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その夜。
今日はお母さんの仕事が休みだったから、一週間振りに家族揃ってお夕飯を食べることができた。
いつも仕事を頑張ってくれているお母さんには先にお風呂に入ってもらうことにして、私はお兄ちゃんと食器の後片付けを引き受ける。
お兄ちゃんもアルバイトで疲れているだろうけど、「面倒臭い」と文句を言いながらもちゃんと手伝ってくれた。
何だかんだ言いながら、いつもサボらずに手伝ってくれるんだから、これで文句さえ言わないでくれたらと思うけど、それは欲張りというものだろうか。
私がお皿を洗う係、お兄ちゃんが泡を流して拭く係で、私はたっぷり泡の付いたスポンジでコップを洗いながら、隣のお兄ちゃんに訊いた。
「どうだった? ちゃんと度会さんと話せた?」
お母さんは一度お風呂に入ると、ざっと三十分は出て来ない。
おかげで、気兼ねなくお父さんに関係する話をすることができた。
お兄ちゃんはコップに付いた泡を洗い流しながら、私の質問に答える。
「話せたよ。次の土曜に度会さんと会うことになった」
「私も結城さんに電話してみたんだけど、結城さんの番号はもう使われてなかったんだよね。電話番号だけでアドレスは登録されてなかったし……。度会さんなら結城さんの連絡先、わかると思う?」
「んー、どうだろうなあ……『類は友を呼ぶ』って言うし、父さんの友達なら女友達なんていそうにない気もするけど。でもまあ、SNSもあるし、直接の繋がりはなくても交友関係を辿って行けば、どっかで繋がってるってのは有り得る話だよな。結城さんが学生時代の友達じゃなくて、仕事の同僚だったりすると、ちょっと無理があるだろうけど」
「だね」
結城さんが中高生くらいの交友関係の人だといいけど、お兄ちゃんが言うように、度会さんが知らないだろう会社の同僚の人だったりする可能性もある訳で、そうなると手掛かりが途切れてしまう恐れもある。
現実は物語みたいに物事が全部都合良く進む訳じゃないと、頭ではそうわかっているけれど、都合良く進んでくれたらいいと思わずにはいられなかった。
私達にできるのは、ただ目の前の手掛かりを一つ一つ辿って行くことだけだから、それが上手く行かなくなったら、できることがほとんどなくなってしまう。
私は祈るような気持ちで、黙々と残りのお皿を洗った。




