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あれこれ無神経に詮索してきたり、吹聴したりするような子達じゃないとは思うけど、二人が悪意なくうっかり話してしまうこともあるし、インターネットに情報が流れたりしたら、完全には消すことができない。
世間で大した話題になった事件でもないから、面白がって情報を拡散する人がそれ程多いとも思えないけど、余計なことは言わない方がいいだろう。
せっかく引っ越しして、苗字まで変えて静かに暮らしてきたのに、万が一にもこの生活を壊されたくなかった。
それにいきなりこんな話をされても、きっと二人共困るだろう。
不幸話を聞かされると気まずいのか、大抵の人が「何か言わないと」と思うみたいだし。
事件当時、私はまだ保育園児だったから、事件のことを知らない友達も多かったけど、大人は知っている訳で、中には「元気出してね」とか「可哀想に」なんて言ってくれる人もいた。
気に掛けてくれるのは優しさだと、子供ながらにわかってはいても、何だかもやもやしたし、むしろ黙っていつも通りに接して欲しかったのに。
もやもやの理由は自分でも何だかよくわからなかったけど、大きくなるにつれて、「あの日を過去にできない気がするから」なのかなと、ぼんやり思うようになった。
お父さんがいなくなっても私は生きて行かないといけないのに、周りに「可哀想」がられていると、いつまでもあの日に引き戻されてしまう。
お父さんのことを忘れたい訳じゃないし、忘れることなんてできないけど、あの日のことは過去にして、時々振り返るくらいが丁度良かった。
だから、ただそっとしておいて欲しい。
秘密を話せないような関係は本当の友達じゃないのかも知れないけど、これは作ることを咎められるような秘密じゃないと思うし、自分に友達が一人もいないなんて、そんな風には思いたくなかった。
二人は私の友達。
でも、事情を話せない以上、あの『毛倡妓』探しで二人の力は借りられない。
お兄ちゃんと二人で頑張るしかなかった。
二人でどこまでできるかわからないけど、とにかくやるしかない。
私は心に勢いを付けるようにペダルを強く踏み込んだけど、ひどい暑さのせいか、駅までの道のりがいつもより遠く思えた。




