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私とお兄ちゃんは玄関前に揃えて置いてあったスリッパに履き替えると、玄関の前にある階段をおばあちゃんの後に付いて上がり始めた。
おばあちゃんは階段を上がり切ると、一番手前のドアを開けて、私達を部屋の中へ通す。
そこは、私の部屋より少し狭いくらいの広さだった。
しばらく前からエアコンをつけておいてくれたみたいで、中はかなり涼しい。
ドアの正面に横向きに置かれた勉強机の奥には本棚があるけど、本はほとんど並んでいなかった。
大きな窓の横に設えられたコンセントには、携帯電話の充電器のプラグが差さっていて、分厚い二つ折り携帯電話――確かお父さんが使っていた物だ――が充電中だ。
そして部屋の真ん中には、折り畳み式の低いテーブルと、それを囲む四枚の座布団が置かれている。
弓納持のおばあちゃん達から送ってもらったダンボールは、ほとんど手付かずでそのままになっているみたいで、部屋の隅にはダンボールが何箱も積まれていた。
ここはお父さんの部屋なのだろう。
きっともう何年も使われていないだろうに、きちんと掃除がされていて、少しも埃っぽくはない。
私達が来るから今日だけ掃除をしたのだろうけど、長い間使われていなかった部屋をちょっと掃除したくらいじゃ、こうはならない気もするし、もしかしたら毎日掃除をしているのかも知れなかった。
「狭くてごめんなさいね。お茶持って来るから、適当に座ってて。この部屋にあるのは全部お父さんの物だから、ダンボールを開けちゃってもいいし」
おばあちゃんがそう言うと、お兄ちゃんはクッキーの入ったビニール袋をおばあちゃんに差し出した。
「口に合わないかも知れないけど、クッキー持って来たから、良かったらじいちゃんと一緒に食べてよ」
何てことない一言だったけど、おばあちゃんは急に呆けたようにお兄ちゃんの顔を見た。
さっきまで普通にしていたのに、急にどうしたんだろう。
認知症か何かだろうかと、ちょっと心配になっていると、我に返ったおばあちゃんが慌てて言った。
「ご、ごめんなさいね。和己君が若い時のお父さんにあんまりそっくりだから、そうやって普通に話してくれると、何だかお父さんが帰って来たみたいで……」




