第9話 お話②
――
「そっか……そんなことがあったんだ」
「うん」
何とも言えない雰囲気が部屋に充満する。もしここが暗闇で無ければどうなっていた事か。
しかし今はそんな事を考えている暇は無い。今考えるべきは池田の事。
「……そっかぁ。……私ね、正直池田君の事は分からない。だけどね、遼君を好きって気持ちは痛いくらい分かるの。ス、ストーカーしちゃうくらいだしね……アハハ……」
「……そ、そうだったね……アハハ……」
一瞬返す言葉が見つからなかったが寸でのところで出た言葉を返す。
「う、うん。……それじゃあさ、池田君とデートしてみたら?」
「え?」
雫が出してきた素っ頓狂な提案に僕は耳を疑った。
「デ、デート? どうしてそんな……」
「も、もちろん二人がくっついて欲しいとか微塵にも思ってないよ!? だけど、私は遼君の事が好きだっていう気持ちは分かるから……たまたま私が遼君の彼女になれただけで、もしかしたら私じゃない他の人と付き合っていた可能性だってあったかもしれないし……。もし私だったらって考えたら、
この好きだって気持ちが無駄だっただなんて思いたくないの」
「っっ……!」
そうか。好きな「気持ち」…か。
「ありがとう雫。何だかモヤモヤがなくなったよ」
「そっか! それなら良かった!」
「うん。ありがとう」
「いえいえー!私もいつも助けられてばかりだから!」
「そんなことはないよ。僕だっていつも助けられてばかりだよ」
「じゃあ、お互い様ってことだね!」
目の前は暗闇だが、雫が「うふふっ」と笑っているのが感じられた。
自然と瞼が重くなっていく。意識が遠のいていく。そして俺は完全に意識を手放した。
そして『明日の夜』に返ってくるはずの雫の親が朝リビングにいたのは、また別のお話。