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「いいよ。何かな?」
「お父さんって、どんな人でしたか? 私、お父さんのことよく覚えてないから……」
度会さんは言葉を探すように目を伏せてから、ゆっくりと語り出した。
「……お父さんは優しくて、いい人だったよ。人を傷付けるのも、人に傷付けられるのも嫌いな人で、ケンカなんて一度もしたことなかったな。初めて会ったのは中学一年生の時で、同じクラスだったんだ。お父さんは大人しくて、あまり自分から人に話し掛けるタイプじゃなかったけど、科学部に入部したのは四人しかいなかったから、自然と仲良くなったんだよ。学校は公立だったから、とにかく予算がなくて、大した活動はできなかったけど、お父さんは趣味で簡単なプリンターを作ったりするような人だったから、機械系エンジニアの道に進んだんだ。お母さんとは就職してしばらくしてから、信号無視の車にぶつけられて、救急車で運ばれた病院で出会ったそうだよ。アプローチしたのはお母さんが先だったけど、本当は自分から誘いたかったってお父さんは口惜しがってたな。流石にプロポーズはお父さんからしたって言ってたけど。お母さんと結婚して、和己君達が生まれた時には、お父さんは本当に喜んでたよ。お父さんはその辺の見ず知らずの子供でもあやしたりするような、子供好きな人だったからね。だからあんな形で和己君達と別れることになって、お父さんは本当に無念だったと思う。でも和己君達が今もこうして元気でいてくれて、こんなに大きくなってくれて、それだけでお父さんは無念さを引き摺らずに、とても安らかな気持ちで眠れてると思うよ。さっきも言ったけど、お父さんは優しい人だったから」
私は少し泣きそうになった。
度会さんはお父さんのことを優しい人だと言うけれど、度会さんもとても優しい人だと思う。
お父さんがいなくなっても、ずっとお父さんのことを忘れずにいてくれて、お父さんの子供の私達のこともこんな風に思いやってくれるのだから。
私は涙が零れ落ちないように瞬きの回数を増やすと、声が震えないように気を付けて度会さんに言った。
「……度会さん、お父さんにずっとメールしてくれてるって、この間おばあちゃんから聞きました。良かったら、これからもお父さんにメールしてあげて下さい。お父さんも待ってると思いますし、おばあちゃん達も喜びますから」
「うん、そうするよ」
度会さんはにこりと笑ってそう言った。




