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4話 いきなり核心なんて認めないから! その1

 琴美の姿が見えなくなり、駅への道を歩く。道中に見慣れた姿を見つける。


 「並木先生…」


 対象の名前をつぶやいた俺に並木先生は明るく言う。


 「誠君。お茶しよ!」


 先生に連れられ、駅の近くのカフェに入る。


 「鈴原さんのこと、本当にありがとね。」


 席に着くや先生はそう切りだした。


 「さっきも言いましたけど、たいしたことはしてませんよ。」


 「それでも、多分誠君じゃなきゃできないことだったと思うよ。流石私の見込んだお気に入りだよー。」


 「買い被りすぎですって。俺からすれば先生に感謝ですよ。琴美が引きこもってあまり日数が経っていなかったことが幸いしました。それに優秀な新入部員の確保にもつながりましたし。」


 「鈴原さんのこと、下の名前で呼んでるんだね。いつからそんなに親しくなったのかな?」


 並木先生の表情はころころ変わる。普段の優しそうな笑みから大人の女性、そして今はいたずらっ子のような。もともとの幼い容姿がそんな先生の印象をミステリアスに彩る。


 「部員のことはみんなファーストネームで呼び合うようにしてるんです。深い意味は特にありませんよ。」


 「誠君は天然の女たらしだから信用できないなぁ。それとも、女慣れは豊富な人生経験から来てるのかな?」


 先生の瞳の奥が怪しく光る。俺の背筋が凍り付く。


 「…先生は俺のこと、どこまで知ってるんですか。」


 正直、俺はどうすればいいのかわからなかった。この並木理子という女性の底が知れない。


 「わからないから、聞いてるの。でも、正直、私、誠君のこと高校生だとは思えない。」


 直球だ。こういうところでの直球は下手な変化球より質が悪い。沈黙は肯定と捉えられ、嘘には動揺が走る。


 この時理解した。並木先生も年齢相応ではない。あるいは俺と同じような2度目の人生を生きているのかもしれない。


 「…話せば長くなりますし、信じてもらえるかもわかりません。」


 「全部聞きたい。話して。」


 「先生のことも、話して頂けるなら。」


 「全部は話せないかなぁ。少しだけなら。」


 「それは…フェアじゃないですね。」


 「女性は秘密があった方が魅力的でしょ?それに…恥ずかしいじゃない。」


 「そうかも、知れませんね。わかりました。もうすぐGWです。先生もし都合の合う日があるのでしたら、二人でお会いしましょう。できれば、二人っきりになれるところで。」


 「わかった。連絡先、教えてくれる?」


 「いいですよ。俺、携帯うまく使えないんで先生にお任せします。」


 そう言って携帯を先生に渡す。先生は「私もそこまで得意じゃないんだけど…」と言いながら携帯を操作する。


 氷の解けかかったアイスコーヒーを飲みながら登録が終わるのを待つ。


 アイスコーヒーも飲み終わるかという頃、先生は俺に携帯を返してきた。


 「連絡は私からしたほうがいいよね?」


 「そうですね。助かります。僕から暇ですかなんて聞けないですから。」


 約束を取り交わし先生と別れる。もう日も長くなりかけているのに辺りはすっかり暗くなっていた。


 帰り道、先生のことを考える。取り留めのない考えが浮かんでは消える。


 重要な事柄だけでも今日話していた方が楽だったかもしれない。でも、覚悟が決まらなかった。あまりにも唐突すぎた。


 まとまりのない考えを振り払うようにとりあえず今は余計なことは考えないようにした。


***


 4月の登校日も今日で最後。明日からはGWという日、今日もいつもの部員と昼食を食べていた。すると扉の方に人影を見止める。


 「みんな、こんにちは!」


 あらわれたのは、1-4担任にして、現国教師、そして我らが天文部顧問。みんなのななちゃん先生こと深川先生だ。


 「お姉ちゃん。できたの?」


 美海はなぜ先生が部室に来たのか心当てがあるようだ。それにしても美海は教室でもお姉ちゃんと呼んでいるのだろか?


