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「そう? お兄ちゃん、確かちゃんと家事してくれてるんじゃなかった? 家事できる男の人って人気あるみたいだし、性格さえ極悪じゃなければ、案外すんなり結婚できそうだけどなあ」

「あ、そっか。余所から見れば悪いところだけじゃなくて、いいところもあるんだよね」


 家事をするなんて、片親しかいない私の家だと当たり前のこと過ぎて、長所だとは全然思えなかったけど、夫婦共働きの家が珍しくない今時でも家事ができない――しない男の人はいるそうだから、そういう人と比べたらお兄ちゃんは確かに人気があるのかも知れなかった。


 ちょっと変わってはいるけど、性格は穏やかだし、勉強もできるし、顔立ちだって悪くないし。


「お兄ちゃんにも砂粒くらいの希望が見えてきた気がするよ。まあ、お兄ちゃんは恋愛とか結婚に興味ないのかも知れないけど」


 私がそう言うと、今度は神奈ちゃんが訊いてくる。


「お兄さんとは、あんまりそういう話はしないの?」

「お姉ちゃん相手なら、多少年が離れててもそういう話もするかなって思うけど、ウチはお兄ちゃんだからねえ。子供の頃はもっと話してて、ほとんど毎日ケンカしてたくらいだけど、このくらいの年になると、そもそもあんまり話すことないなあ……まあ、中には年頃になっても何でも話し合う感じの、物凄く仲のいい兄妹もいるのかも知れないけど」


 黙って私と神奈ちゃんのやり取りを聞いていた清香ちゃんが口を開いた。


「いくら兄妹でも日和ちゃんは女の子だし、お兄ちゃんからしたら、そういう話するのはちょっと照れちゃうのかもね」

「うん、こっちもちょっと気まずいかな。そういう話されても、正直反応に困るし」


 私が特に意味もなくストローでコーラに浮かぶ氷を沈めていると、清香ちゃんがうんうんと頷きながら言った。


「何となくわかるよ。お父さんと恋愛とか結婚の話するのは嫌だなって感覚に近いんだよね、多分」

「そう、そんな感じだと思う」


 私はそう相槌を打った。


 正直なところ、お父さんを十年も前に亡くしている私には、清香ちゃんの喩えはピンと来ないところもあったけれど、言いたいことは大体わかる。


 そして同時に、私は所謂「普通」の家の子じゃないのだと、改めて思い知った。


 片親だけの家なんてそう珍しくもないから、そのことに引け目を感じたりはしなかったけど、こういうふとした時に、私が失くしてしまったものを当たり前に持っている子がいるのだと実感せざるを得ない。


 お父さんがいなくても、私にはお母さんもお兄ちゃんも、おじいちゃんやおばあちゃんだっているし、自分を可哀想だなんて、思ったことはないけれど。

 

 私は余計なことを言ってしまわないように、黙ってストローに唇を付けた。






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