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ある日、祝いの宴で

「足が痺れて動けなくなり、それで護衛騎士にお姫様抱っこをされて会場入りされたと……」


 エクトルの言葉に、ルドヴィックはムキになって否定する。


「お姫様抱っこというな!横抱きに担がれたのだ!それに入口までだ。会場には自分の足で歩いて入ったぞ!」


「エスコートするはずのレントン公爵令嬢に逆エスコートされる感じでね?歩き方が生まれたての子鹿のようでしたしね?」


「貴様……卒業後は側近ではなく下男として召抱えてやる」


「ならば王太子殿下の元へ参ります。是非にと誘われておりますので」


「くっ……」


「しかし良かったです。首の皮一枚でも、とりあえずはレントン公爵令嬢との婚約が継続されて」


「ベスは聖母だ……慈悲深い女性だ……」


「その聖母さまに痺れを切らした足をツンツンされまくっていたと護衛騎士から聞きましたが?」


「ツンデレベスのツンツン、何かの扉が一瞬開きかけた気がした……」


「………」


 そんな調子で話していたエクトルとルドヴィックは、自分たちの婚約者がいる方へと視線を向けた。


 王太子妃懐妊を祝う、近しい者たちだけのささやかな宴はすでに始まっている。


 エリザベス心の友の会のメンバーである令嬢たちは今日の主役である王太子妃メレンディーナに祝いの言葉を述べていた。


 まずはメレンディーナに次ぎ最も高位であるエリザベスが祝辞を述べる。


「メレンディーナ様、ご懐妊おめでとう存じます。すでに安定期に入られているとの事、心からお喜び申し上げますわ」


「おめでとうございます」


「おめでとう存じます」


「メレンディーナお姉様、おめでとうございます!これ、東和のお土産です!」


 プリムローズはメレンディーナに東和土産のしゃもじを手渡した。

 しゃもじには東和の文字で“安産祈願”と書かれている。


 しゃもじを受け取りながらメレンディーナは笑顔を浮かべ、プリムローズと皆に礼を言った。


「ありがとうローズ。みんなも今夜はありがとう。わたくしのために集まってくれて嬉しいわ」


「宰相である父から王太子殿下に側妃をという声が上がり始めていると聞いてハラハラしておりましたの。でも殿下はメレンディーナ様を深く愛されておられるのだから安易に後宮はお作りにならないだろうと思ってはいましたが、それでも心配しましたわ……本当に良うございました……」


 ロザリーがそう言うとメレンディーナは彼女を見た。


「心配かけてごめんなさいねロザリー……。でもわたくしも貴女を心配していたのよ。婚約者の事、本当に災難だったわね……もう気持ちは落ち着いた?」


「ええ、それはもう清々としましたわ。最後までどうしようもない馬鹿なお方でしたけれどプリムローズのおかげでギャフンと言わせてやれましたし。爽快でしたわ!」


「貴女がそこまで婚約者だったオーブリー侯爵令息を嫌っていたなんて知らなかったわ」


「貴族の結婚なんてそのようなものだと自分に言い聞かせ、気持ちに蓋をして参りましたから。こう言っては何ですが、私の場合はドビッチ令嬢の存在に感謝ですわ」


「……あの男爵令嬢ね」


 ロザリーの口からリュミナ・ドウィッチの名が挙がり、メレンディーナは辟易とした口調で言った。

 それを見てエリザベスがメレンディーナに訊ねる。


「どうかなさいましたの?」


「どうかなさいましたの?ではなくてよエリザベス。あの娘は礼儀作法という言葉を遠い地の果てに置き去りにでもしてきたのかしら」


「あぁ……」


 メレンディーナの言葉に令嬢たちは色々と察したようだ。


 メレンディーナの顔は王太子妃らしく気品に満ちた穏やかな笑みを浮かべているものの、その声色は明らかに怒気が込められていた。


「一国の王太子に対し馴れ馴れしい態度で接する、侍女や護衛騎士を顎で使う、アレが欲しいコレをしろと我儘ばかりを大声で言う、挙げ句の果てにわたくしに向かって『ワタシ、竿姉妹とか全然OKなタイプなんです~王太子殿下って側妃を募集してるんでしょ?ワタシ、立候補しまーす!』だなんて言うのよ?無神経極まりないっ!竿姉妹って何ですのっ!?」


「メレンディーナお姉様、落ち着きになって?お腹の赤ちゃんがびっくりしてしまうわ」


 プリムローズが心配そうに言うと、メレンディーナは彼女の頭をよしよしと撫でた。


「そうね、主治医には心穏やかに過ごすようにと言われているのに、あの男爵令嬢の事を思い出すとついカッカとしてしまって……よくないわね、ありがとうローズ」


「心中お察しいたします……けれど、妊娠中に血圧が上がるのはよくありませんわ」


 フランシーヌが心配そうにメレンディーナを見ると、王太子妃は小さく息を吐き出した。


「本当ね。貴女たちと婚約者との関係が拗れた事もあり余計にあの男爵令嬢には思うところがあるけれど、お腹の子のためにも頭から追い出さなくてはね……それにしてもフランシーヌ、貴女の婚約者に衣装替えを命じてごめんなさいね。でもあの目に眩しいレモンケーキ姿だと宴で目立ち過ぎてしまうでしょう?ミレ伯爵家に恥をかかせるわけにはいかないもの」


 メレンディーナの言葉にフランシーヌは小さく首を振る。


「私としては全身レモンケーキなコラール様も素敵だと思うのですけれど、後でコラール様がお父上に叱られるのは忍びませんものね。ご配慮に心から感謝いたします。代わりの衣装まで用意して頂けて……」