 「じゃーん!」


 先生が意気揚々と板を前に突き出す。”天文部”と書かれたルームプレートだ。


 「おぉー!!」


 みんなで歓声をあげる。深川先生はこの短期間で部の申請を済ませ部室としてこの多目的室をせしめ、部費の前借という名目で結構な金額を天文部予算として引っ張ってきている。


 それも度々保健室にサボタージュをかましつつだ。意外にも深川先生は優秀なのかもしれない。いや、保健室には強力なブレインが居たんだった。納得納得。


 ルームプレートを受け取ると美海がとててと部屋の外に出る。じーっとしばし元のプレートを眺めた後ガタタと椅子を持ち外のルームプレートを入れ替える。


 俺たちも外に出てその様子を伺っていた。


 美海がルームプレートを付け終わると「おぉー」とまた歓声が上がる。ぱちぱちとみんなで拍手をし、みんなでプレートを改めて見上げる。


 各々思うところがあるのだろう。しばしみんなで眺めた後、また室内に戻る。


 「みなさん!報告があります!」


 ビシッと人指差しを突き出し美海が宣言する。


 「おね…深川先生と相談の結果、本格的な部活はGW明けから!天体観測は金曜と土曜の夜に行うことになりましたー!うてん、どんてんは中止です!」


 ぱちぱちとみんなで賛成の意を込めた拍手を送る。


 「お昼はどうするの?」


 質問したのは、クラス女子のアイドル兼隠れオタクこと姫川優子だ。近頃は俺のメールアドレスを得て深夜のアニメ鑑賞後のメールがヤバい。思い出すと俺の語彙力がヤバい。


 「お昼は今まで通りみんなでここで食べます!」


 「部活は週末だけですかー?普段の部活はしないんですかー?」


 今度は、元引きこもりのエスパーギャルこと鈴原琴美だ。彼女も最近の優子氏の犠牲者の一人となっている。しかし、彼女もただやられっぱなしということではない。姫川氏の近頃の語彙力のヤバさは彼女の影響がヤバくてヤバい。一番の被害者俺じゃないですか、やだー。


 「放課後はここで勉強します!みんなで教えあいます。」


 おっと、美海さんホント逞しくなりましたね。知ってますよ。なかなか勉強追いついてないみたいじゃないですかー。


 「それ助かるー。あたしもやばくてさー。」


 助け舟を出すのは再びの琴美さん。まぁ琴美さん、2週間以上学校来てなかったんで仕方ないですよね。でも、知ってるんですよ。休んでた期間結構勉強はなさってたんでしょ。


 「私も来れるときは来るから。みんなでわからないところは教えあいましょう。先生としても、この部活から補習者は出せないのよ。教頭先生に怒られちゃうし。」


 なるほどー。妹さんに入れ知恵したのはやっぱりこの人だったかー。しかも後半、本音漏れてますよ。


 「俺も賛成だな。俺も勉強のわからないとこちゃんと解消しときたい。真一、家のこととか忙しいのかな?」


 「大丈夫。妹ももう中二だから。下の子のこと見てくれる。」


 そう答えてくれるのは無口な強面女子(♂)こと細田真一だ。キミ、もっと会話に参加してくれなきゃ存在忘れちゃうぞ♪いや、無理だわ。こんなゴツイ奴の存在忘れるわけがない。


 しかし、彼も最近みんなが話しているのを聞きながら幸せそうな笑みを浮かべていることを俺は知っている。彼は自らが話さなくてもしっかり会話に参加しているのだ。


 「では皆さん、よろしくおねがいしまーす!」


 美海はそう高らかに告げぺこりと頭を下げる。そしてみんなで拍手を送る。いよいよ部活か。楽しみだな。



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