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でも、お兄ちゃんの仮説が正しいとは、ちょっと考え難かった。
「お母さん、誕生日十二月だよ? 事件があったのは八月だし、プレゼント選びにはちょっと早過ぎない?」
「確かに四ヶ月も前だもんなあ……確か結婚記念日は三月だった筈だから、こっちも時期外れだし……」
「結局、よくわかんないね」
「だな」
私もお兄ちゃんも、それきり何となく黙り込んでしまった。
おばあちゃんが『お父さんは浮気をしていた訳じゃないかも知れない』と言ってくれた時には、少し真相が見えてきたように思えたのだけれど、むしろ謎が深まった気もする。
伊武のおじいちゃん達から話を聞けたら、お父さんがあの時一緒にいた女の人が誰かはわからなくても、一緒にいた理由の見当くらいは付くのだろうか。
私はそんなことを考えながら、静かに沈黙を破った。
「……ねえ、もしお父さんが不倫してなかったってわかったら、その時はお母さんに話す?」
「そりゃあ、真相の内容によるんじゃねえかな。不倫の方がマシだった、みたいな真相に辿り着く羽目になったら、黙ってる方がいいだろうし」
不倫より酷いことなんてそうはないと思うけど、私達にとって都合のいい真相に辿り着かないどころか、知りたくないことを知ってしまうかも知れないことに気付いて、私は少し怖くなってきた。
何か私の想像も付かないような、とんでもない事実が明るみになったら、どうすればいいのだろう。
「……お兄ちゃんはさ、真相知るのは不安じゃないの?」
「不安って……元はと言えば、お前がやろうって言い出したんだろ。まあ、墓場まで持って行くしかないような秘密なんてできれば抱えたくねえけど、誰かに話したい時には日和がいるし、何がわかってもどうにかなるだろ」
お兄ちゃんの口調は相変わらず深刻さの欠片もない、呑気なものだったけど、その言葉が私にはとても心強かった。
お互いがいるから、私達は決して一人ぼっちじゃない。
一緒に秘密を分かち合うことができるし、その重さも半分にできるだろう。
私は物凄く久し振りに、お兄ちゃんがいて良かったと思えた。




