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2話 勧誘も本気でやるから! その3

***


 翌日、お昼休みになり俺と深川姉妹は部室となる自習室に集まった。


 「昨日は本当にごめんなさい。」


 部室に入るや否や、深川先生は俺に深々と頭を下げる。昨日の保健室での件の謝罪だろうが、本日2回目である。


 「朝も聞きました。それに気にもしてないですし、朝みたいにみんなの前でそういうの、やめてくださいよー。深川先生、生徒から人気あるし、俺そのうち学校来れなくなっちゃいますよ。」


 事実、朝の謝罪の折複数の生徒からの好奇の視線、殺意の視線をひしひしと感じ、果てはなにやらひそひそとあらぬ噂までたてられているようなのである。


 それに対し志信は「誠、すごいね」と苦笑いを零し、姫川さんは「先生と仲いいよね。どういう関係なのかな」と何やら黒いオーラを発していた。


 当然二人には誤解である旨を説明することになったのだが各休み時間になると深川先生とお近付きになりたい男子生徒に囲まれ、さらには手を出したら云々かんぬん脅しを受ける羽目にまでなったのである。


 「今日はどうしましたか?お昼一緒に食べるために集まったんですか?」


 「部活のこと…新部開設に最低でもあと、一人は要るから。」


 なるほど。その一人をどうするかの作戦会議か。ふむと考えるしぐさをした後先日生徒手帳にて確認した内容について深川先生に確認をする。


 「校則では部員2名以上で同好会としての許可がおりるようになっていますよね。最悪同好会としての設立も視野に入れてもいいと思います。さらに部員の人数規定も常設部活についてはこの限りではないとなっていますが、天文部なんて大概どこの学校にもある部活ですよね?常設部活と申請も可能だと思うのですが。」


 確認事項をぶつけると流石に先生も校則内容は確認していたようで反論意見をぶつけてくる。


 「同好会なんて駄目よ。部室もない。部費もゼロ。天体観測ってお金かかるじゃない。ほら、望遠鏡とか要るでしょ?それに同好会って顧問設置不要なんだよ?ほら、美海ちゃんもお姉ちゃんと部活したいでしょ?」


 「べ、別にいい。お姉ちゃんだって一昨日まで同好会でもいいんじゃないって言ってた。」


 「先生…そういうの、なんていうか知ってます?公私混同って言うんですよ。」


 しかし、美海は姉と話すときにはそれなりに普通に話せている。まぁ、家族と他人で態度が違うのは当たり前のことと言えば当たり前のこと。どちらかと言えば問題は先生の過保護ぶりにあると言える。


 「妹想いは結構ですが、他の生徒がいるときは気を付けてくださいね。ほら、子供って依怙贔屓には敏感なんですから。こっちにその気がなくても勘違いさせると後が面倒ですよ。」


