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アフガニスタン異聞6

 最後に辺りを見回した。商隊の仲間達はすでに馬の世話を終え、テントの中に収まっていた。今回は自分だけが妻子連れ。どうしても遅れをとる。


(仕方のないことか)

 カサビは自分の中の苦い思いを飲み込んだ。もとより、手伝いを当てにしたわけではない。一人旅を好むカサビが、この隊に無理に入れてもらったのは妻子の安全のためだ。

 国から国への旅の道中、護衛のない商隊は盗賊に狙われやすい。だから、目配りは多い方がいい。


 カサビはテントの手前で濡れた衣服を素早く脱ぐと、中へ飛び込んだ。

 中は外より更に暗く、カサビの目はランプの灯りを探した。その肩に乾いた布がかけられる。

「あなた、早く拭いて」

 カサビは妻の声のする方へ向き直った。

「品物は無事か?」

「ええ、そこよ」


 カサビは目をやってぎょっとした。火の点いたランプが地面の敷物の上に直接置いてあり、そのすぐそばに反物の包みがある。

 ランプをさっと拾い上げて枠に吊す。ようやくテントの隅々まで光が届き、今度は包みの端がテントに触れているのが見えた。


(中味が濡れてしまう!)

 慌てて抱え上げて、触れてみる。湿ったのは外側の包みだけのようだ。ほっとしたカサビは、文句を言おうと妻を見た。しかし、ランプの下のその顔は疲れ切っている。

(初めての旅だ。馬車にも酔っていたしな)


「おや、もう眠っているのか」

 カサビは、テントの真ん中でくるんと丸くなっている我が子を見て、思わず微笑んだ。ランプの下で金の髪が光る。


「ええ、こんなにひどい嵐なのにすごい度胸」

「そりゃ、俺の息子だからな」

 男の口元に笑みが浮かぶ。街育ちの妻はともかく、息子を早くからこんな生活に慣らそうとすることは、やはり正解だ。


(だが、三人での旅はこれが最初で最後だ)

 もともとカサビは、息子だけを旅に連れ出すつもりだった。どころが、妻は『まだ小さすぎる、どうしてもと言うなら自分も行く』と言ってきかなかった。


 妻は大きな商家の娘なのに、商売のことも行商の旅のことも分かってない。妻とその両親が息子を甘やかしすぎる前に、旅の生活に慣れさせたかった。だからこそ、妻の言い分に折れ、今回は片道1日分ほど離れた集落に住む、親戚に会いに行くだけにしたのだ。


 外の雨脚がさらに強まり、妻は不安そうに身を寄せてきた。カサビは力強くその身体に腕を回した。

「明日には雨もやむはずだ。俺たちも寝よう」

「ええ、初めての旅に嵐なんてもうたくさん」

 そして、二人は子どもを挟んで寄り添って目を閉じた。



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