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38話 修学旅行だから! その1

 送迎バスに乗り込み約一時間、俺たちは今地元の小さな空港に来ていた。


 国内線しかないこの小さな空港には俺たちの学校の生徒を除けば人影は疎らであり、ここの経営の危うさを実感させる。


 実際、俺の知る限りでは近い将来ここはもう少し遠くの少し大きな国内線空港と統合され、俺がサラリーマンをしていたころには、ここの名前はもうなくなってしまっていた。


 そんな哀愁に想いを馳せていると搭乗手続きの順番が回ってきたのでキャリーケースを預け航空チケットを受け取る。


 また整列をして保安検査の列に並んでいると前を進んでいた遠藤さんが金属探知機に見事に引っ掛かり、女性の保安員さんにボディチェックをされていた。


 それを横目に笑いを浮かべながら辺りを見ると、別のレーンでは美海が見事に引っ掛かり、保安員さんにボディチェックをされていた。


 保安検査を終えてラウンジに座っていると隣に美海がやってきた。


 「見てたの?」


 美海は顔を赤くしながら訪ねてくる。


 「見てたぞ。何が引っ掛かったの?」


 俺の返答に美海はますます顔を赤くし、小さく胸元を指差す。そこにはクリスマスに渡したネックレスが控えめな輝きを放っていた。


 「あ。そっか。なんか、その…ありがとう。」


 頬がじんわりと熱くなるのを感じる。そのまま二人で頬を赤くしたまま俯いてしまう。


 「また、二人だけの世界に入ってる!」


 背後から琴美が俺と美海の肩を強く叩く。突然のことに俺たちは体をビクリと跳ねさせる。


 「もう、本物の高校生なら初々しいって微笑ましいんだけど、中身がオッサンとオバサンと思うと本当に気持ち悪いからね。」


 琴美は辛らつな言葉を俺たちに投げつける。


 「オバサン…」


 美海はショックで固まってしまった。


 「いや、オッサン、オバサンは言いすぎじゃないか?」


 琴美に対して抗議の視線を向ける。


 「でも、ほんとに二人さ、お互いが居なくなったらどうするの?生きていけるの?」


 琴美は茶化し顔を少し正すと意外な質問を俺たちにぶつける。


 「うーん、前はそれでも何とか生きてはいたはずなんだけどな。今は想像もしたくないな。」


 俺は不安な思いを隠す様にはにかみながら答える。


 そんな俺の手を優しく握りながら、しかし力強く、美海は答える。


 「大丈夫。お互い思い合っていれば離れても、必ずまた巡り合えるから。私は誠を信じてる。」


 俺も美海の手をしっかりと握り返し、琴美の目をまっすぐ見据えて答える。


 「そうだな。それなら、まずお互いが離れ離れにならないように今を全力で生きていくさ。それでも離れたら、俺は美海を探しに行くぞ。今度はもう、離さない。」


 そう言い、美海の手を握る手に力を込める。美海もしっかりと握り返してくる。


 「ひゅー!お二人さん!お熱いですなぁ!見せつけてくれますねえ!」


 すると、どこでその様子を見ていたのか優子と真一がやってきた。二人とも、旅行のせいか、かなりテンションが舞い上がっている。


 優子は奇声に近い囃子言葉を言いながら俺たちの周りをグルグル回り、真一は謎の踊りを踊る。俺たちのMPはガシガシと削られてしまいそうだ。


 やがて搭乗のアナウンスが鳴り響き、俺たちは飛行機へと乗り込んでいく。あと2時間もすれば南の島だ。


 俺たちは高まる胸の高鳴りを抑えながら、シートベルトをカチリと締めた。


***


 昼休み、誰もいない部室で空を見上げる。


 今頃みんなは沖縄に着いた頃だろうか。それとも、もうホテルのチェックインを終えた頃だろうか。


 普段は部員でにぎわう部室も、一人ぼっちだとやっぱり寂しい。今は素子ちゃんも梢ちゃんもいない。孤独を紛らわせる相手が居ないのだ。