「ああアレはミレ伯爵令息のお母様が事前に用意して、預かっていたものなのよ」


「まぁミレ伯爵夫人(おばさま)が?」


「ええ。息子がフランシーヌ嬢にフラレてもフラレなくても宴にはあの服装で出られては家門の恥だとおっしゃってね」


「うふふ、良妻賢母で名高いミレ伯爵夫人(おばさま)らしいわ」


 フランシーヌが笑うのを見てメレンディーナは目を細めて彼女に言った。


「良かったわねフランシーヌ。レモンケーキ男に変わらず愛されていて」


「はい」


嬉しそうに微笑むフランシーヌを見て、満足そうに頷いてからメレンディーナなプリムローズに言った。


「でもじつはわたくし、ローズとワーグナー伯爵令息の事はとくに心配はしていなかったのよ?」


「まぁどうしてですの?」


 メレンディーナの発言にプリムローズは首を傾げる。


「幼い頃からのワーグナー伯爵令息の粘着……コホン、束縛…コホン、溺愛ぶりからして、心変わりは有り得ないと思っていたの。そしてローズは絶対に逃げられないとわかっていたわ」


「東和では逃げまくってやりましたけどね!」


「でも結局は捕まってここにいる、そうではなくて?」


「ふふ。はい、その通りです!」


プリムローズが元気に答えたその時、令嬢たちの婚約者が声をかけてきた。


「レディたち。もしかして我々の悪口を言っているのでは?」


ルドヴィックがエリザベスの側に立ちそう言うと、彼の義姉であるメレンディーナが義弟を睨めつけた。


「悪口で済んでるだけ有り難いと思っていただきたいわ。わたくしの可愛いエリザベスを悲しませて、やはりカメムシは止めずにいていっその事エリザベスに嫌われてしまうようにすれば良かったかしら」


それを聞き、ルドヴィックが慌てる。


「そ、それは勘弁してください義姉上っ……」


「え?カメムシ?」


「ベス、な、なんでもないんだ」


そう言って気を取り直すようにルドヴィックはエリザベスの手を掬いあげ、恭しく告げる。


「そんな事より今宵はまだダンスを踊っていないだろう?エリザベス嬢、どうかあなたの最初の一曲を独占できる栄誉を変わらず私にだけお与えください」


それを受けエリザベスのツンデレが発動する。


「まぁ仰々しことですこと!心配なさらずとも《《まだ》》婚約者であるのだから、ファーストダンスは殿下と以外は踊りませんわよ」


「本当になんて慈悲深い……」


そんなやり取りをしながらホールに向かって歩いていくエリザベスとルドヴィックを見ながらコラールとフランシーヌも手を繋ぎながら仲良くホールて向かっている。


「俺たちも踊ろうかプリム」


エクトルの誘いにプリムローズは笑顔で答えた。


「わたしは今日はロザリーと踊るの!」


「え?」


「今日は絶対にロザリーと踊ると決めて来たのよ。わたし、男性のパートも踊れるから」


どうやらプリムローズはパートナーがいないロザリーを気遣っているようだ。

ロザリーは父親にエスコートされて宴に出席したのはいいものの、彼女の父親は腰を悪くしていてダンスは踊れないのである。


「プリムローズ……」


ロザリーがプリムローズを見た。

しかメレンディーナがプリムローズに告げる。


「わたくしも妊娠中だからダンスは踊れないもの。夫は挨拶周りで忙しいし、今夜はロザリーにずっと側に居て貰うわ。いいでしょう?ロザリー」


メレンディーナがそう言うとロザリーは微笑んで頷いた。


「ええもちろんですわ。今宵の妃殿下の付き人役を謹んでお引き受けいたします」


「そういう事だからローズは婚約者と踊っていらっしゃいな。周囲に関係は良好だと示すのよ」


「妃殿下、お心遣いに感謝いたします」


エクトルがメレンディーナに礼を告げる。

ロザリーとイヴァンの婚約解消により、彼らと近しい友人関係の者たちもそれに続くのではないかと余計な憶測をする者も出てくるのだ。

それを牽制するためにもファーストダンスで仲睦まじい様子は是非にでも見せ付けておく方がよい。


プリムローズの手を取るエクトルにメレンディーナが釘を刺すように言う。


「ワーグナー伯爵令息、プリムローズにあなたの腹黒さを感染させないで頂戴ね」


「感染するならとっくにしているでしょう。プリムは誰にも感化されず、何色にも染まりません。常に自分らしくいられる人なのですから」


エクトルはそう言ってメレンディーナに礼を執り、プリムローズをホールへエスコートしようとした。


が、その時、王太子宮の侍従が声高らかにある人物の入場を告げた。


「国王陛下、並びにリュミナ・ドウイッチ男爵令嬢の御入来っ!!」


「え、」


「は?」


「ん?」


今夜の小規模な宴に出席予定のなかった国王が突然会場へと訪れた。


しかも、リュミナを連れて。


その希少な能力が周知されていないというのに、一国の王が男爵家の娘を同伴させているのだ。

これは要らぬ憶測を呼ぶ事だろう。


会場は一瞬の沈黙の後、騒然となった。



そして国王にエスコートされる形で会場に入ってくるリュミナが舌を出してはにかみながら言う。



「うふ♡ワタシも来ちゃった♡」







───────────────────────





師走に入り、師ではないけどドタバタと駆けずり回っております。


忙しい……なんでこんなにやる事が泉のように湧き出してくるんだろう?


申し訳ないです、明日の更新もお休み、もしくはめちゃくちゃ短い更新になりそうです。


ホントにごめんなさい。・゜・(ノД`)・゜・。



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