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3話 未来も嘘も見えるから! その3

***


 翌日、授業合間の休み時間美海がいつも通り、勧誘に行こうと声をかけてきたので二人で1組を目指す。お目当てはもちろん琴美だ。琴美を勧誘する旨は昨日の時点で美海に了承を得ていた。


 1組の扉を少し開け、中の様子を伺う。本当はここに来るのは少し怖かった。彼女は来ていないのではないか。そんなことが俺の頭から離れなかった。しかし、俺の心配は見事に杞憂となったようだ。


 琴美はいた。扉を薄く開けた俺たちの目の前に!


 「なにやってんの?」


 琴美が問うが俺は呆気に取られる。小脇の美海が「どの子かな」と無邪気に言っている。


 「目の前にいるよ」と美海に言うと美海は琴美を見上げ「おお」と目を輝かせた。


 琴美を廊下に連れ出す。


 「入部届。持ってきた?」


 「持ってきたわよ。あなた何組なの?クラスにいないからビックリするじゃない!」


 「最初に家行ったときに言ったろ!俺は4組だ!ついでに鈴原、俺の名前言ってみろ。」


 問い詰めると琴美はバツ悪そうに視線を逸らしながら答える。


 「えーっと、タケシくんだったっけ。」


 「どこのジャ〇アンだよ。まぁ、いいや。お昼、今俺ら図書室横の自習室で食べてんの。来いよ。」


 「行っても…いいの?」


 「あたりまえだろ。入部届、そん時貰うから持って来いよ。名前もその時に教えてやるから。」


 そう言って琴美から離れる。すると遠巻きに様子を伺っていたのであろう女子が俺を呼び止める。


 「ちょっと!鈴原さん、せっかく今日学校に来てくれたんだから、変なちょっかい出さないでよ!」


 「これからも来るってよ。心配ならもっといろいろ話してやれよ。」


 それだけ言い残し1組を後にする。


 「鈴原さん、いい子そうだったね。」


 美海が安心したような口調で言う。


 「わかんねえぞー。鈴原あれでギャルだから美海イジメられるかもなー。」


 冗談めかして言うと美海は「うえぇー」と泣きそうな顔をする。


 「冗談だよ。お昼、楽しみだな。」


 そういうと美海も表情を一転させて元気よく「うん!」と頷いた。


 昼休み、俺たちは自らの昼食を目の前に置き、お預けを食らっていた!時刻はもうすぐ12時15分になる。


 そう、件の問題児、鈴原琴美の登場を今や今やと待っているのだ。まさか、未だに鈴原が現れないのは予想外だった。


 「呼びに行ってあげた方がいいのかな。」


 美海が心配そうに言う。


 「いや、待とう。みんな、自分からこの部室に来てる。鈴原は絶対来る。」


 俺が言うと真一が無言でうなずく。


 「お弁当、先に食べちゃうと鈴原さん、食べにくくなっちゃうよね。」


 優子が心配そうに言う。


 「仕方ない、もしかしたらクラスの人とお昼食べてるのかもな。先に食べて待とうか…」


 言い終わるか否かというとき部室の前に人影が見えて…は通り過ぎた。


 「はぁー…」


 そう、先ほどからこんな調子なのだ。俺たちは鈴原の登場を今か今かと待っている。なのでこの自習室の前を人影が通る度に緊張と弛緩を繰り返していた。そんな時。


 「あぁー!!もー!」


 廊下から鈴原の声が聞こえた。すると俺より早く美海が反応し廊下に出る。


 「鈴原さーん」美海は廊下の鈴原に声をかける。部室にやってきた彼女は…怒っていた。


 「ちょっと!自習室なんてないじゃん!私ずっと行ったり来たりしてたのにちゃんとわかるようにしといてよ!」


 そう言われると、確かにこの教室の名前は”多目的教室1”だ。


 「う!ごめん。とりあえず、座って、飯食いながら話そうぜ。」


 鈴原を座らせると鈴原もいそいそとお弁当箱を取り出す。


 昼食を食べながら各々が自己紹介を済ませる。すると、鈴原がある疑問を口にする。


 「この部活って天文部って聞いてたけどさ、部長って誰がやるの?誠?」


 「いや、俺じゃないよ。部長は美海がやるんだよ。」


 当然と思いいうと美海が「えぇぇー」と素っ頓狂な声を上げる。


 「もともとこの部を作ろうとしたのは美海だから。そもそも、美海が俺に声かけなかったらこの部はない。だから、部長は美海しかいないだろ?」


 俺が説明するとみんなも納得したようだ。ぱちぱちと拍手する。


 「でも、これでやっと天文部が始められるね!」