 一応釘を刺しておく。先生も一応の理解があるのかむーっと膨れながらも納得はしているようだ。


 「とにかく、同好会なんてダメ!」


 「じゃあ常設部活はどうです?それなら2人だけでも部活として申請できると思うんですが。」


 ならばと対案にあった常設部活について提案をする。しかし、こちらにも思うところがあるのか先生は難色を示す。


 「確かに常設部活なら2人だろうが極端な話1人でも部活動は出来るよ。でも、やっぱり身内の部活に申請の難しい常設部活の許可ってやっぱり出しづらいかな。」


 「なら別の顧問を立てたらいいんじゃ…」


 そこまで言ってギョッとした。目の前の教師が泣きそうな顔をしているからだ。


 「まぁ、意地悪なことを言いました。すみません。ではあと一人探す方向で考えましょう。」


 肩を竦めながら提案を訂正する。するとまたしても先生は申し訳なさそうな顔をしてぼそりととんでもない条件を突き付けてくる。


 「それがねぇ…そのことなんだけど…最低部員5人でお願いしたいんだけど…」


 「でもお姉ちゃん、部員は3人って…」


 「それも身内びいき対策ですか?」


 やはり身内が顧問となってそこそこの部費を引き出そうと思うと簡単にはいかないのだろう。下手をすれば横領を猜疑がかかることになる。


 「そうなのよねぇ。申し訳ないんだけど、あと3人どうにか勧誘できないかしら…」


 確かに部員が5人ともなれば新部設立としては必要十分な人数である。さらに各部員に役職を割り振れば不要な勘繰りの対策にもなる。


 簡単なことではないのはわかっている。しかし、せっかく第二の高校生活が回りだしたのだ。行動しなければ、きっとまた後悔が残る。


 「わかりました。あと3人。必ずそろえて見せます。」


 「私も!一緒にやる!」


 珍しく美海も力強く返事を返す。


 「誠君。美海と新部をお願いします。」


 先生は俺に向かい深々と頭を下げた。


 ***


 翌日から俺と美海の新入部員探しが始まった。


 美海に入ってくれそうな人に心当たりがないか聞いてみたが思い当たる人物はいないようで俺の方で入ってくれそうな人を思い返す。


 とはいってもそれこそ15年以上前の記憶になる。名前も覚えてなければ雰囲気だって記憶と変わってくる。


 一人ずつ話して説得していくしかない。美海と休み時間に学年中を回ることになった。


 美海のクラスは1-2この学校には各学年特殊クラスを含めた9クラスある。


 さらにはほかの部活の部員獲得競争も激化しており一筋縄にはいかない。現に志信もすでに空手部に入部しもう部活に参加していた。


 各クラスを回るといっても中をチラチラ見ながら俺の記憶にある人がいないか探すのが主であるがなかなか見つからない。自分の記憶の曖昧さが恨めしい。


 さらには美海の引っ込み思案もあり学年散策は難航していた。そんなこんなでお互い空いている休み時間は二人で学年を回り、お昼休みには二人で部室で昼食兼作戦会議をする日々が続いた。


 暦は4月下旬に入ろうとしている。


 他の部活勧誘も一段落が付いてきたようだ。俺たちはというと何人か記憶をたどりながら勧誘をしたもののこちらではまだ初対面。見事に玉砕続きの日々だった。GWの絡みも考えるとどうしても今月中に部員を揃えておきたかった。


 朝、登校してくると隣の姫川さんが声をかけてくる。


 「最近何してるの?なんか休み時間になると2組の深川さんとどこか行ってるよね。」


 「部活の勧誘してるんだけど、なかなかうまくいかなくてさぁ。」


 げんなりした様子で答える。実際ここまで難航するとは思っていなかったのだ。


 「何部なの?」


 「天文部。新設なんだけど申請に必要な人数集められなくてさぁ。」


 言いながら入部届をヒラヒラして見せる。姫川さんは入部届をはしっと取るとまじまじ見つめ何やら書き出した。


 じゃーん!と効果音が鳴りそうな勢いで俺に入部届を突き出す。


 入部届 天文部   姫川 優子


 入部届を俺に渡しながら姫川さんがニシシと笑う。相変わらずアニメの影響が隠しきれていませんよ。しかし、難航続きの部員集めにやっと光が差したような気がした。


 嗚呼、天使は隣の席にいたんですね。


 「ありがとう。一緒に部活頑張ろうな。」


 姫川さんに図書室の横の自習室が部室な事、美海とお昼を一緒に取っている旨を伝え、良かったら顔を出してみてほしいと頼んだところ快諾を得られた。


 となれば、こちらも勢いに乗りたいところで、実は以前から一人目を付けていた人物がいる。


 7組の”細田 真一”。彼は以前の高校生の頃、俺が足を骨折して入院をした時それまで一度も話したことがなかったにも関わらず、毎日お見舞いに来てくれたのである。その縁で以前はことあるごとに色々仲良くやっていた覚えがある。


 しかし、細田にはある弱点があった。彼は非常に無口で不愛想。しかもその強面から周囲に非常に誤解されやすいのだ。俺でも入院の一件がなければ関わろうとは絶対に思わない。


 7組に来て細田を探す。というまでもなく細田はすぐ見つかった。だって、彼の周り、人が全然いないもん。


 「細田君!ちょっといいかな?」


 戸口から細田を呼び出す。周りからはなんて怖いもの知らずだと、話していなくても聞こえてくるような、怖いものと可哀そうなものを同時に見るような視線が送られてくる。


 「俺さ、4組の結城って言うんだけどさ。天文部っての作るんだよ。細田君に入ってほしくてさ。どうかな?」


 言いながら入部届を差し出す。細田は俺の気さくな話し方が意外だったのか不愛想な仮面の下に隠しきれない驚き顔を一瞬浮かべ、静かに入部届を受け取った。


 「それ書いたらさ、俺ら図書室横の自習室が部室なんだ。お昼もそこにいるからさ、来てよ。」


 そう言って7組を後にする。俺は細田が部室に来てくれる自信があった。なぜなら細田はこう見えて非常に押しに弱く、誰よりも心優しい面を持つのだ。さらに繊細で実は傷つきやすくわかりやすく言えば強面の乙女(♂)なのだ。


