと考えていた強制力は、断罪へ向けての強制力ではなく……もしてして……


そんな考えに耽っていたエリザベスだが、リュミナが発した声により現実に引き戻された。


「というわけでみんなおまたせ!これから悪役令嬢たちの断罪をはじめましょ!」


その言葉にエクトルが眉根を寄せてリュミナに言う。


「……悪役令嬢とは?それに断罪とはなんの事だ?」


リュミナは嬉しそうに腰をくねらせてエクトルに返した。


「だってぇ?よくわかんないけど、大勢が集まるパーティーっていったら断罪の場なんでしょ?だって大概のお話がそうだって(前世の妹が)言っていたもの!」


「キミが何を言っているのかさっぱりわからない」


辟易として答えるエクトルに対し「ワタシもよくわかんない~!」と言っているリュミナを見てエリザベスは思った。


───彼女を見ていると妙な既視感を感じると思っていたけれど、前世の姉に似ているのね。姉は活字嫌いで本とか全く読まなくて、それにとてもいい加減な人間だったわ……。


「とにかく!」

リュミナはそう言い置いて、皆に告げる。


「今ここで悪役令嬢たちの悪事を白日の元に晒して断罪ショーをやっちゃいましょうよ!」


「……悪事?そんなものは存在しない」


ルドヴィックが冷静な声でリュミナに告げた。


リュミナはしたり顔でプリムローズたちを見てせせら笑う。


「いいえ!ワタシはここに居る悪役令嬢たちに沢山いじめられてきたんだもの!それってとっても悪いコトでしょ?さぁ悪役令嬢たち、正直に罪を認めて楽になっちゃいなさい!」


プリムローズたちに指を指してそう声高らかに告げるリュミナにエクトルが確認する。


「前に言っていたノートを盗まれたり陰口を叩かれたという奴か?」


「そう!それよ。とっても酷い人たちなの!」


「でも彼女たちはそのような事はしていないと言っているぞ?」


エクトルのその言葉にリュミナはムキになって言い募る。


「ウソよ!彼女たちは悪役令嬢たちだもの!いくらでもウソをつくに決まっているわ!」


「嘘、か」


「そうよ」


「それじゃあどちらか嘘を吐いているのか、ハッキリさせようじゃないか」


「え?」


きょとんとするリュミナを尻目に、エクトルは近くにいた侍従に告げて何やら持って来させた。


「こんな事もあるかもと、レントン公爵にお借りして来たんだ」


そう言ってエクトルは一つの球体を手にする。



そしてリュミナとプリムローズたちに向けて透明の球体を掲げて告げた。



「この“真実の瞳”を使って、白黒ハッキリつけさせようじゃないか」






───────────────────────




そろそろラストだぞい。




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