―48―
お兄ちゃんは私より歩幅が大きいし、歩くのも速いから、私はどうしても遅れがちになって、小走りでお兄ちゃんに付いて行った。
そうして五分くらい歩いてから、私達はとある一軒家の前で足を止める。
木造の古びた平屋。
昔は瓦屋根だったそうだけど、阪神大震災で瓦屋根が落ちてきたことによる被害が少なからず出たことをきっかけに、わざわざプラスチックの屋根に変えたそうだ。
それ程大きくない家の周りは灰色の塀で囲われていて、木の表札には「弓納持」と書かれている。
お兄ちゃんは玄関の前に立つと、インターフォンのボタンを押した。
中から「はーい」というおばあちゃんの聞き慣れた声が聞こえて、引き戸ががらりと音を立てて開く。
引き戸の向こうで、ショートカットにしたおばあちゃんの灰色の髪が小さく揺れた。
ゆったりとした焦げ茶色のチュニックに、白いパンツ姿。
お母さんとは実の親子だけど、はっきり言って似ていなかった。
お母さんが掛けていない眼鏡を掛けているせいもあるだろうけど、おばあちゃんはお母さんよりも優しい、レースやフリルが好きそうな可愛らしい顔立ちで、雰囲気も柔らかい。
六十代前半のおばあちゃんに向かって「可愛い」なんて言うのは変かも知れないけど、でも「可愛い」という言葉がおばあちゃんにはよく似合っていた。
「久し振り」
「こんにちは」
お兄ちゃんと私が口々に挨拶すると、おばあちゃんはにこりと笑った。
「いらっしゃい。さあ、入って入って」
おばあちゃんが戸口から退くと、私達は早速家の中に入った。
ここに来たのは久し振りだけど、少なくとも玄関に変わった所はなさそうだ。
上がり框との段差が大きい靴脱ぎに、靴脱ぎの隅に置かれた木製の下駄箱。
淡い紫の花の玄関マットには、おばあちゃんの几帳面さを示すように、お揃いの紺色のスリッパがきちんと揃えて並べられていた。




