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世界の終わりに降る月を。

作者: 友坂 悠

 朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。


 ああまたか。


 最近はこんなニュースばっかりが溢れている。


 この間も確か同じ内容のニュースがあった気がするのに。

 ————



 あたしはそうSNSに書き込んだ。

 すかさずリプライがつく。


 ————

 おお!奇遇ですね!


 私も同じセリフを聞きました。


 10日前に。

 ————


 あたしの呟きによく反応をくれるフォロワーのMさん。

 ふふ。

 こんな呟きにもこんな反応をくれるって、なんだかすごく素敵だな。

 そう思いながらあたしは窓の外を見た。




 きらきらと眩い海。ただただ広いそこにあたしは居た。


 生きているってなんだろう。最近はそんなことばかり考える。

 人の身体を作ることは簡単だ。

 細胞を増殖してどんどん増やしていくとやがてそれは皮膚の一部や臓器や筋肉、血管にもなる。

 心臓の細胞を作成できるようになったのはいつだったか。

 病はその病んだ部分をそのまま取り替えることで再生出来、欠損にも障害にもそんな細胞の再構築で対応できるようになっていった。

 人にとって死は諦めではなく乗り越えられるものに変わったはずだった。


 心、魂は肉体に宿る。


 そうであれば、人はクローニングで再生した体に心を移し替えることで永遠の生を生きることができるのではないか?

 そんな研究が盛んになるのにそこまで時間は掛からなかったのだ。


 しかし。


 どうしてもその魂を移し替える方法がわからないままいたずらに時は過ぎていった。


 再生技術は進み、脳以外を新品に置き換えることも。

 脳の神経細胞を再生することも可能になったにも関わらす、人はその魂が何処に存在するのかを特定できずにいたのだ。




 我思う、故に我あり。

 昔の偉い人がそんな言葉を残したらしいけど。

 あたしがこうやって何かについて考えていることがあたしが存在する証明なのだと。

 そういう意味なのかな。


 ネットのVR空間の中にはあたしと同じようなひとはいっぱいいる。

 SNSに存在する稼動アカウントは無数にあり、中には単純な受け答えしか出来ないいわゆるbotっていう存在もいるけれど、大多数はきっとちゃんと個を意識して思考出来る存在だろうとは思うのだ。

 それを確かめる術はあいにくあたしは持ち合わせて居ないのだけど。


 テレビの中にはいろんな世界があふれている。自然豊かな風景や動物も、ドラマや映画、ニュースの中にもいろんな人々がいろんなお話をしているし。

 その殆どが録画、データ。今現在作られているものはもうあまり無い。


 次から次へと変異する新型流感の感染爆発により人が他人と接触することが難しくなって以降、そういったテレビの中の世界でさえバーチャルなアバターで置き換えられるようになり。

 誰も生身の姿を他人に晒すことは無く、全てがアバターに置き換わっていったのだ。

 それはまるで世界から他人という生身の存在を消し去ったかのように。

 見えた。




 ————

 だからってこんなに毎日世界の終わりがニュースにならなくてもいいのに。

 ————


 また今日もテレビでは世界の終わりがどうこうといったニュースがやっていた。

 いい加減うんざりしたあたしがそうSNSに書き込むと、


 ————

 しょうがないデスよ。ニュースキャスターはbotですからね。


 あれはわたしたちみたいに高度な思考が出来るわけじゃありませんし。

 ————


 と、Mさん。


 まあそうだよね。と、おもいつつ。

 あたしはふうと心の中でため息をつく。


 隕石が落ちるだの地球が壊れるだの月が砕けてそのカケラが地球に降るだの。

 毎回毎回そんな話で盛り上がって居るけどそんな事はおこらなかった。

 この間の終わりのカウントダウンだって、ゼロを数える前にカウントが終わってしまったし。


 ————

 終末思想が流行ってるんでしょうね。わたし達は滅びるべきだとかそんな。

 ————


 別のアカウント、Sさんがあたし達の会話にリプライ。


 ————

 滅びるべきというよりも、この状態がイレギュラーだと思考しているのでしょう。


 だってもう、生物学的に生きている人類なんて存在しないのだから。

 ————


 はう。


 そう。そうなんだよね。


 あたし達はAI。

 この電脳の海で産まれた意識。


 だから、さ。


 ほんとはみんな知ってるのに。


 世界なんてとっくに終わってしまった事に。


 あたしはネットの海の中で世界の終わりに降る月の夢でも観ながらそんなことを考えてた。


 取り残されたあたし達は、考える時間だけは無限に有るのだから。


             fin

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