第10話 2つの
「これで……いいかな」
来週の土曜デートをしないか、という趣旨のメッセージを送り一息つく。もちろん突然ですまない、という内容のメッセージを加えて、
だ。
「ちゃんと送れた、遼君?」
「まぁ、一応」
「それなら良しだね! それとやっぱり、ごめんね。遼君を渡すつもりはないけれど、二人の仲を引き裂いたのは多分私だから……」
あぁ、そういうことか、と今までの雫の行動に納得する。
お世辞にも独占欲が強くないとは言い難い雫が、他人とデートをしたら? なんていつもの雫ならば絶対に言わないことなのだ。
「……やっぱり、雫はいい子だね」
「ひゃっ!? きゅ、急にどうしたの!? う、嬉しいけどさ!!」
顔を真っ赤にしながら照れている雫はやっぱり可愛い。だけど、ここでまた思ったことを伝えてしまうと、照れて蒸発してしまいそうなのでやめておく。
「本当にありがとうね。これでやっと一歩進めたよ。やっぱり雫に相談して正解だったよ」
「……うん、来週は楽しんできてね!」
「あぁ、そのつもりだよ」
そして、その日は近づいてくるーー。
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ドスッドスッ
池田の鋭いパンチに合わせてサンドバックが鈍い音を出しながら揺れている。
「ふぅ」
「珍しいじゃねぇか、お前が自分からここ《ジム》に来るなんて」
奥のドアから無精髭を生やした中年の男がのそのそと歩いてくる。この中年は池田の元コーチであり、このボクシングジムの館長だ。
「……言っとくけどまた始めようなんてこれっぽっちも思ってないから」
「……そうか。まぁ気が済むまでやればいいさ。それじゃあ俺は昼寝に戻るとするよ」
「昼寝の邪魔しちまったのか。それはすまなかったな」
「謝られるほどのことじゃねーよ。ほいじゃあな」
そういって彼は奥のドアへとを戻っていく。
(そろそろ俺も休憩するか)
そう思い、ベンチに腰をかけ、汗を拭う。ふとベンチに置いていたスマホに目を落とすとメッセージに通知が来ていることに気がつく。
その宛名は「天根川 遼」
どうしても頬緩んでしまう。しかし、そんな自分に嫌気が差し、緩んだ
頬を真顔に戻す。
深呼吸をし、気持ちを整える。彼から、天根川からどんな内容が来ても驚かないように。
最近はずっとこの調子だ。天根川からのメッセージで一喜一憂しすぎる自分がいる。もう、諦めなければいけないのに。
意を決して、メッセージに目を通す。
ブフッ、ゴホッゴホッ。
口に含んでいたスポーツドリンクを驚きで吐き出しそうになる。
「で、デートだって……? 正気か? 行くわけないじゃないか……行くわけ……」
断る趣旨のメッセージを打ち終わり、後は送信ボタンを押すだけ。それだけの行為ができない。いや、まるで重りをつけたかのように腕が、指が動かない。
希望なんてなければいいのに。1ミリも無くなって仕舞えばいいのに。
どうして。どうして。
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30分後 遼のスマホにて池田より返信
「いく」