 そんなセンチメンタリズムに浸っていると部室のドアが控えめに開かれる。


 「すみれさんだけかい?」


 あ、いた。生徒会長の藪君だ。最近はよく部室に遊びに来てくれる。


 「知ってるくせにー。」


 生徒会長の藪君が、今二年生が修学旅行の事を知らないわけがない。


 「あはは、そうだね。寂しがっているかなって思ってさ。」


 彼は額に指先を当てながら言う。


 「またそのポーズしてるー。」


 私のツッコミに彼は頭を掻いて苦笑いを浮かべる。


 「すみれさんは修学旅行、どうでした?」


 「私はまあまあかなぁ。一応普通に回ってたけど、特に楽しかったことはなかったからなぁ。」


 私に同学年の仲のいい友達は少ない。


 「そういえば、占いおばぁの話は聞いたことってあります?」


 唐突に彼は問いかける。


 「うん、よく当たるって噂の…クラスの子が噂にしてたのは聞いたよ。私は行かなかったんだけど。」


 すると、彼は声のトーンを落とし、話し始める。


 「実は僕、行ったんです。そこに。」


 彼の真剣な雰囲気に呑まれる。


 「僕、自由行動も一人だったんで、一人で行ったんです。最初は普通の占いでした。よくある感じの。でも、最後に言われたのが“死ぬなら、来年にしなさい”って。」


 彼の言葉に、私の背筋に冷たいものが流れるのがわかる。


 「まさか、偶然だよねー。」


 何とか平静を保とうと言葉を絞り出す。


 「でも、僕死のうとしてたことも何も言ってないのにですよ。そしたらキミたちに会った。偶然でしょうか。」


 それ以上、私は言葉を紡ぐことはできなかった。


 二人の間に沈黙が流れる。


 「きっと、何事もないよね。」


 私の言葉に、彼は見過ごしそうなくらい小さく頷いた。


***


 座席を立って手荷物を取り、列に沿って進む。飛行機を降りてボーディングブリッジに一歩踏み出せば蒸し暑い南国の空気を十分に感じることが出来たが、それも束の間、すぐに冷房のよく効いた空港内へと通される。空港から見える随所にはヤシの木や、南国らしいオブジェクト。気分も否応なしに上がっていく。


 そのまま、手荷物受取所まで行き、キャリーケースを受け取る。ゴロゴロとキャリーケースを転がしていくと七海が手を振っていた。


 「引率お疲れ様です。」


 労いの言葉を掛ける。


 「さすがに疲れたわ。修学旅行の引率って、こんなに疲れるのね。」


 七海はガックリと肩を落とす。すると理子がニコニコの笑顔でやってきた。


 「あら、誠。楽しんでる?せっかくの旅行なんだからあなたも高校生に戻って楽しみなさいよ。」


 理子の私服は白のワンピースに鍔の広い白のストローハット。パッと見るとどこのお嬢様かと疑うぐらいだ。対して七海はシルバーのパンツスーツ姿に日焼け防止かキャップを被っているが、それが最高潮に似合ってない。


 「理子、あなたも少しは手伝ってよ。」


 七海は肩を落としながら理子に言う。


 「私は養護教諭で担任は受け持ってないもーん。」


 理子は満面の笑みで七海を見る。


 「誠、私、親友を殴ってもいいのかしら。」


 七海は拳を握り、わなわなと震えている。


 「キャー、誠、私怖ーい。」


 そう言いながら理子は俺の後ろに隠れるが、グイグイその背中を押して七海に差し出す。


 「もう、仕方ないわね。」


 そう言うと理子は七海の荷物を取り、自分の荷物と一緒に転がしていく。それを見た七海はくすりと笑みを浮かべてその後を追いかけて行った。


 その後ろ姿を微笑ましく思いながら眺めていると、いつもの面々が出口の傍で俺を待ってくれていた。


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