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私とお兄ちゃんは「お邪魔します」と言って靴を脱ぐと、脱いだ靴をきちんと揃えて向きを変える。
おじいちゃんもおばあちゃんも行儀が悪いのは大嫌いだったから、私もお兄ちゃんも自然とこれくらいのことは身に付いた。
私達はスリッパを履くと、踵を返したおばあちゃんの後に付いて、直角に折れ曲がった短い廊下を歩いて行く。
その先には、松を描いた襖があった。
おばあちゃんは「開けるわよ」と、中にいるらしいおじいちゃんに一声掛けてから襖を開ける。
中は居間になっていた。
部屋の奥の壁には電源の入ったエアコンが設えられていて、冷たい空気が廊下の外に流れ出してきている。
部屋の真ん中には炬燵付きの四角い座卓が置かれていて、座卓を囲んで敷かれた四つの座布団の一つ――一番テレビに近いそれの上で、甚平姿のおじいちゃんが胡坐を掻きながらテレビを見ていた。
「お茶持って来るから、適当に座っててね」
そう言い置いて立ち去ろうとしたおばあちゃんを、お兄ちゃんが呼び止める。
「あ、待って。これゼリーなんだけど、良かったら食べて」
「あら、ありがとうね。じゃあ、冷蔵庫に入れて来るわ」
おばあちゃんは紙袋を受け取ると、今度こそ台所へと向かった。
私とお兄ちゃんが中に入って襖を閉めると、おじいちゃんは体ごとゆっくりと私達に向き直る。
お母さんと同じ柔らかい髪質の短い髪は、もうほとんど白くなっていた。
きりりとした眉や眼鏡の奥にある目が、お母さんの面影に重なる。
いかにも元先生らしい真面目そうな顔立ちは、どんな小さな不正や非行も許さないような厳しさを感じさせるから、ちょっと怖く思う人もいるかも知れない。
話してみれば、穏やかないい人なのだけれど。
「よく来たね。二人共元気そうだ」
おじいちゃんがわずかに目を細めてそう言うと、お兄ちゃんが口を開いた。
「じいちゃん達も元気で良かった。母さんも元気にしてるよ。今日は仕事で来られなかったけど、『おじいちゃん達によろしく』って」
お兄ちゃんがおじいちゃんの向かいの座布団に、私がお兄ちゃんの左隣――襖に一番近い座布団に正座したところで、おじいちゃんが私に顔を向けてくる。




