アフガニスタン異聞3
若者は食べながら四国の跡のことを喋った。老人が聞きたがっている気がしたのだ。
「フの国ってのは、大昔は農作物で豊かだったらしいな。今じゃ、沼地ばかりだ。枯れた立ち木やじめじめしたとこにしか生えん、いじけた草ばかりで、住み続ける人間はいないそうだ。湿気がひどくて病になっちまう」
「ギの国はにょきにょきと妙な形の岩が突き出した所だ。高山山羊がうろうろするくらいで、人っ子一人いない。砂漠に囲まれているからな。昔住んでいた人間は、どうやって暮らしてたのか、不思議な場所さ」
「センの国って言われてたとこは逆に、人がわんさか押しかけている。鉱山にまた金が出たって噂が広がって集まってくるんだ。おかげで、けんかや人殺しも絶えんらしい」
「コウの国は、今はサクの国に飲み込まれている。ああ、交易は盛んだが、サクには旨い汁を吸われている。何しろ、こっちの大陸にはまともに取り引きできる国はないからな」
若者はそう話しつつ、よく飲み、あらかたを食べ尽くしてしまった。
一方老人は適当に相槌を打ちながら、たった1杯の酒をちびちびやっていた。それでも、焼けた肌がうっすら赤くなったところを見ると、酒に弱いらしい。
「若いの。随分、詳しいな」
そう言われて、若者は得意げに答えた。
「この大陸に飛び抜けた人物はいない。と言うことは、誰だって頭になれるってことだ。そのためには、最新の情報がいるからな」
「情報とな・・・」
老人はフフンと鼻で笑った。
「それが正しいとなぜ分かる?人の口などあてにならん」
「そのために、俺は自分の足であちこちを巡っている!」
むっとしたように若者は言い返す。老人は立ち上がると、先程の地図の前に立った。
「確かに富の国は農作物の豊かに実る国だった。技の国は工芸や技術に優れた国、交の国はそれらを商ってにぎやかだった。戦の国は内乱が絶えなかったが、それすら三国と無縁ではなかった。ここに、第五の国があったからな」
そう言って、地図の中央を指さした。
若者は目をこらしていたが、
「そこには何もないぜ。国があったなんて聞いたこともない」
と不満そうだ。
「そりゃそうとも。その国の長は土地も物も所有せず、風のように生きていたからな」
「もしかして騎馬民族って呼ばれる奴らか?」
老人は深く頷いたが、若者は興味を失ったようだ。
「あいつらは少しばかりの羊たちを守ってあちこちを彷徨い歩く少数民族だ。とても国なんて呼べるもんじゃねえ」
「ああ、今はな」
そう答える老人は、むしろ満足そうだった。若者は眉をひそめたが、それ以上何も言わなかった。