表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

礼儀

 先日、会社帰りのことだった。


 夕方から突然振り出した雨を鬱陶しいと思いながらも帰途に就いた。半蔵門線から渋谷で副都心線に乗りかえて、池袋へ。池袋の副都心線の駅はちょっと離れていて、アゼリア通りの地下にある。


 そのまま上がって、国際興業総合案内所のバス停にも上がれるのだけれど、ちょっと歩くし、どうせちょっと歩くのなら池袋から坐っていきたいというのが本音だ。ので、ビックカメラ西口店の前からバスに乗るのが毎日のコース。


 いつもの如く、携帯をいじりながら座席に坐ると、後から杖をついた女性が乗ってきた。


 一人掛けの席が四つ竪に並んだ国際興業バスの車内で、私は一番後ろ。女性は一番前のタイヤの上の席と四つ並んだ席の間にある荷物置き場の所に立った。杖を荷物置き場の手すりに掛け、荷物を持っている。


 最初は、誰かが席を譲るだろうと思っていた。


 しかし、誰も動こうとはしない。近くの人間はなにを考えているのだろう。優先席も埋まっておりこちらは老婆たちが占領している。これは当然のことだし、別段不思議ではない。が、竪四つの席には若い女性と中年のおっさん(私もおっさんだが)が坐っていた。


 ったく。


 私は心の中で軽く舌打ちして、席を立とうとした。


 が、目の前に立っていたおっさんが、気になった。ので、バッグを席に置いたまま、立ち上がる。周りが何をするんだ?とばかりに私を見たのが解った。


 どうぞ、と席を譲り、女性は礼をいいながら、坐ったので、笑顔でいいえ当然のことですからといいながら、私は吊革につかまった。


 しばらくして、女性は降りて行った。深々と再度お礼を言いながら。


 いえいえ、どういたしましてと返したが、珍しいことだった。


 ウチの母はどうしようもなく我儘で自己中心的だが、こういうところはちゃんとしていて、必ずお礼を言いながら降りる。ので、私としてはこうあってほしいのだが、このことろ席を譲っても当然とばかりに譲られた時だけに礼を言って、そのまま降りていく人が多いことを残念に思っていた。


 その女性は老婆というには若く、綺麗だった。


 きちんとした方には品性と知性と教養があり、心が美しいから姿も杖を突いていても綺麗なのだろう。私もそういう老人になりたいものだが、おそらく偏屈な頑固爺になるのだろうな。


 もちろん、その女性の礼はちゃんとした立礼だった。腰の辺りで手を止める韓国式礼法(コンス)ではなかった。家庭での躾と教育は大事である。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