アフガニスタン異聞1
はじめに
若者は一人、馬を駆っていた。照りつける太陽が砂に反射して、目がくらむ。馬の蹄も砂に深くめり込み、思うように走れない。体力も消耗していた。
若者は鞭を使いたい思いを懸命に、押さえ込んだ。今、この砂漠の真ん中で馬を失うわけにはいかない。馬も必死なのだ。
汗でかすむ目に、小高い丘が見えた。
(あの向こうに逃げこめば、もしかしたら)
後は馬の走るに任せた。
だが、斜面を上る馬の足音や荒い息づかいとは違う、人の怒鳴り声が耳に届いた。
(こんな砂漠のまっただ中に、誰かいる?)
斜面を上りきった若者の目に思いがけない光景が映った。丘の上にいたのは5,6人の男達、人相・風体から見て盗賊だろう。
それに向き合っているのは一人の老人だった。長くもつれ合った白い髪、身体に巻き付けられたぼろきれのような衣服からは、古い幹のように茶色く節くれ立った手足がのぞいている。手に持った杖を頭の上にかざし、男達とにらみ合っている。
老人が若く、手にしているのが剣であっても半月刀やナイフを持った盗賊に勝つのは難しいだろう。そんな奴らに杖一本で立ち向かおうとしている。だが、それを見届ける時間はない。
「おおい、こっちだ。早くこ~い!」
盗賊達が自分に注目したのは分かったが、若者はわざとそれを無視して自分の来た方へ手を振る。そちらから盛大な砂埃をあげて何かが近づいてくる。
盗賊達は慌て始めた。
「おい、あの様子だとかなりの人数だぞ」
「誰だ?あの男」
「新国の取り締まりの奴らか?」
一人が逃げ始めると後は早かった。自分の馬の背にまたがると、後も見ずに反対側の斜面を駆け下っていった。
その様を見てにやにやしていた若者は、老人がさっさと背を向けて歩き出したのを見て慌てた。
「おいおい、じいさん。危ないところを助けてやったのに礼もなしかい?」
老人は立ち止まって振り向いた
「別に頼んではいない。それに助けて欲しいのはあんたの方だろう?」
「何?」
老人は、驚く若者からその目を先ほどの砂埃へと向けた。
「あんたは砂嵐から逃げてきたんだ。まあ、仲間を呼ぶふりにあいつらはうまくだまされてくれたがな」
「ちぇっ、お見通しか」
悔しそうな相手に、老人はまた背を向けた。
「あんたもさっさと行け。砂嵐に追いつかれるぞ」
「えっ!丘の陰なら避難できると思ったんだぜ。放り出さないで助けてくれよ」
「盗賊達を追わなくていいのか?」