 「ずっと、実態は昼食部。」


 「で、天文部って何するわけ?」


 琴美の問いにみんなフリーズする。すると部長らしく美海がポンと手を叩き、提案する。


 「よし、みんなでかんがえよう!」


 なんとも勇ましくなったものだ。人と話せず入部届を渡しただけでぽろぽろと泣き出す、そんな美海の姿が遠く感じる。知ってるか?あれからまだひと月も経っていないんだぜ。


 男子三日会わざれば、ならぬ、女子三日会わざれば刮目して見よ!ってところかな。などとまたおっさん臭くなってしまった。


そして今更だが、各々が連絡先を交換し合う。が、ここでまた、問題が発生した。俺がガラケーの使い方がよくわからないのだ。


 携帯を持ち「うぅ」とうなりながらにらめっこしていると琴美が貸してみと携帯を取り、ささっと手際よく赤外線で連絡先を交換した。そしてみんなも同じように赤外線で連絡先を交換する。


 みんなすごい。俺も昔は使いこなしてたんだけど…


***


 放課後、俺は琴美と美海と保健室に来た。保健室では相変わらず深川先生がサボりに来ている。


 「お疲れ様。誠君。鈴原さん、よく来てくれたね。」


 並木先生はいつもの優しい笑顔で俺たちに声をかける。


 美海は深川先生と部活の人数が揃ったことと今後について相談をしている。


 「並木先生、ご心配おかけしました。」


 琴美は恭しく並木先生に頭を下げる。


 「鈴原さん、天文部入ってくれるのー。私顧問の深川です。部活では、なな先生って呼んでね。」


 深川先生はいつになくテンションが高い。琴美はというとそのテンションにドン引きしている。


 「よ、よろしくお願いします。な、なな先生。」


 「誠君、どうやったのかな?」


 並木先生が悪戯っぽい笑みを浮かべて聞いてくる。


 「どうもないですよ。ただ、話しに行ってただけで。部屋から出たのは紛れもなく琴美の意思ですよ。」


 「ふーん、なるほど。琴美ちゃんの。で、どうなの?琴美ちゃん♪誠君とどんなおはなししたのー?」


 矛先は琴美に向かったようだ。琴美はというと並木先生の追及にしどろもどろしながら受け答えしている。


 「誠くん、先生、さみしかった。さみしかったんだよー。」


 今度は深川先生がこちらに牙をむく。確かに連日鈴原家を訪れていたので先生とまともに話すのは久しぶりだ。


 「これからは部活もありますので、先生にはもっとお世話になりますよ。」


 「そうね。誠君、よろしくね。ありがとう。部の申請と部費の確保は先生に任せて。私もみんなのために頑張るから!」


 深川先生は胸を張って俺たちに告げる。その後深川姉妹は活動するための書類作成に保健室を後にした。


 残された俺たちも少しコーヒーを飲みつつ談笑し、保健室を後にした。


 琴美と共に帰路に着く。しばらく二人、無言で歩いていたが、琴美が口を開いた。


 「誠。本当にありがとう。」


 琴美本来の話し方ではなく神妙な雰囲気の言葉に足が止まる。


 「言っただろ。俺が何もしなくても琴美はいずれ部屋を出たよ。それに本当に俺は琴美と話がしたくて行っただけ。行動したのは琴美の力なんだから胸張っていいと思うぞ。」


 「それでも、ありがとう。誠も嘘がわかるようにあたしにも未来が見えるんだよ。きっと、誠が部屋に来てくれなかったら、ずっと、ずっと後悔するんだ。それで後戻りも先に行くこともできなくて、部屋から出てもずっと自分の殻に籠って嘘に怯えながら生きていくんだと思う。」


 「もうその未来は変えただろ。まぁ、これからもつらい事なんかいっぱいあるんだから、ちょっと躓いたくらい気にすんなよ。」


 「部活のみんなも、いい子ばっかりだったな…」


 「そこに気付いているとはお目が高い。安心しろよ。琴美もいい子の仲間入りだぜ。これからは同じ部活の仲間だ。よろしく頼む。」


 「うん…。あと、お母さんがちゃんとお礼もしたいし、今度ご飯でも食べに来てくださいって。お父さんもちゃんと挨拶したいって。」


 「そうか…。じゃ、都合良い日にまた誘ってくれ。」


 「うん。部活、これから頑張ってこうね!」


 琴美は「じゃ、また明日」と元気に手を振りながら去っていく。俺も手を振りながら琴美が見えなくなるまで見送る。


 未来は変わっていったのだろうか。今はまだわからない。


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