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13/30

ある日、令息たちは……そして場末の酒場にて

「でっ殿下っ……!フランシーヌ達が国外に移住のために学院を辞めたというのは本当ですかっ!?何かの間違いではっ!?」


 学院からの火急の知らせを受けたルドヴィックは、コラールとイヴァンにも火急の知らせを可及的速やかに知らせた。

 それを受け慌てて飛んで来たフランシーヌの婚約者であるコラールが開口一番そう告げたのだ。


 頭痛がするのか眉間を押えながらルドヴィックが返事をする。



「レントン公爵家や他の令嬢たちの家に確認したところ、間違いではなかった……」


「下位貴族の娘ならともかく、伯爵位以上の家の令嬢がそんな事っ!」


 コラールがそう言うと、ルドヴィックは更に頭を抱えて答えた。


「レントン公爵もラモレー伯爵も口を揃えて“娘は除籍願いの書類を置いて出て行った。平民となれば他国への移住も可能となる”と言うのだ……!」


「そんなバカなっ……」


「公爵も伯爵も私たちがリュミナに現を抜かして娘たちを蔑ろにしたと思っているようだ」


 その言葉にコラールが焦燥感を露わにする。


「しかしっ……レントン公爵はもちろん、国王の側近を務めるフランシーヌのお父上もリュミナの事はご存知でしょうっ?」


「監視をしている内にリュミナと恋仲になったと……学院で流れている一部の噂と、忙しさ故に婚約者たちと会う時間が減った事からそう思われているようだ」


「そ、そんなことって……」


「……エリザベスたちはこちらからの婚約破棄ではなく、円満に婚約解消に応じれば帰国すると言っているらしい」


「婚姻破棄なんてする気もないのにっ!?」


「何がどうなってそんな考えに至ったのかは分からないが、ベスたちは我々がリュミナを選び、自分たちには婚約破棄を言い渡すと思っているらしいのだ……」


「有り得ないっ……!」


 ルドヴィックと同じくコラールも頭を抱えて悲鳴を上げるようにそう言った。

 しばらく二人でそうやって頭を抱えていたが、ルドヴィックが「そう言えば」と顔を上げてコラールに訊く。


「イヴァンはどうした?」


「……彼はリュミナ一人に出来ないと言って残りましたよ……」


「多少は女官たちに預けても支障はないぞ。女性騎士も側に配しているというのに」


「イヴァンはロザリー嬢が学院を辞めたと聞いても“そうか、なんでだ?”と首を傾げているだけでしたから……」


「………」


 それを聞いたルドヴィックは『幼馴染で気心は知れている奴だが、アイツは側近候補から外そう』と心の中で決めた。


「あれ……?そう言えばエクトルは?彼の姿が見えませんが、彼はどうしたんです?」


「エクトルなら知らせを受けるなり飛び出して行った……プリムローズ嬢の行き先に心当たりでもあるのだろうか……」


「そのプリムローズ嬢のお父上であるキャスパー伯爵はなんと言っておられるのですか?」


「キャスパー伯爵家としては国外に移住ではなく、“プリムローズは諸国漫遊武者修行の旅に出た!”と認識しているらしいぞ。しかしそれが何年かかるか予想できないので休学願ではなく退学届を出したらしい」


「伯爵令嬢が武者修行っ!?しかも年単位で考えてるっ!?」


 飛び上がらんばかりに驚くコラールに、ルドヴィックは魔道具にてキャスパー伯爵と直接話をした内容を語って聞かせた。


「“若いうちに一度は腕試しに国外へ出るのは良い事ですぞっ!なぁに娘には武芸を叩き込んでおりますし、変身魔法で青年に姿を変えさせておりますから心配ご無用!”と伯爵は言っていた……」


「さすがは副騎士団長……豪胆ですね……」


「豪胆という言葉で片付けてよいものかは疑問だが……キャスパー卿は学院の噂を鵜呑みにしているわけではなさそうだ。ただ純粋に娘の武者修行の旅を応援しているだけみたいだな。それを終え帰国してからエクトルとの婚姻をどうするか本人同士で決めれば良いと考えているようだ」


「エクトルがそれまで黙って待っているとは思えませんが……」


「そうだな……。コラール、まずはリュミナの特殊能力について話がある。その上で今後どうするかを自分で決めてくれ。私とエクトルは婚約者を失う気は毛頭ない。何がなんでも探し出してみせる」


 そう言ってルドヴィックは判明したリュミナ・ドウィッチの能力について説明を始めた。



 その頃、プリムローズの婚約者であるエクトル・ワーグナーはというと……



「……まさかとは思っていたがプリムが国外へ出た。依頼していた通りに行き先を誘導しておいてくれたんだろうな?」


 とある場末の酒場にて、エクトルは一人の男に向かってそう告げた。


 男は手にしていた琥珀色の液体が入ったグラスを置き、フェロモンたっぷりな視線をエクトルへと向けて答える。


「もちろん。お代を頂いた分の仕事はさせて頂きましたよ。やんちゃなお嬢様が行きたくなるように、旅情溢れる楽しいものを吟じておきましたから。それにしても……貴族のご令息が額に汗して……よほど焦っておられるとご様子ですね」


「まさかの事態を想定してお前がレントン公爵令嬢のサロンに出入りしている知ってすぐに買収しておいたが……こんなに早く行動に移すとは思っていなかったんだよ……」


「ならすぐに追わなくてはね。キャスパー伯爵家のご令嬢の行き先は……」


「東和連邦で間違いないんだな?グスタフ・グスタン」


「ええ。東和の地図を入手しておいででしたしね。和刀やスキヤキ、テンプラ、オコノミヤキなど食べ物の話に食らいついておられましたからね。それに東方剣術にかなりご興味を示されておいででした。行くんですか?」


「もちろん」


「居場所の特定は難しいのでは?」


「凡その場所は王家の影を借りて特定する。出国やあちらの国の入国手続きをしらみ潰しに調べる。変身魔法で姿を変えているそうだが……あとは自力で探し当てるほかない」


「まぁせいぜい頑張ってくださいな。あなた方は女性への配慮がなっていませんでしたからね。まぁご令息、あなた達はまだ若い。これを勉強として大いに成長あそばしてください」


「くっ……大人の余裕が鼻につく。しかし、肝に銘じておくよ」


「女心と秋の空、という言葉が東方の国にはございます。早い段階でその洗礼を受けるのも良い事かと。なぁに、この世界に女性()沢山咲いているのです。婚約者に捨てられても新しい花を見つければよいかと」


「ぬかせ。俺は絶対にプリムを諦めない。……礼金はあんたの口座に振り込んでおく」


「毎度ありがとうございます」


 エリザベスのサロンに講師として招かれいたグスタフ・グスタン。

 彼は立ち上がり、少々芝居じみた慇懃な礼を執って見せた。


 バザールのすぐ後に接触し彼を買収していたエクトルはそれを目礼し、酒場を後にした。







 ───────────────────────




 どうやらプリムは菫ちゃんの故郷にいるらしい。


 ザベスたちはいずこに……?



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