 ***


 昼休み、俺は姫川さんを連れて部室へ来た。部室の扉を開けると美海はいつも通りもう来ており俺の隣にいる姫川さんを不安げな顔で見ては俺の顔と交互にチラチラしている。


 「お待ちかねの新入部員だよ!」


 俺が元気に告げると深川さんの顔がぱぁっと明るくなる。


 「4組の姫川です!フフン!2組の深川さんだねぇ?よろしく頼むでござる!」


 俺と美海の顔が一瞬凍り付く。これは勘違いをされておりますぞ!姫川殿!


 そっと姫川に耳打ちで美海がオタクでないことを告げると姫川の表情が一気に青くなる。がそんな気まずい空気を打ち消したのは意外にも美海だった。


 「大丈夫!姫川さん。よろしくでござる!」


 胸の前でピースを突き出し姫川さんのセリフをまねる。この子はこれで一生懸命歩み寄ってるんだなぁとしみじみ思った。


 3人で机を並べ昼食を食べようと机を並べる。そして俺はもう一つ隣に机をつける。その様子を二人は不思議そうな顔をして見つめる。


 「もう一人、新入部員が来る予定なんだ。」


 言いながら扉の方を見る。摺りガラス越しに大きなシルエットが見える。


 「おーい。待ってるんだからはやく入れって。」


 そう言って扉をガラッと開けてやる。ぬっと細田の巨体が部室に入る。女子の二人が固まった。というより美海、「ヒッ」って声に出てるから。


 「・・・」


 なんか言えと言いたくなるが仕方ない。これが細田なのだ。だが誰よりも優しいところを俺は誰よりも知っている。


 「持ってきた?」


 細田は無言で俺に入部届を差し出す。


 入部届 天文部   細田 真一


 俺の強引な勧誘は何とか成功を収めたようだった。


 「細田、自己紹介しよっか。こっちは2組の深川さんと4組の姫川さんね。」


 細田はうなずく。さてはさっきのやり取りも聞いていたな。さしずめタイミングを計りかねて入れなかったというところだろう。


 「7組の細田、です」


 不愛想に細田は自己紹介をする。一見不機嫌に見える彼だがこれが彼のスタンダード、デフォルトなのだ。


 俺は未だにおびえた様子の女子二人に補足する。


 「彼ね、無口で不愛想だけど、本当に優しい奴だからさ、仲良くしてあげてね。」


 そう言い彼を真ん中の席に誘う。


 「端でいい。」


 細田はボソッとつぶやくが聞こえないふりして却下する。こんな乙女な彼のお弁当を見ないなんてモッタイナイ!


 みんなでお弁当を広げ、俺はパンをかじる。


 「うわぁー!」


 細田のお弁当を見た女子二人が感嘆の声を上げる。


 体格に似合わない小さめのお弁当箱にウサギのおにぎり、きれいな形に巻かれた卵焼き、季節の野菜を使ったカラフルな野菜炒めにサラダ。とても男子高校生のお弁当とは思えない。


 「これお母さんが作ってるの?」


 姫川が問いかけると


 「自分で…」


 と細田は答える。しかし俺は知っている。細田は下に女の子2人、男の子1人の4人兄弟の長男。さらに彼らのお弁当も細田が毎日作っているのだ。しかしさすがに俺の細田通も度を越えるときもいのでここは黙って様子を見ることにした。


 「はぇー。すごいですねー。私料理できないから素直にすごいと思います。」


 美海も感嘆の声をあげている。


 「深川さんとこは深川先生が作ってるの?」


 「美海でいい。お姉ちゃんのお弁当お肉と冷凍食品ばっかり…」


 意外なことに美海が自分からファーストネームで呼ぶことを要求したのだ。ここ数日で本当見違えるほど積極的になったものだ。


 「私も優子って呼んで!みんなも!」


 姫川さん改め優子は美海と仲良くなれたことがうれしいのかまたキラキラと目を輝かせた。


 「真一でいい…」


 なんと!今度は無口で有名なあの細田改め真一でさえもこのビッグウエーブに乗り出した。


 「お、俺も誠って呼んで!」


 出遅れて殿を務めることになってしまった。不覚にも非常に恥ずかしい。


 こうして、新たな部員を迎え、残る部員はあと一人となった。

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