第11話 トラウマ
ここは夢とお伽の国、ダズニーシー。前に来た時は幸福と吐き気に包まれていたが、今はどんよりとした灰色の空気が俺と池田の周りに漂っていた。
「そのー、久しぶりだな池田」
「あぁ」
久しぶり、といってもそこまで久しぶりなわけもないのだが、いつも一緒にいたせいですこし会話をしていない期間が開いただけで久しぶりなのだと錯覚してしまっていた。
「池田が元気そうで何よりだよ……ハハ」
「……俺のどこが元気そうなんだよ」
「あ……えっと、その……」
「なーんてな! めちゃくちゃ元気だったぜ! だからあんま気にすんなよ!」
「え、あ、ほんとか?」
「あぁ、ほんとだよ! こんな嘘に引っかかるなんて遼も腕が落ちたんじゃないか?」
「なんだよ腕って……」
そう言い終わり、ふと池田と顔を合わせてみると、どこからともなくお互いに笑みがこみ上げてきた。
「……はぁ、久しぶりにこんなに笑ったわ」
「それな」
そういって池田は笑い涙を拭い改めて目を合わせる。
「それじゃあ、いこうか! デートっていうくらいだから計画を立ててくれてるんだろ?」
「あ、あぁ! もちろん!」
そうして俺と池田のデートが始まった。
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「うぅ、池田、お前はキツくないのか?」
「全く?」
「まじかよ……」
最初は俺が園内を効率的にたくさん遊べるコースで回っていたのだが、三番目のジェットコースターに池田がハマり、そのジェットコースターを周回するという事態になっていた。
「うぅ、と、トラウマと吐き気が……池田、休憩だ、休憩しよう」
「えぇー、あと3回くらい乗ろう!」
「だめだ池田。断言する。あと一回でも乗ったら吐く」
「ちぇーっ、仕方ないな」
渋々俺の提案を飲み込んだ池田は、まるで幼児がいじけたような顔をしていた。
「ありがとう……でもそんな顔するなよ……」
そんなこんなで懐かしい気のする園内のカフェに入り、すこし遅めの昼食を取ることにした。
「やっぱりこのハンバーガー美味しいな」
「ダズ二ーバーガーか……」
バンズにキャベツにトマトにお肉。挟まっているものはそこらのバーガーと一緒なのだが、量と厚さ、さらには香ばしく食欲をそそる匂いまでもが、桁違いに食欲をそそる。
先ほどまでジェットコースターに乗り続け、今までだとお世辞にも食欲が湧くとは言えないこの状況ですら、このバーガーは溢れそうな程よだれを出させるほどだ。
勇気を出し、気持ち少なめにハンバーガーを頬張る。
「……ありえないくらいうまいな。なんだよこれ」
「ハハッ、なんだよ知らなかったのか? 『ダズ二のバーガー世界一』って広告もあるだろ?」
「そんなのあったのか。今度雫にも教えてやろっと」
「……佐山さんね……その、最近どうなんだ? 2人は」
「あっ、えーと、仲良しだよ……うん」
「そっか……」
なんとも言えない空気が2人を包み込むうちに、どちらもダズニーバーガーを完食し切っていた。
氷が溶けた水を飲み、口についたソースを拭く。
「それじゃあ、続きといきますか?」
「うん、でもジェットコースター周回はなしで頼む」
「わかってるよ」
すこし笑いながら言う池田の姿を見て少し安心しつつ、カフェを出る。
「それじゃあ、どこいこっかねー。あ、コーヒーカップとかどう??」
あー、確か大きいティーカップ状の遊具に乗る奴だっけ。激し目のやつが好きな池田にしては珍しいけど、まぁ、いっか。
「よし、それいこう」
「オーケー。それじゃあ−−」
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「うぅ、おえぇぇぇぇ」
えっと、ここベンチだよな、多分。あー、ダメだ三半規管が完全にやられてる。
目を開くと目の前がグラングランしている。まるでさっきのコーヒーカップだ。うぅ、思い出したらまた吐き気が……
「おーい、飲み物買ってきたぞー」
「うぅ、ありがとう」
目は開けられないので目の前に手を出すと、池田がカップを持たせてくれた。すぐさまストローを手探りで見つけ爽快な炭酸を体の中に注ぎ込む。
「乗り物酔いにはコーラって書いてあったから、買ってきたんだけど、どう?」
「どうって言われても、そんなすぐには効果出ないだろ」
「ハハッ、それもそっか。……そのー、あんなに回してごめんな」
「……まさかあんなゆるそうな遊具が、あんなに凶器になるなんて……」
「ほんとごめんって。どこまで加速できるのかつい気になっちゃって」
「はぁー、まぁいいよ結構治って−−」
「きゃっ、キャァァァァァァァ!! 虫っ、虫がぁぁぁぁ!!」
突然の悲鳴。
うう、頭に響く。
声がした草むらの方に頑張って目をやると、悲鳴と共に勢いよく人影が出てきた。そしてその人影をよく見ると−−
「し、雫!?」