最終話 この人生に幸あれ
ダズニーでの出来事から約10年後−−
「おおー久しぶりだなぁ! 遼と、佐山さん、じゃなくなったんだったよな。天根川雫さん?」
「うふふ、やーっと遼君が決心してくれて、先月に入籍したの」
「いやぁ、やっとっていうか、お義父さんに圧かけられてたし……それに一人前になってっからが良かったからな……」
「りょ、遼君……」
2人は見つめ合いそしてーー
「コホンコホン」
池田がやれやれと横目でこちらをみてくる。
「……そ、そんな久しぶりでもないだろ……そうだよな?」
「えーと、確か半年くらい前に三人でご飯に行ったのが最後だったよね?」
「そうだな。池田が海外に行くって聞いたから急いで集まったら2週間で帰ってくるとか言い始めたやつだな」
「その件はお騒がせしました……」
あははと苦笑いをしながら池田は頭を下げる。
「でも10年前は正直こんなふうに集まったりすることは正直できないと思ってたからなぁ」
「お前が言うか池田」
「ハハッ、それもそうか! でもまぁ、こんなふうにずっと三人で集まれたらいいなぁ」
「そうだな。また三人で、なんて集まったばかりだろ。気が早すぎやしなーー」
「ごめん、それは無理になると思う」
雫が深刻そうに重い口を開くようにそう言った。
「えっ、それは、どういうーー」
「実は、4人、になるんだよね。というか、なってるんだよね……」
「「……」」
池田と俺は目を合わせあい、口をパクパクさせる。
「「えぇええぇぇぇぇぇえっぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!」」
「あははっ、2人して何その反応、面白い」
雫はクスクスと笑いながら驚きで固まったこちらを見ている。
「ここに新たな命が、遼君との子供がいるって考えると、変な感じもするけど、でもそれよりも、もっと、もーっと幸せな気持ちがする」
お腹を大切そうにさすりながら幸せに満ちた顔で微笑む雫はいつもとても綺麗だが、この日はもっとずっと綺麗に見えた。
「雫……」
俺は無言でそっと雫と、そのお腹に宿る子を抱きしめる。
「これからもよろしくね。『お父さん』」
「あぁ、あぁ」
「グスツ、泣かせるじゃねえかよ。……というか、遼は知らなかったのかよ」
「この反応で逆に知ってたら怖くないか?」
「それもそうだ」
いつも通り2人は目を合わせ、笑い合う。
「はぁ、はぁ、やっぱりお前は最高の親友だ」
「俺も同意見だよ」
「あ、それとお父さん? もう一つ報告しなきゃいけないことがあるんじゃない?」
「……あぁ! お父さんは俺か。ハハッ、なんだか慣れないな。まぁ、報告という、なんというか、この度、雫のご両親の会社に入社することになったんだ。これまで、下請けの会社さんで修行させてもらってて、やっと実力が認められてさ」
「おぉ、すごいじゃないか! 確か、コスプレを作る会社だったっけ?」
雫のご両親の会社とは、日本を代表する大手コスプレ製作会社だ。品質が良いことで国内外を問わず沢山の注文が来る。
「あぁ、そうだよ。コスプレを作るには繊細な技術や、お客さんの繊細な注文に応える技術が必要だからな!」
「はぁー、すごいことしてんのな。あの遼がなー」
腕を組みながらほほぉー、とため息をつく。
「そういうお前もコーチとしていろんなところ飛び回ってんだろ?」
「あぁ。教育者ってのも悪くない。ちなみに今コーチングしてる奴はあと1勝すれば、東洋チャンプになる」
「ほぉー、お前も十分ていうか、十分すぎるくらいすごいだろ」
「ありがとう」
そんなこんなしているうちに料理が運ばれていた料理を雫が各々の前に振り分けてくれていた。
「それじゃあ、せっかくだし、いただきましょう?」
「そうだね」
そうしてご飯を食べながら、半年間積もりに積もった話を各々してゆく。気づけば雫がうたた寝をし始める時間になり始めた。
「……もうこんな時間か。おーい、雫ー。起きろー」
「うにゃぁー……にゃむにゃむ」
「起きないな……仕方ない。おぶって車まで運ぶわ。今日は本当にありがとうな。楽しかったよ」
「あぁ、こちらこそ」
「ヨッコラせっと。それじゃ」
「あぁ」
「むにゃあ……バイバイ」
寝てて無意識のはずなんだけど……まぁ、いいか。
「うん、じゃあね。雫さん」
滴は俺におぶられながら軽く手を振ると、事切れたように再び眠りだした。
「またな」
「うん、また」
そうして雫を背負った俺と池田は別れ、次の再会まで再び人生という名の瓦礫道を歩いてゆく。
瓦礫道を行くのは大変だ。実際今までも大変だった。
だけど。
そんな瓦礫道の先が、俺と雫の2人の未来が、池田の未来が、少しでも幸せであることを俺は祈る。
(完)
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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